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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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カタストロフの近傍 補足 Neighborhood of Catastrophe (Supplement) - Stackenas&Nakatani@Barber Fuji 21st Feb.2011
 前回レヴューしたライヴの主催者であるバーバー富士店主松本渉さんが、自身のブログでレヴューを紹介してくださいました(URLは以下の通りhttp://air.ap.teacup.com/scissors/)。ありがとうございます。演奏が良くていいライヴでした。今回の来日ツアーの記録動画がすでにyoutubeにアップされていて、それを見る限りでは、新宿ピットインより、バーバー富士の方が集中度が高くてずっと良かったんじゃないかなーと。たぶんこれは演奏スペースのアコースティックも影響しているのでは。デュオ演奏動画のURLはこちら(http://www.youtube.com/watch?v=6v4valYVbug&feature=related)。やっぱりゲスト入りよりもデュオの方がいいですね。

 松本さんは私のレヴューの語彙の豊富さを指摘してくれたが、これはその時に繰り広げられた演奏自体が、様々な表現を駆使しないととてもとらえきれない、スパンが広く、遷移の激しいものだったことを意味している。フツーの音楽表現用語では、とてもではないけどファインダーにとらえられないというか。
 ライヴ中に取ったメモには大量の言葉が残されているのだが、それを細かく再構成してもライヴのめまぐるしい躍動感は甦らない。細部のクロースショットと全体を俯瞰でとらえたロングショットのカットアップや、そうしたイメージの流れ/連関を一回解きほぐして、言葉を発酵させ、新たなイメージへと集約することで時間を一気に圧縮したり‥とそんな操作が必要になってくる。

 ライヴ動画のURLを載せておいてこんなことを言うのも何だが、演奏のアクションにとらわれず、むしろそこから切り離して、音にこそ耳を傾けてみてほしい。レヴューでも少し触れたが、視覚の力は強大で、「ああ、この音はこうやって出してるのか」と思った瞬間にはもう、「WHAT」が「HOW」に取って代わられて、何となくわかったつもりになってしまう。反対に動きに注目するのなら、今度は結果としての音を切り離して、身体の運動にだけ感覚を集中させてみるとよい。そうすれば「あ、叩いた」、「今度は擦った」‥というような、個々の「動作」(それはどうしても目的/結果と分かちがたく結びつけてとらえられてしまう)の連なりではなく、あるムーヴメント、アクションの集合体があり、それが発芽し、枝を伸ばし、分岐するように、個々の流動性を発現させる様が見えてくるだろう。私はそれを旋回運動の重ね合わせとして描写/分析したが、当然、別の視点/とらえ方も可能だろう。

 「旋回運動」のイメージは、アフターアワーズに中谷にお願いして、購入したCDにサインしてもらっている時(まあ何てミーハーな‥)に、ふと閃いた。彼はさらさらとサインしたペンをそのまま滑走させ、くるくるとフリルを付けてなお止まらず、そこに点々を打ち始めた‥。それをあっけにとられて見ていた私の頭には、相似型に増殖するフラクタル図形のCGが一瞬浮かび、次いで「縁日の焼きそば」と評した彼の動きがフラッシュバックし、演奏中ずっと「楽器/対象をとらえヒットすると言うより、一連の運動が先にあって、それが楽器や音具を巻き込んでいく感じだなー」と漠然と感じていたことと結びついて、「旋回運動」という語に行き着いた。ちょうどその時に思い浮かべていたのは、大小のフラフープを一度にたくさん回すアクロバット芸人の姿だった。膝や肩に掛けた小さな輪はくるくると素早く回り、手首を通した中ぐらいの輪はそれよりゆっくり回転し、腰に引っ掛けた大きな輪は、惑星の軌道のように悠然と周期を巡る。これらの回転する輪を、吊り下げられた様々な材質/形状/大きさの鐘やベルに当てれば、それぞれに違った音色/音高/周期で鳴り響く。それが重なり合い、互いに干渉して、さらに複雑な音響を生み出せば、それは蔓植物やシダ類の繁る響きの熱帯雨林と化すだろう。中谷の演奏/アクションは(そして演奏/音響も)まさにそんな感じだった。



新宿ピットインにおけるデュオ演奏
(youtube動画から)



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ライヴ/イヴェント・レヴュー | 23:53:09 | トラックバック(0) | コメント(0)
カタストロフの近傍 Neighborhood of Catastrophe - Stackenas&Nakatani@Barber Fuji 21st Feb.2011
 急に思い立って、はるばる上尾までライヴを聴きに出かけた。運良くライヴならではの一期一会の悦びを味わうことが出来た。しかし、この高水準の演奏で聴衆が4人というのはあまりにもったいない。デュオの演奏機会はまだ残っている。演奏会場に急げ!
 どんな音かをひとことで言えば「仏壇と食器棚をなぎ倒して、その上でマダガスカル・ギターを弾いている」感じだろうか。「そんなんじゃわからない」という人は、ぜひ下のライヴ・レヴューを読んでみてください。


Stackenas&Nakatani Japan Tour 2011

デヴィッド・スタッケナス  David Stackenas(guitar, objects, low budget electronics)
中谷 達也 Tatsuya Nakatani (drum, gong, cymbal, objects)

2/24(木) 大分 At Hall  共演:山内桂 (sax)  097-535-2567
2/25(金) 神戸 Big Apple  ソロ&デュオonly  078-251-7049
2/26(土) 千葉 Candy  ソロ&デュオonly  043-246-7726



1.横たえられたギターの生み出す音景

 デヴィッド・スタッケナスはプラスチック製の直定規に几帳面にワックスをかけると、低いガラスのテーブルの上に横たえられたアコースティック・ギターに向けて振り下ろした。定規を弦に垂直に立ててゆっくりと前後に動かす。その響きは弓弾きらしいまとまりを欠いて、ちりちりと小刻みに震えはじけとび、細い軌跡がもつれあうようにたなびいていく。手がぶるぶると震えている。弦との接触を一定に保つのに相当筋肉を酷使しているのだろう。するとちりちりとスチールウールのように絡まりあっていた響きが、茶葉がジャンピングするように中域と高域の2層にすっと分かれ、あるいはオーロラのように響きの裾をひらめかす。プラスチックの弾性が弦との共振のポイントを様々にずらしているのだろうか。彼はe-bowに手を伸ばし、弦に押し当てて定常的に振動させながら、その間にスティックをねじ込む。たちまち、たわんだ弦から引きつったモワレが広がる。それを見つめるスタッケナスの眼差しはまるで実験好きの理科教師のようだ。あきれたことに、ついにはe-bowを3つも一度に弦に乗せてしまう。振動が干渉しあい、フィードバック状の「さわり」をつくりだし、空中に濃い銀色と薄いアルミ色が浮かぶ。そこに金属の細いスティックを軽く当てると、弦に跳ね上げられ、カンカンカカンカンカカンカンカンカキンカキンカクン‥‥と自動織機の動作音を思わせる甲高く乾いた金属音が耳を打つ。
 様々な音具を用いた特殊奏法によるテーブル・ギター演奏は、たいていの場合、それぞれの音具が持っている特定のサウンド・シークェンスに頼って、絵葉書にも似た音景色の切り替えだけに終始してしまう。しかし、彼は複数の音具を使い、それを互いに干渉させながら、指先と耳の両方で危うい均衡を楽しみ、危険なカタストロフを飛び越え、貪欲にサウンドの探求を進めていた。


2.サウンド・イメージの散乱
 
 ワイン・オーブナーのスクリュー部分をもっとぐるぐると捻じ曲げた‥そんな形をした針金で、中谷がドラムの打面に勢いよく弧を描くと、怪獣の鳴き声が立ち上がる。もっと大きなシンバルを金属のボウルで打面に押し当て、その端を弓で弾くと、また違ったかたちがさらに高く立ち上がり、互いに交響しながら複雑な伽藍をかたちづくる。銅鑼の弓弾きにより厚い響きの雲海をつくりだしながら、しかし彼はエディ・プレヴォーのようにそれを少し離れて眺めやろうとはしない。彼はそうした倍音の構築がもたらす荘重さにほとんど関心がないようだ。浮かび上がった景色はすぐさま新たな線や色を加えられ、まったく書き換えられ、あるいは塗りつぶされて、あっさり破り捨てられる。両手にシングル盤ほどの大きさの小シンバルをつかんで、まるで縁日の焼きそば屋台のような勢いで打面を擦りまくり、フロアタムの上に伏せた大きな金属製のボウルにバイブレーターを放り込み、大小のおりんを載せたスネアに、ハン・ベニンク顔負けの派手なドラム・ロールをかます。
 いま思わずベニンクの名前を挙げたが、次のアクションを探す「途中の身体」をすら舞台にさらす彼のダダ演劇的なパフォーマンスほど、中谷の演奏と遠いものもあるまい。あるいは壁を叩いたかと思うと、グラスの氷をかき混ぜる豊住芳三郎の、フリー・ジャズの連続性を随所で脱臼させせる試みも。中谷の演奏は文脈をつくらない。束の間浮かび上がる音景は、すべて聴衆の勝手な投影であり、一人ひとりが違ったものを見ていることだろう。特に彼のせわしなく、それでいて澱みない動きから眼を逸らし、発せられる音だけに意識を集中させるならば、それは身体の運動という「根拠」(実はそれは仮初めの着地点に過ぎない)を欠いて、サアンド・イメージを野放図に散乱させる。チベット密教の祭儀を思わせる低音の咆哮と金属音の目映いきらめき。古ぼけた町工場の旋盤の振動に震えるガラス戸とトタン屋根。カフェテリアの喧騒と白い湯気。仏壇と食器棚がなぎ倒され、皿か飛び散り、くわんくわんと響きを歪ませながら仏具が転がっていく。


3.デュオの関係性

 スタッケナスはギターの弦を引きちぎらんばかりに掻きむしるかと思えば、ヴォリューム・ペダルを巧みに操って、水中のセロファンのように音をたなびかせ、あるいは劣化して輪郭がとろけたテープ・ループにしか聞こえないリフレイン(マダガスカル・ギターを思わせるざっくりと編まれた手触り)を弾いた。時にデレク・ベイリー的な断片化とユージン・チャドバーンの狂騒性の間を往還しながら、彼は中谷の間断なく(そして一見脈絡なく)変化するサウンド、その中華鍋をかき回すような圧倒的な流動に対し、もっぱらドローンとリフレインを提供した。結果として、これは実に効果的な戦略だったと言えるだろう。
 彼ら二人に共通する特質は、騒々しくクラッシュした音色への好み、カートゥン・ミュージック的な急加速と疾走感への傾きなど幾つか挙げられるが、軸となっているのは何よりもサウンドに対する貪欲さだろう。彼らは(様々な音具の選択/使用を含む)アクションに浸りこむのではなく、それを突き抜けてサウンドを更新することを目指す。一例として、中谷によるシンバルの「吹奏」を挙げよう。彼は中小のシンバルを手に持って演奏するが、時にその中心に穿たれた穴に激しく息を吹きかけて音を出す。この「吹奏」を、ドラムの打面に載せたシンバルに対して行うと、シンバルの振動がドラムに共鳴し、ただの風切り音ではなく、打面をシンバルで擦った場合と同様、メタリックなうなりとなる。しかし、おそらくは打面への密着度や立ち上がりのエンヴェロープの違いによるものなのだろう、そこには角笛やほら貝に似た「息」の響きが確かに手触れるのだ。


4.演奏の「筆脈」

 彼らはこうして安易なコール&レスポンス、見せ掛けの呼応に頼ることなく、今のサウンドに何を付け加え、何を差し引くべきかだけに集中する。その結果、様々な部分/断片により構成されていながら、彼らの演奏はコラージュの印象を与えない。コラージュが前提としている「切断」や、さらにその前提である「輪郭」が強調されないからだ。彼ら、特に中谷のアクションはそうした「切断」を持たない、埋めるべきグリッドの空白を前提としない、むしろ一連なりのものとして現れてくる。彼の動きを見ていると、ゆるやかな、あるいは素早い幾つかの旋回運動が重ねあわされており、そのフラクタル図形にも似た渦巻きの中に、楽器や様々な音具が巻き込まれていく‥といった印象を受ける。
 書道で「筆脈」という言葉がある。字を記す時には、それを構成している各線を順番に書き連ねていくわけだが、そこには一連の流れがあり、「はね」や「はらい」はそこで終わらずに、次の起筆へと連続していく。たとえ筆が紙から離れても、それは軌跡が跡付けられないだけであって、運動は継続しており、尽きることのない流れが新たなかたちを生み出していく。まさに流動が生成をもたらすのだ。中谷のアクション/演奏には、まさにこの「筆脈」がありありと感じ取れる。あれほどに苛烈な強度を込めて放たれながら、音は決して「出しっぱなし」に終わらず、演奏者へと還ってくる。この回帰が続くアクションをさらに加速させていく。いわゆる「音響派」及びそれ以降の即興演奏において、音を発するまでにはさんざんこだわり勿体をつけるくせに、放たれた(出てしまった)音に対してははなはだ無頓着な演奏者の多い現在、彼のような存在は極めて貴重と言えるだろう。
 演奏はさらに加速し、激しくワインディングして積荷を振り落としながら、なおも続けられる。棚から皿が滑り落ち、サウンドがクラッシュする。だがカオスには至らない。彼らは無責任なカオスや安易なカタストロフが、運動/思考の停止にほかならないことをよく知っているのだ。演奏は幾度となくカタストロフの近傍、崖っぷちギリギリをかすめ、危機をもてあそびながら、なおも続けられる。

2011年2月21日(月) バーバー富士



店主松本氏撮影によるライヴの様子。

次のページではシンバルの「吹奏」の様子も見られる。
http://members.jcom.home.ne.jp/barberfuji/87.html


Labfield / Collab (Hubro) 会場で購入
David Stackenas, Ingar Zachらによる電子の海



Tatsuya Nakatani / Abiogenesis (H&H production) 会場で購入
中谷のソロ。サウンドによるモビールの趣

http://www.squidsear.com/cgi-bin/news/newsView.cgi?newsID=1179
で一部試聴可能


ライヴ/イヴェント・レヴュー | 00:30:19 | トラックバック(0) | コメント(0)
2010年ベスト30の周辺② Around Best 30 of 2010 volume 2
 CDプレーヤーがCDを飲み込んでしまい、何とか取り出せないものかとガチャガチャいじっていたら、何とトレイが戻らなくなってしまい、あきらめて修理に出すことにする。ついでにフォノ部の調子が悪かったアンプも修理に出すことにしたので、しばらくの間は家でちゃんとした音で音楽を聴けなくなってしまった(PCで聴くことは可能なのだけれど、やっぱり音質が‥)。(ToT)あぅあぅ
 というわけで、今回は残念企画「2010ベスト30に間に合わなかった注目盤」ですー。


 まずは大部ゆえに購入を躊躇しているうちに選盤の期限が来てしまったBOXセット群。

01 Merzbow / Merzbient (Soleilmoon)
02 V.A. / Music for Merce (1952-2009) (New World)
03 Jurg Frey / Weites Land, Tiefe Zeit: Raume 1-8 (b-boim records)
04 Kevin Drumm / Necro acoustic (Pica Disk)
 
 順に12CD、10CD、8CD、5CDという重量級。01は爆音ノイズではなく、初期を思わせるミュジーク・コンクレート風の緻密な構築‥ということで期待。02はマース・カニングハム・ダンス・カンパニーのためにつくられた作品集ということで、ケージはもちろんのこと、David Tudorと小杉武久の参加頻度の高さにそそられる。貴重な写真満載の厚いブックレット付きというのも魅力的。03はヴァンデルヴァイサー派Jurg Freyによる各日40分×8日間=320分のインスタレーションの記録。04はThe Wireの2010 BEST50で堂々第10位。既発のもはや入手困難な作品の集成。試聴トラックを聴いた限りでは、重く冷ややかな輝きを放つ重金属ドローン。

 続いては2010年リリースにもかかわらず、なかなか日本に入ってこなくて、泣く泣くあきらめた作品群。

05 Tilbury Duch Davies / Conrenius Cardew: Works 1960-1970 (+3db)
06 Lemur / Aigean (+3db)
07 Michael Dach / Edges (+3db)
08 Radu Malfatti, Stephan Wittwer / Und ?...Plus (FMP)

 05はThe Wireの2010 BEST50で27位。AMMのピアノ奏者であるJohn Tilburyは、もともと現代音楽の作曲作品の演奏を本領としており、2010年にはJohn CageやTerry Jenningsを演奏した「Lost Daylight」(another timbre)をリリース(こちらはThe Wireで8位。2作品のランクインに拍手!)。Cardewに関する本も編集しているくらいで、その彼がRohdri Daviesと組んでCardewの60年代作品を演奏した作品が出た‥というのを、Richard Pinnell(Cathnorレーベルのオーナー)のブログThe Watcful Earで見かけて、「聴きたい! 聴きたい! 聴きたい!」と騒ぎまくったのだが、+3dbレーベル作品の流通が悪くて間に合いませんでした。(ToT)あぅ~
 この盤のもうひとりの参加者Michael Dach(b)のソロが07で、参加グループが06。共にレーベルのページ(http://plus3db.net/)で試聴できるが、硬質なサウンドによる強度に満ちた構築が光る。
 08は独FMPが大量にCD再発されたうちの1枚(もともとはCD12枚組BOXセットからのバラ売り)。録音は1977年。Malfattiは当時から彼自身であり、筋金入りの異端者であったことを示す1枚。

 この他にも「入手できていればベスト30入りしたかも‥」という作品は多い。もともと「すべてを聴くなんてできない」とあきらめているし、たとえ流通が整備されたとしても経済的・時間的に無理なのだから。それにそもそも存在すら知らない作品も山のようにあるだろう。それでも2010年は、pastel records, バーバー富士, オメガポイント, Ftarri (Improvised Music from Japan)等に加え、前出のThe Watcful Ear, Just Outsideはじめ海外のページや各レーベルのページもチェックしたので、捜索範囲は以前よりかなり広がったと思う。試聴できるところも増えたしね。

09 Kuchen, Rodrigues, Rodrigues, Santos / Vinter (Creative Sources)
10 Isaiah Ceccarelli / Breviaire d'Epuisements (Ambiances Magnetiques)
11 M. Holterbach & Julia Eckhardt / Do-Undo (In G Maze) (Helen Scarsdale Agency)
12 Alvin Curran / Uner the Fig Tree/The Magic Carpet (Die Schachtel)

 ポルトガルから先鋭的な即興演奏(作曲作品やサウンド・デザイン的な作品もある)を届けてくれるCreative Sources 。同国のClean Feedがフリー・ジャズ色濃厚なのに対し、こちらはフリー・インプロヴィゼーション系。電子音の使用、演奏の極端な破片化/平坦化、空間/ドローンへの志向も強い(沈黙ゴッコはやらないけど)。Squid.Coでいろいろ試聴したなかでは09が良かった。alto sax, viola, cello, electronicsによる霧の海を思わせる繊細極まりない交感。 Ambiances Magnetiquesはケベックを拠点とする演奏者のネットワークを背景としたレーベル。硬質な作曲作品からジャズ・ロック的演奏、完全即興まで幅広いが、10は試聴した限りでは、voice×2, bass clarinet×2, basse de viol, percussionという特異な編成による、みるみるうちに線が絡みあい、蔓が伸びて葉が茂るような自然成長的コンポジション。11はレーベルのページで一部試聴可能。フィールドレコーディングによる構築と平坦なヴィオラの持続が織り成す生成的ドローン。荘重さすら感じられる。12は70年代に制作された4枚のLPを編集した盤をベスト30に挙げたAlvin Curranの未発表作品。やはり70年代の作品を収録している。


 次回はThe Wireはじめ、海外で選ばれた2010年ベストをチェックしてみるかも。



01 Merzbow / Merzbient (Soleilmoon)


02 V.A. / Music for Merce (1952-2009) (New World)


03 Jurg Frey / Weites Land, Tiefe Zeit: Raume 1-8
(b-boim records)


04 Kevin Drumm / Necro acoustic (Pica Disk)


05 Tilbury Duch Davies /
Conrenius Cardew: Works 1960-1970 (+3db)


06 Lemur / Aigean (+3db)


07 Michael Dach / Edges (+3db)


08 Radu Malfatti, Stephan Wittwer / Und ?...Plus (FMP)


09 Kuchen, Rodrigues, Rodrigues, Santos / Vinter
(Creative Sources)


10 Isaiah Ceccarelli / Breviaire d'Epuisements
(Ambiances Magnetiques)


11 M. Holterbach & Julia Eckhardt / Do-Undo (In G Maze)
(Helen Scarsdale Agency)


12 Alvin Curran / Uner the Fig Tree/The Magic Carpet
(Die Schachtel)



音楽情報 | 23:19:49 | トラックバック(0) | コメント(0)
2010年ベスト30の周辺① Around best 30 of 2010 volume 1
 musicircus掲載の「2010年ベスト30」の前文に記したように、今回は2010年中にリリースされた作品に限定して選定した。レクチャーの準備中に聴き返したかこの作品が膨大にあり、「昨年よく聴いた‥」式にやると、とても選べないからなのだが、この制約条件のせいで泣く泣く選定をあきらめた作品を、まず何枚か挙げておこう。

 まずはRichard Skelton / Landings (Type)。アンビエント~ネオ・クラシカル系のアーティストとして認知されているだろう彼を聴いたきっかけは、よく利用させていただいているpastel recordsのページだった。試聴用のファイルを聴いて、響きの繊細さとエッジの鋭利さ、そしてサウンドの密度感/構築感にうなった。そのうえ、一般に流通しているのはCD版なのだけれど、pastel recordsではマニアックなことにLP+CD版を入れていて、ジャケット・デザインの良さにも打たれた(はっきり言って、LPの方がデザインが断然いい。幽玄さすら漂う)。針を落とすと、たちまちのうちに張り詰めた弦の交錯に襲われる。松脂が飛び散って、眼に入りそうなくらい弓の動きが激しく生々しい。弦の響きもまた、断ち割られたばかりの針葉樹が発するような、つんと透き通った鋭い香りに満ち満ちている。「急峻」という二文字が似合いそうなサウンド。私の耳を「アンビエント」系へと開いてくれた1枚だが、惜しくも2009年のリリース。

 続いては、何度も採りあげてきたTomoko Sauvage / Ombrophilia (either/OR)。空間の中に半透明の輪郭が揺れ動き、円やかな響きが広がる。小石をみずうみに投げて「水切り」を競う様を、水中から眺めているような感じだろうか。聴いているうちに、周囲の風景もまた輪郭を揺らがせ始める。これも2009年のリリース。出会ったのもやはりpastel recordsのページ。店主である寺田さんの選盤眼はスゴイと思う。もうレーベルでも品切れみたいだから、見つけたらお早めに。

 David Toop, Alvin Curran, Raphael Toral, John Butcher, Rohdri Davies, Olivier Blockら、超豪華メンバーによるV.A. / Lontano:Homage to Giacinto Scelsi (ST Produzioni Sonore)もやはり2009年。こうした特異な面子が注目するジャチント・シェルシの魅力について、改めて考えさせられた1枚。

 Zeitkratzer / Volksmusik (Zeitratzer Records)は2008年の作品。最近のJohn Cage, James Tenney, Alvin Lucierらの作品を演奏した「Old School」と題された一連の作品群も良いが、タイトル通り自作の「民謡」に走ったコレは激ヤバ。もともとクセナキスまで演奏してしまう腕達者たちが頭のネジを外して暴走。それともドイツ系は「フォルクス」と聞くと血が騒いで止まらないのか(問題発言)。Asmus Tietchens / Das Fest Ist Zu Ende. (Barooni)の暗~く澱んで退廃したへべれけノイズを思い出したり。


 次回は選定段階で注目していながら未聴だった作品を採りあげるかも。
 ご期待ください。



Richard Skelton / Landings (Type)


Tomoko Sauvage / Ombrophilia (either/OR)


V.A. / Lontano:Homage to Giacinto Scelsi
(ST Produzioni Sonore)


Zeitkratzer / Volksmusik (Zeitratzer Records)
この確信犯的にださいジャケがまた‥。



音楽情報 | 23:11:31 | トラックバック(0) | コメント(0)
BEST30 of 2010 (compiled by Keiichi Fukushima)
 音楽サイトmusicircusの御好意で、私の選んだ2010年ベスト30をアップしていただきました。左のリンクからmusicircusを選んでいただいても結構ですし、次のURLをコピペしていただいてもOKです。http://homepage3.nifty.com/musicircus/main/2010_10/tx_5.htm

 30作品全部にジャケット写真とレヴューが付いています。musicircusはレイアウトがきれいで、写真の発色もいいので、ジャケット写真をスクロールして見ていくだけでも充分楽しめます。

 こちらには英文リストだけ載せておきますね。それではどうぞ!!


01 Angharad Davies, Axel Dorner / A.D.
(another timbre at31)
Angharad Davies(violin), Axel Dorner(trumpet)

02 Roberto Fabbriciani, Robyn Hayward / Nella Basilica
(another timbre at30)
Roberto Fabbriciani(bass-,contrabass-&hyperbassflutes), Robyn Hayward(microtonal tuba)
  
03 Christine Abdelnour Sehnaoui, Magda Mayas / Teeming
(OlofBright OBCD 28)
Christine Abdelnour Sehnaoui(alto sax), Magda Mayas(piano)
 
04 Pascal Battus, Chistine Sehnaoui Abdelnour / Ichnites
(Potlatch P110)
Pascal Battus(rotating surfaces), Chistine Sehnaoui Abdelnour(alto sax)

05 The Internationale Nothing / Less Action, Less Excitement, Less Everything
(Ftarri Ftarri 219)
Kai Fagashinski(clarinete), Michael Thieke(clarinete)

06 Xavier Charles / Invisible
(Sofa SOFA531)
Xavier Charles(clarinet)
  
07 Michel Doneda, Taavi Kerikmae / Kirme
(Improtest Records IMPRTCD03)
Michel Doneda(saxophone), Taavi Kerikmae(piano)

08 Lethe / Catastrophe Point #7 & #8
(invisible birds ib003)
  Kiyoharu Kuwayama

09 Michael T.Bullock, Andrew Lafkas / Ceremoies to Breathe Upon
(Winds Measure Recordings 18 )
Michael T.Bullock(contrabass), Andrew Lafkas(contrabass)
  
10 Toshimaru Nakamura / Egrets
(Samadhisound sound cd ss017)
Toshimaru Nakamura(no-input mixing board,electric guitar), Tetsuzi Akiyama(acoustic guitar), Arve Henriksen(trumpet)

11 Rohdri Davies, Lee Patterson, David Toop / Wunderkammern
(another timbre at36)
Rohdri Davies(harp,ebows,electronics,preparations), Lee Patterson(amplified devices,field recordings,etc), David Toop(laptop,steel guitar,flutes,percussive devices)

12 Michael Moser / Resonant Cuts
(Edition RZ rz 10018-19)
Burkhard Beins(percussion), Martin Brandlmayr(percussion), Werner Dafeldecker(double bass), Axel Dorner(trumpet), Theo Nabicht(contrabass clarinet), Wolfgang Musil(sound direction, softwar development

13 Max Eastley / Installation Recordings(1973-2008)
(Paradigm Discs PD26)
Max Eastley(sound installations)

14 Gilles Aubry, Stephane Montavon / les ecoutis le caire
(Gruenrekorder gruen061)
Gilles Aubry(audio), Stephane Montavon(text)

15 Yui Onodera, Celer / Generic City
(Two Acorns 2A01)
Yui Onodera(environment sound,electronics,guitar,violin,pianp,musical box), Danielle Baquet-Long&Will Long(mixing board,cello,violin,piano, environment sound,theremin,
electronics,ocarina)

16 Tony Conrad, C.Spencer Yeh, Michael F.Duch / Musculus Trapezius
(Pica Disk pica013)
Tony Conrad(harpsichord,violin), C.Spencer Yeh(piano,violin), Michael F.Duch(doublebass)

17 John Cage / Four 4
(another timbre at34)
  Simon Allen(percussion), Chris Burn(percussion), Lee Patterson(percussion), Mark Wastell(percussion)

18 Kassel Jaeger / Aerae
(senufo editions #five)
Kassel Jaeger (positive organ,koto,rebab,coupigny modular synth)

19 Osvaldo Coluccino / Gemina
(due punte edizioni)
violin, viola, cello, piano, flute, flute contralto, clarinet , tenor sax, trombone, guitar, electronics
  
20 Nicolas Berliner / Strings Line
(Cronica 053-2010)
  Pierre-Yves Martel(viola da gamba), Chris Bartos(violin)
  
21 Talons' / Lost Time
(Powershovel Audio PSA-038)
Talon&others

22 Smacksoft / Mana Wind
(Mirrorball Music MBMC0193)
Whang Bo Ryung(vocal,guitar), Jung Hyun Seo(bass), Park Jin Sun(keyboard), Seo Jin Sil(drum), Yoon Sung Hoon(guitar), Nick Bllis(guitar)
  
23 Mysterious Curtain / Mysterious Curtain
(Mirrorball Music MBMC00169)
  Mysterious Curtain(vocal,guitar,keyboard)&others
  
24 Miko / Chandelier
(Someone Good RMSG10)
Rie Mitsutake(written,recorded,mixed,drawing)

25 Al Andaluz Project / Al-Maraya
(Galileo GMC039)
Mara Aranda(vocal), Iman Kandoussi(vocal), Sigrid Hausen(vocal,recorder), Aziz Samsaoui(quanun,violin,ud), Juan Manuel Rubio Moral(santur,ud,saz), Ernst Schwindl(hurdy gurdy,harmonium,portative organ), Jota Martinez(hurdy gurdy,citern), Michael Popp(vocal,ud,saz,tar,fidel,percussion), Sascha Gotowtschikow(percussion)
  
26 Alvin Curran / Solo Works:The 70's
(New World)
Alvin Curran

27 T.R.Mahalingam / Mali:Essential Recordings of Carnatic Bamboo Flute, 1969-70
(EM EM1089DCD)

28 Eric La Casa / W2
(Herbal International Concrete Disc 1005-2)
Eric La Casa(field recordings)

29 Kazue Sawai / John Cage:Three Dances[prepared koto version]
(Japan Traditional Cultures Foundation  VZCG-736)
Kazue Sawai(koto,17 strings koto), Yoko Nishi(17 strings koto), Hideaki Kuribayashi(17 strings koto), Etsuko Takezawa(17 strings koto), Michiyoshi Inoue(conductor)

30 Derek Bailey / More 74 Solo Guitar Improvisations
(Incus CD60)
Derek Bailey(stereo electric guitar, 19-string (approx) acoustic guitar,voice)


もちろんありとあらゆる音源を聴けるわけもなく、注目しながら聴けなかったために、選から漏れた作品もあります。(T_T)うぅ
次回はそのあたりをディグしてみましょう。


絶対に聴きたかったのに、
未だ入荷していない1枚。
Tilbury Duch Davies /
Cardew works 1960-70 (+3db)



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平らかにたなびく声の道-カール・ストーン『ダルダ(DARDA)』 Carl Stone&Makiko Sakurai@Loop Line 30th Jan.2011
 急速に舞い上がり、虹のように天高く弧を描く、速度に満ちた奔放な声の運動も、それはそれは素晴らしいのだが、私が「声の力」をまざまざと感じるのは、むしろ平らかに伸ばされた声である。深々とした呼吸がゆっくりと繰り出され、声がしずしずと歩んでいく。まっすぐに伸びていくその軌跡は、一見滑らかなようでいて、実は微細な力動の激しい衝突に震えている。溢れ出る息とそれを絞る喉の拮抗。口蓋から鼻腔へと上ずっていく声音とそれを下方へと引き絞る丹田の重み。歩みを進めるうち次第に細くなっていく息と身体の共鳴の危うい均衡。ざわめきへと崩れそうな声の輪郭を、その都度鋳直し、改めて心棒を入れ直す。
 甘やかに引き伸ばされた母音が移ろううちに、部屋の四隅から響きが香るようにたちのぼるタミア(Tamia)。荷を目一杯積んで喫水を深くした船が暗く重い水をゆるゆると押していく大工哲弘。古代中国の料理の名人が操る肉切り包丁のように薄く鋭い刃を空間に滑り込ませるサヴィナ・ヤナトゥ(Savina Yannatou)。彼/彼女らは皆そうした平らかな声の使い手たちだ。女性ながら天台声明を修めて飽き足らず、ネイティヴ・アメリカンの音楽やイエメン・ソングを学んだ桜井真樹子もまた、そうした平らかな声の使い手に連なるひとりと言えるだろう(私は彼女のことを『引声阿弥陀経(Sukhavativyuha)』(1993年)なる声明を演じたCDで聴き知っていただけなのだが)。そんな彼女といっしょに『ダルダ』というコンポジションを演奏するとの知らせをカール・ストーンから受けて、私は千駄ヶ谷に向った。

 1.カール・ストーンによるソロ演奏
 駅から続く道を神社の木立を見やりながら右へ折れ、地下へと階段を降りる。「ループライン」の空間は白塗りのギャラリー仕立て(ホワイト・キューブ?)の天井に配管が露出し、「七針」とも似ているが、ステージ(客席と段差はない)に向って右側のバー・カウンターが閉塞感/圧迫感を和らげている。客席後列壁際に置かれたソファもまた特徴と言えるだろう。時刻になり、カール・ストーンが本日のプログラムを説明する。まず彼のソロ。続いて桜井との短いデュオ。そして休憩をはさんでコンポジション『ダルダ』の演奏。
 ヘッドホンをかぶったパンダがペイントされたノートPCに彼が向うと、小人たちが騒ぎ立てるような不思議な色合いの電子音が溢れ出す。ゆらゆらした陽炎のような高音の揺らめきが、そうしたざわめきの中心で軽やかにたなびきつつ、すばやくかたちを変えていく。小人たちが遊び疲れた頃に、琵琶(あるいは津軽三味線か)の響き。謡いを希薄化し不定形なねじれを加えたような音響が、それに付き従う。「声」であって「声」でないまがいものの増殖。ハンス・ライヒェルの操るダクソフォンの響き(あれも声に似ている)にも近い。断片の集合的反復とアモルフな形態の変化(連続的)。さらに複層的なねじれが加わり、ピッチが揺れ動いて、響きの輪郭を波打たせる。太鼓に似た打撃音、胡弓を思わせる連続音がさらに加わって、重ねあわされた響きの総体はまどろむように飽和へと向う。高音域にボーイ・ソプラノにも似た音色が姿を現すが、新たに付加されたサウンド・ファイルなのか、音響の相互干渉の結果なのか必ずしも判然としない。やがて空間一杯に充満した響きは、霧が晴れるように壁に吸い込まれていった。


 2.ストーン&桜井デュオ
 PCのモニタを反り返るようにして眺めるストーン(きっとお腹がテーブルにつかえて屈み込めないのだろう)の傍らに、桜井がすらりと立つ。気持ち脚を開いて、爪先を外に向け、背筋を伸ばした姿は、ぴったりと身に着いた黒い衣服もあって、凛とした清々しさを漂わせている。
 おもむろに桜井が声を発する。半開きの口元から、低めにコントロールされた声音がゆるゆると伸びていく。声明の発声法。平らかに伸ばされた声のうちに、多方向からの力動のせめぎ合いを手触ることができる。桜井が同じピッチで声を放つ何度目かに、電子音がすっと寄り添ってみせる。声に「影のように付き従う」とでも言おうか。ワープロ・ソフトのフォント効果に「かげ付き文字」というのがあるが、まさにあの感じ。マイクロフォンから拾った声に電子的変調をかけているのだろう。声は半分「二重化」され、幾分か立体感をまして、「浮き彫り」にされたように感じられる。それとともに、輪郭がかすれて曖昧になり、響きに細かなざらつきが付け加わる。以降、繰り返しの中で、輪郭の多重化(による強調)はさらに強まり、ちょうどシャム双生児のように、身体を一部共有しながら、それぞれ別々に振舞う声が姿を現す。先立つもの、遅れるもの、時間軸上での押し引きが始まり、あるものは震えながらその場に立ち尽くしている。


 3.『ダルダ』
 休憩をはさんで後半の開始。今度は桜井は最初から椅子に腰掛けている。眼を瞑り声を吐き出す。先のデュオの時よりも押し殺された声は、ややくぐもって呪詛のように響く。先ほどよりも幾分低く、膝ほどの高さでゆるゆると広がりながら、声の層のうちで様々な力がせめぎ合うよりも、むしろ力は内にかかり、声の使い手の身体を求める。ホーミーに似た仕方で共鳴をかきたて、次第に二重化していく声に、PCが響きのかげをつける。揺らめく響きの中に別の声(桜井の声の分身)が姿を現し、桜井自身の声に先行する。声の分身は合わせ鏡に写したようにその数を増しながら、それぞれがくっきりと輪郭を保ち、先のように曖昧さの中でおぼろに多重化していくことはない。音は各々の力をせめぎ合わせることなく、幾何学的な配置により空間を満たしていく。幾千もの風鈴にも似た涼やかな響きが互いに反響/共鳴し、熱を持たない光を増していく。桜井が声のピッチをわずかに変えて、この輝く声の海から頭ひとつ浮かび上がり、それをさらに上方から薄くたなびく電子音が見つめている。ひとしきり泳いだ彼女が海から上がると、電子音はそのまま充満へと向かい、しばし遷移するサウンドのプラトーをかたちづくる。再び桜井が最初と同じピッチで声を放ち、飽和した声の海にそれを貫く心棒を通す。約35分の演奏だった。

 後でカール・ストーンに聞いたところでは、もともと桜井の声のサウンド・ファイルを組み立ててつくった作品だったのだが、せっかくだから本人を招いて生の声と共演してみたかったとのこと。サウンド・ファイルだけだったら、おそらくもっと均質でジクゾー・パズルのように平面的な演奏となったことだろう。生の声の持つ不揃いな「きめ」や「むら」が結果として立体的な輝きや魅力的な粒立ちをもたらしたと言えよう。なお、桜井の話では、「立つのと座るのとどちらがよいか」とカール・ストーンに確認したら、「『ダルダ』では座ってくれ」と指示されたとのこと(だからデュオは立ってやってみたのだと言う)。生の声をフィーチャーするあまりに、電子音やサウンド・ファイルが背景に退いてしまっては、この作品は成り立たない。生の声が「声の海」に沈み、溶けてしまうかと思えば、やがて泳ぎだすという両面性(一部でもあり独立してもいる)が必要なのだ。その点で『ダルダ』で彼女を座らせたのは正解と言えよう。もし立っていたら「彼女の声が電子音を身にまとう」ように見えてしまったのではないか。しかし、合唱とも違うかたちで、自らの声のサウンド・ファイル(を加工したもの)、つまりは自分の似姿に埋もれていくのは不安ではないのだろうか。桜井にその疑問をぶつけると、そんなことはないと笑った。自分の声の手触りはしっかりとあり、自分の声の存在がわからなくなることはない。この『ダルダ』は本当によく出来た作品で、少しも不安ではなく、むしろすごく気持ちいい‥のだそうだ。それはやはり彼女が「平らかな声の使い手」だからではないかと思った。
 なお、インドの女神を思わせる『ダルダ』の名前の由来をカール・ストーンに尋ねたところ、「う~ん。いつも通り食べ物屋の名前(※)。何だったか。もしかしたらインド料理屋かもしれなくて、だからインド神話と関係してるかもしれないけど、もしそうだとしたら、それはたまたま」とのことだった。

※カール・ストーンの作品名はレストラン等の飲食店から採っていることが多い。東京のホープ軒(ラーメン屋)、ソウルの叉来屋(ウレオク。プルコギがメインだが冷麺がおいしい)など。ちなみに調べたら「ダルダ」はカリフォルニアの中華料理屋みたいだ。シーフード入りの刀削麺がおいしいらしい。




Carl Stone / Woo Lae Oak



ライヴ/イヴェント・レヴュー | 22:47:41 | トラックバック(0) | コメント(0)