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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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タダマス、直木三十五に関する映画を35mmフィルムで撮る  "TADA-MASU" Shoot Movie about Sanjugo Naoki by 35mm Film Camera
 いろいろあって、しばらく更新が滞っていた本ブログ『耳の枠はずし』だが、今週末10月26日(土)には、多田雅範と益子博之がナヴィゲートするNYダウンタウンを中心としたコンテンポラリー・シーンの定点観測「タダマス35」が開催されるとなれば、これは何とか重い腰を上げて告知をせねばなるまい。

益子博之×多田雅範=四谷音盤茶会 vol. 35
2019年10月26日(土)  open 18:30/start 19:00
四谷三丁目 綜合藝術茶房喫茶茶会記
ホスト:益子博之・多田雅範
ゲスト:柳沢耕吉(ギター奏者・作曲家・即興演奏家)
参加費:\1,500(1ドリンク付き)

今回は、2019年第3 四半期(7~9月)に入手したニューヨーク ダウンタウン~ブルックリンのジャズを中心とした新譜アルバムをご紹介します。
ゲストには、ギター奏者・作曲家・即興演奏家の柳沢耕吉さんをお迎えすることになりました。2013〜17年のNY在住時にはJazz Galleryのスタッフを務め、Prix Presque Rien(プレスク・リヤン賞)2017で大賞を受賞した柳沢さんは、現在のニューヨークを中心としたシーンの動向をどのように聴くのでしょう。お楽しみに。(益子博之)

タダマス34,35縮小


 続いて、当日プレイされた10作品中、わずか3作品への言及にとどまるが、前回「タダマス34」に関するレヴューを記しておきたい。

タダマス34,35-1Joseph Branciforte & Theo Bleckmann『LP1』((Greyfade Label)
Theo Bleckmann - voice, electronics; Joseph Branciforte - modular synthesizer, Rhodes electric piano, tape loops, processing
 靄の立ち込めた視界の効かなさ。押し殺した吐息。放送終了後のTVの「砂嵐」画面を思わせる粒子の粗さが次第に浮かび上がる。吐息のもたらす身体の輪郭から、魂が抜け出るように声がゆらりと立ち上り、どこまでも希薄に広がる響きと化して、空間の隅々まで浸みわたっていく。ここでTheo Bleckmannは女声としか聴きようのない高域まで繊細に駆使し尽して、まったく輪郭の固さや圧力を感じさせない柔らかな広がりをつくりだしている。電子音の肌理をいささか粗くしているのは、この相互浸透を達成するための周到な仕掛けなのだろう。蒟蒻を煮込む前に、味がよく染みるよう、鍋で丹念に空煎りするような。「母胎回帰」あるいは「羊水感覚」をまんま演出する電子音の仕立て(クラウス・シュルツェ等k七〇年代ジャーマン・ロック)、荒く忙しなくなる吐息のこもった響き(スタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』のボーマン船長)など、いささか既視感が伴いはするのだが。

タダマス34,35-2Rallidae『Turned, and Was』(Gold Bolus Recordings GBR 026)
Angela Morris - tenor saxophone, voice; Dustin Carlson - electric guitar, voice; Scott Colberg - double bass, voice; Nico Dann - drums, voice; Alex Samaras - voice
最初にかけられた「Awake」は曲題とは真逆の、緩やかな眠りへと引き込む子守歌。曲としての良さにまず惹かれるが、それだけではない。遠く近く催眠的に繰り返される歌の一節に対し、演奏は個々の楽器/演奏者のヴォイスであることを脱ぎ捨て、非人格的なテープ・エフェクトの方へと、ずぶずぶと滲み出していく。ガラス片で奏でられたようなギター、遠くのサイレンの如く頭上を通り過ぎていくテナー・サックス。先のJoseph Branciforte & Theo Bleckmannのエレクトロニクスによるアプローチを、あえて器楽アンサンブルで試みることで、より体温の暖かみと肉の厚み、そして柔らかな濁りのある音響がかたちづくられている。希薄に拡散するのではなく、頭から布団をかぶって身を丸める甘やかで胸苦しい内向的な濃密さが感じられる。それでいて、断片の繰り返しへと落ち込んでいくヴォーカルをはじめ、テープ・ミュージックをわざわざ人力で演奏するにような、マニアックなこだわりが感じられるのが興味深い。ここでも「相互浸透」が主題化しているということだろうか。全体としてはポップなロック感覚をたたえているのだが、冒頭でも、最終トラックでもなく、前半の最後に、Joseph Branciforte & Theo Bleckmannに続けて置かれた理由がわかる。益子博之による選曲・配列の巧みさを思わざるを得ない。
 続く「Still Breathing」は「Awake」の重怠い昏さをそのまま受け継ぎながら、眠気の底が抜けて、夢の世界の扉が開いていくような柔らかな光に満ちている。オルタナティヴ~シューゲイズ的なギターの掻き鳴らしがサンドに力強さを与えているが、口笛のようなスキャット・ヴォイスと鼻歌のようなテナー・サックスの絡みは、どこまでもやわらかくこわれやすい希薄さを手放さない。なお、Rallidaeとは鳥の名前(クイナのこと)だという。

タダマス34,35-3Matt Mitchell『Phalanx Ambassadors』(Pi Recordings PI 81)
Matt Mitchell - piano, Mellotron, Prophet-6; Patricia Brennan - vibraphone, marimba; Miles Okazaki - electric & acoustic guitars; Kim Cass - double bass, electric bass; Kate Gentile - drums, percussion
 まずは圧倒的に高密度な演奏に打ちのめされる。先にかけられた「Stretch Goal」は、2016年にアップされたライヴ演奏をYoutubeで観ることができ、そこでは本作の5名に武石務を加えた6人編成が、極端に入り組んだ曲構成の複雑さを、いささかたどたどしくなぞる様を見ることができる。CD用に録音されたトラックはそれよりもはるかに加速され、かつ複数の流れを重ね合わせ、捩じるように撚り合わせた複層的なものとなっている。冒頭からいきなり急速に畳みかけていく動きに対して、途中からそれと引き合うようにだんだんと遅くなっていく逆向きの加速度が加わり、アンサンブルは身をよじるようにして、天井知らずに内圧を高めていく。
 鋭く尖らせた切っ先で細密に刻んでいくピアノとギター、流星雨の如く煌めきながら走り抜けていくマリンバやヴァイブ、超高速でジグザグにステップを踏むベースに比べると、ドラムスのKate Gentileの演奏は、最初、パワフルではあるが、いささか粗いように感じられた。しかし、聴き込めば、彼女のバネの効いた打撃が、この複雑怪奇に入り組んだ演奏に、急坂を駆け下りるような火照った推進力を吹き込んでいることがわかる。「ケイト・ジェンタイルの足腰のしなる柔らかさから繰り出すグルーヴは牽引力以上の触発力まであるようだ」とは、自身のブログで当日の音源を振り返った多田雅範の弁。
 調べるとKate Gentile自身のクワルテットとは、Kate Gentile, Matt Mitchell, Kim Cassとリズム・セクションが丸ごと共通しており、共演を重ねる中でアンサンブル感覚を練り上げてきたことがわかる。ただし、彼女自身のクワルテットの演奏は、さすがにここまで複層的なものではない。
 そそり立つ聖堂の仰ぎ見るステンドグラス群、あるいは岩石標本の色鮮やかな顕微鏡写真を思わせるジャケットのアートワークも、また彼女によるものだというから驚く。拡大すると、様々な写真が万華鏡的に細密に貼り合され、民俗的な文様と組み合わされていることがわかる。それはまるで、長い時間をかけてゆっくりと凝固する花崗岩の内部で、先に結晶化した鉱物の間を縫い、それらをいわば「型枠」として、別の鉱物が自らをかたちづくっていく様を、このアンサンブルの生成原理として、シンボリックに表象したものであるかのように感じられる。





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ライヴ/イヴェント告知 | 23:50:09 | トラックバック(0) | コメント(0)