2010-06-27 Sun
金子智太郎さんからメールをいただいて、彼が城一裕さんと共同で主催している「生成音楽ワークショップ第2回」に行ってきました。前回、東工大で行われた第1回は、スピーカーの上でマイクロフォンを揺らすスティーヴ・ライヒ「振り子の音楽」の実演でした(残念ながら行けませんでした)。
今回は何とアルヴィン・ルシエ「Music on a Long Thin Wire」を実演とのこと。どんな壮大なことになっているのかと会場の原宿VACANTへ。ちなみにこの企画はInterferenze Seeds Tokyo 2010の一環として行われています。
会場は木張りのカフェみたいな空間。ヴィデオ・インスタレーションのモニターが壁際に並ぶ中、スペースの中央付近に「Long Thin Wire」がありました。ワイヤーの長さは3mというところでしょうか。録音されたヴァージョンでは確か24mだったから、1/8程度のスケールということになります。
作品の傍らに待機していた金子さんから発音原理を説明してもらいました(装置全体の構成は下図を参照)。2つのテーブルの間に長く張り渡された針金の両端がアンプに接続され、さらにアンプには正弦波発振機(オシレーター)が接続されていて、出力は電気信号として針金に流され、針金の一方の端に置かれた磁石に反応して(電磁誘導の原理)、針金が振動します。これ自体でも音は出ているのだけれども、それをさらにコンタクト・マイクで拾って増幅し、スピーカーから会場に流します。振動する針金は空間にさらされているので、このスピーカーの振動をはじめ、会場全体の様々な振動の影響を受けて、その音は刻々と変化していきます。
金子さんの説明をうかがいながら、ワイヤーの音に耳を傾けていると、確かに響きが揺らいでます。周期的なうねりとも違って。会場に人が多くなった時の方が、揺らぎが大きいかな。面白いのは磁石を動かして、磁力の影響を変えても音があまり変化しないこと。電磁誘導の原理からすると、磁石との距離は影響が大きいはずなのに。あとオシレーターのダイアルを回して振動数を変えると、これは「ウニューン」という感じで明らかに音が動きます。ダイアルを動かし続ければ、ある種の「演奏」はできるけど、これは単にエフェクトかましてる‥という感じで、あまり面白くないなー。むしろ、放っておいた方が、急に陰から違う音が立ち上ってきたりして、予測不可能な面白さがあります。
この作品に対してもともと持っていたイメージとして、振動が畳重しながらだんだん響きが豊かに厚くなっていくのかなと思っていたけど、今回はワイヤー自体の振動の弱さもあって、むしろ周囲からの影響のランダムネスが効いているみたいですね。人が増えると振動が増すけど、それだけ音も吸うから、ワイヤーへのフィードバックは強まるのか弱まるのかよくわからない。これは一筋縄では行きませんね。ポジティヴとネガティヴのフィードバックの綱引き。これはまさに周囲の環境が、この細いワイヤーの振動に映り込み、このワイヤーを通して鳴っているということでもあります。
金子さんによれば、ルシエはこの作品を「ポータブルなもの」と言っているとのこと。長さ24mの巨大インスタレーションがポータブル?と思うけど、今回の「エコノミー」ヴァージョンを体験すると、なるほどと感心します。ある空間に設置することで、その空間の性質-それは広さやヴォリュームはもちろん、反響特性、伝播特性(気温に関係)、ノイズや振動の特性などが織り成す複雑な関係性なわけだけれど-が細い針金を通して姿を現していく。この装置の大きさだったら、実際どこへでも運んでいって鳴らせそうですね。設備点検日で人のいないコンサート・ホール、地下貯水池、廃校の教室、展示準備中のがらんとしたギャラリーなどなど。
それともうひとつ感心したのは、今回の装置をセッティングして試したら、すぐに音が出たんだそーです。通常のサウンド・アートのインスタレーションだと、そんなことほとんどないんだって。そうした「汎用性」は、発音と相互干渉による変化の原理を全て眼の前にさらしている「透明性」とともに、この作品の完成度の高さを物語るものでしょう。たいていの場合、サウンド・アートをはじめメディア・アート系のインスタレーションって、発生原理の部分がデジタルにブラックボックス化されていて、結局、アーティストの意図のプレゼンテーションになってしまい、しかも再現性(=汎用性)がないから、そこでの体験が特権的に神話化されてしまいやすいですよね。実は経験としては全然たいしたことないのに、コンセプトだけ評価されてしまうみたいな(最近出たアラン・リクトの本もそうした神話/伝説型ですね)。その点、ルシエは偉いな。そうしたルシエの偉さは、むしろ今回の「エコノミー」ヴァージョンに鮮明に示されていると思います。
今回、他の展示と混在して設置されたために、会場を訪れても、この装置や装置が立てていた響きに気がついた人は少なかったかもしれません。でも、リチャード・マックスフィールドがNYのマンホールから流した響きに、当時リアルタイムで気がついた人だって少なかったはず。本当はたまたま通りかかった理科実験大好き小学生が音に気付き、何の音だろうと探っていって装置を見つけ、傍らに座り込みじっと眺めている‥なんてことが起こるといいんだけどなー。これはむしろ「でんじろう」先生の世界ですね。ほとんどのサウンド・アートは、「でんじろう」先生に負けていると、小学校で理科部に所属し、理科実験教室にも通っていたワタシとしては強く思います(小学生の頃のワタシが好きだったのは、化学実験の方でしたが)。
実は明日(もう今日か。韓国惜しかったなー)27日(日)もやってます。ぜひ体験してみてください。
会場や時間等の詳細は、次の金子智太郎さんのブログを参照してくださいね。http://d.hatena.ne.jp/tomotarokaneko/
城一裕画伯による今回の装置の図解。うーん。わかりやすい。

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