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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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犬も歩けば棒に当たる  A Flying Crow Always Catches Something
 金曜の夜には会合が、土曜日は朝から仕事が入ってしまい、興味をそそられていた「歌女」ライヴ@Ftarri水道橋店も、「耳をすます」@下北沢も、カン・テーファンSolo@南宇都宮も全部行けず、仕事を終えて寄ってみた評判のインド料理屋もいま3くらいだったので、欲求不満解消に久しぶりに新宿に繰り出し、ディスク・ユニオンを巡った。さすがに世の中悪いことばかりではなくて、思いもかけぬ収穫に恵まれたりもしたので、新譜ディスク・レヴュー定期版を掲載できるまでの埋め草記事ですが、ちょっとご報告かつ自慢。

 もともとの目的はECMの新譜2枚を購入することだった。Benedicte Maurseth & Asne Valland Nordi『Overtones』(ECM2315)とEleni Karaindrou『Medea』(ECM2315)。歌姫と弦姫の北欧トラッド・デュオとテオ・アンゲロプロスの共同作業者として知られるギリシャの映画音楽家。前者はECM界のリア王こと(子だくさんな王様という点しか共通していないが)多田雅範から「これは以前に福島さんに聴かせていただいた〜」と教えられた作品。Asne Valland『Den Ljose Dagen』はかねてからの愛聴盤で、以前に月光茶房ビブリオテカ・ムタツミンダで開かれたリスニング・セッション時に披露したのだった。今回の作品でもどこか幼さの残る線の細さと張り詰めた芯の強さは健在。Benedicte Maursethの細い天蚕糸をきりきりと引き絞りながら張り巡らしていく弦の響きも素晴らしい。Eleni Karaindrouは奥行き深い空間を民族楽器やコーラスが支えるしめやかな劇的空間。これらは改めてディスク・レヴューで採りあげたい。
 


 もうひとつ期待していたのが、Nana VasconcelosがSaravahレーベルに残した2作品の2 in 1再発盤。以前からぜひ聴きたいと思っていた作品が、廃盤LPを探さずとも、国内盤でリリースされていたとは。売り場で調べてもらうと廃盤状態。しかし、あきらめずに中古盤を漁るとあっさりとゲット。とーぜんプレミアなし。空間にさざめきたゆたうビリンバウの打音/倍音が心地よい。こちらは決してしめやかではない幽玄の世界。
  ナナ・ウァスコンセロス『サラヴァ・エイジ』(ポリスター)
  Nana Vasconcelos『Africadeus-N.Angelo-Novelli』



 エレクトロニカというには奥深く、ドローンというには物音の手触りがあり、エレクトロニックな加工が多いからフィールドレコーディングはないが、それと共通する肌触りの豊かさと空間のバースペクティヴをたたえている。そんな作品群をまとめて掘り起こした。
 まずはnon visual objectsレーベルからの3枚。いずれも300枚限定。白木の断面を思わせる植物質の柔らかさが魅力的なGaret、引き伸ばされた音響が空間を舞い踊りながら決して埋め尽くさないMontgomery、微細な音粒子の感触がいかにもハイ・アート的なChartierとそれぞれの個性が際立つ。ジャケットも美しい。
  Richard Garet『Intrinsic Motion』(nvo008)
  Will Montgomery[Herbert Friedl]『Non-Collaboration』(nvo014)
  Richard Chartier『Untitled (Angle 1)』(nvo018)
 


 Mathieu Ruhlmannの名前はUnfathomless(2009)や3 Leaves(2013)からの作品で知っていたが、ごく初期の作品(2004)を入手。暗闇で風が頬を撫で池の魚が跳ね音楽室のピアノが鳴り目蓋の裏に閃光が走る。これはすごくいい。50枚限定。
  Mathieu Ruhlmann『Every Vein Leads to My Heart』(Somne Recordings)
 musicircus掲載の2013年ベスト30に選んだMarc & Olivier Namblard『Cevennes』の片割れMarkのソロ作品を発見。凍った湖の立てる響きは、寒さと孤独に耐えられなくなった沈黙が思わず漏らすつぶやきにも似て電子音楽的。結婚する前に大井武蔵野館で妻と観た『シベールの日曜日』の公園のシーン(凍り付いた池)の奇妙な響き(やはり電子音なのだろうか?)を思い出した。
  Marc Namblard『Chants of Frozen Lakes』(Kalerne&Atelier Hui-Kan)



 可愛らしい3インチCDを3種。Celerは「ひとつ聴けばみんな同じ」的なところもないではないが、ジャケット写真の「流れる」感覚に惹かれた。やや明度を落とした落ち着いた光の中で柔らかくほぐれていく響きの在処。いずれも100部限定。一方、Simon Whethamは生真面目過ぎるところがあるが、これは様々な物音や音楽断片、エレクトロニクスが次々に混じり合う感じがいい。こちらは50部限定。
  Celer『Four Pieces / Three』(smallfish records)
  Celer『Four Pieces / Four』(smallfish records)
  Simon Whetham『The Phoenix』(Flamingpines)



 そのほかに、タイトルにやられたチェリストFred Lonberg-Holmと、Jim O'RourkeやKevin Drummはじめ計12人のギタリストとの共演。思ったほど周囲の環境音は入っていないが、部屋の佇まいの違いはわかる。Animaはブラジルの中世音楽ユニット。打楽器の河の響きの香り高さや倍音の角の丸さがブラジル的か。美麗ブックレット綴じ込み。
  Fred Lonberg-Holm『Site-Specific』(Explain)
  Anima『Especiarias』(MCD)



 LPでも「へえ」というブツが。まずはRene Clemancicの笛と民族打楽器Zarbの共演盤。せっせと集めている東方教会関係が2枚。Ocora盤は先日購入した同じくOcoraの箱入り2枚組『Grece Vol.3&4』が呼び水になったのかも。Cornelius Cardewのピアノ曲集は盟友と言うべきFrederic Rzewskiの演奏。500枚限定。最後のBernie Krauseは動物の鳴き声を楽器代わりに当てはめた珍盤。「さすがは『野生のオーケストラ』の著者」的な1枚ではある。見本盤。
  Chemirai&Rene Clemencic『Improvisations』(Harmonia Mundi)
  『Grece Volume.2』(Ocora)
  『Liturgie de Saint Jean Chrysostome』(Auvidis)
  Cornelius Cardew『We Sing for the Future&Thalmann Variations』(Doxy)
  Burnie Krause『Jungle Shoes』(Ryko)
 grece  


 ちなみに中古盤の価格はCDが214円から514円(ただしMathieu Ruhlmann は617円、Nana Vasconcelosは720円)。LPは1000円未満から1749円。もちろんここには挙げていないハズレもあったのだけど、気分回復には大層効果のあった買い物でした。



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ディスク・レヴュー | 23:37:51 | トラックバック(0) | コメント(0)