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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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束の間の音の旅路(コルシカとサルディーニャ) A Brief Sound Trip around Midnight(for Corsica and Sardinna)
 某月某日、多田雅範さんの車で今まで見たことのない暗~い246号線を通って、表参道は月光茶房へ。早速、入店したばかりの新譜Paolo Fresu「Mistico Mediterraneo」(ECM)を聴かせていただく。繊細ながら味も匂いもあるパオロ・フレズのトランペットとエスニックな男声合唱(コルシカン・ポリフォニー)の絡み。店主の原田正夫さんが「さらに‥」と出してくださったのが、Paolo Fresu「Sonos e Memoria」(ACT)。これは以前にディスク・レヴューで採りあげたことのある愛聴盤。フレズと同じサルディーニャ出身の女性歌手Elena Leddaの海風にはためくような哀愁を帯びた節回しを、彼女の音楽的パートナーであるMauro Palmas奏するMandolaのリフレインが浮き立たせ、Antonello Salisの線の細い(無機質ですらある)アコーディオンとPaolo Fresuのやはり体温の低いトランペットが交錯していく。中空に草木染めの色の帯が、幾筋もくるくると広げられていく印象。カウンター向かいの棚に移されたスピーカーSonus Faber Minimaが壁面に幻を投影する。この盤はもともとサウンドトラックで、元の映画は古いモノクロの記録フィルムを編集した作品なのだが、そこに映し出される人々のいきいきとした表情が思い浮かぶ(断片をyoutubeで観ることができる)。インプロ・パートに続く民族楽器ラウネダスの倍音を空高く噴き上げる豊穣極まりない響きも絶品。

 サルディーニャの男声合唱のパートに入ったところで、持参したElena LeddaとSavina Yannatouの共演盤「Tutti Baci」(Resistencia)をご披露。二人の絡みがため息モノの3曲目を聴いていただく。声の上澄みを鋭く研ぎすませたサヴィーナに対し、息の押し引き、声の揺らぎを巧みに操るエレーナ。二人の声がゆったりと空間に軌跡を描いていく様に見とれてしまう。受けたので調子に乗って、Donnisulana「Per Agata」(Silex)を紹介する。女声によるコルシカン・ポリフォニー。仏Silex後期の隠れ名盤。続いてサルディーニャに戻り、「Voces de Sardinna」(Winter&Winter)第1集と第2集を。響きの「濃さ」に多田さんの耳がたちまち食いつく。前者が民衆歌で後者が宗教曲なのだが、息遣いの重さ/長さは共通。民族文化の層の分厚さがひしひしと感じられる。‥‥と言いながら、宗教曲のフレーズの動きの細部や音の積み重なりは、まさに教会音楽なのだが。でもたくましい濁りを含んだ声音の強靭さは、まさに日々の生活に根ざしたもの。先の記録フィルムにとらえられた糸を紡ぐ女たちのきびきびした動きが思い出される。

 ここで原田さんの提案で、再びPaolo Fresu「Mistico Mediterraneo」を聴き返してみる。最初はやや薄味の地中海風味としか感じられなかったコーラスに、シンガーズ・アンリミテッド的な洒脱なスウィング感が潜んでいるのに気づく。逆にそちらに耳の焦点を合わせると、地中海の香りがふんだんに立ちのぼる仕掛けになっているわけだ。フレズのトランペットのクールな輪郭が声の熱い力を引き立てているのも見えてくる。サックスだったらもっと渾然一体溶け合ってしまって、こうは行かなかったろう。「洗練されているが、弱くはなっていない」との原田さんのご指摘にも納得。これもECMならではのサウンドのブレンドの妙。つまりはアイヒャー・マジックか。

 改めて名匠の技の冴えに感心したところで多田さんに送っていただく。束の間の音の旅路。複数の耳で聴き返すことにより、聴きなれた音盤でも必ず新たな発見がある。それがすぐれた作品であればあるほど、底知れぬ奥深さを秘めている。おなじひとときを共有することにより、むしろ体験は単一化されるのではなく、互いの視点や感覚の差異を通じて多面化/多焦点化され、深められていく。今から思い返しても、本当にあったのか疑わしくなる、幻にも似た不思議な時間。ゆったりとした時の流れの感覚とは裏腹に、耳を中心に感覚は研ぎ澄まされ、サウンドを高速でプロセッシングしていたのだろう。その体験の豊かさ/情報量の多さが、通常の「思い出」の許容量を超え出てしまい、「あり得ない記憶」と感じられてしまうのではないだろうか。


※4月からブログでのディスク・レヴューを解禁していこうと考えています。
 と言っても「お買い物日記」的なものではなく、定期的な新譜リサーチの
 結果としての推薦盤レヴュー(定期的)と、不定期のテーマに沿った旧作
 のレヴューにしようかなと。
 今回は初回特別篇ということで、Bibliotheca Mtatsmindaナイト・ツアー
 の模様を編集採録してみました。



Paolo Fresu / Mistico Mediterraneo (ECM)
  

A Filetta Corsican Voices


Polo Fresu / Sonos E Memoria (ACT)


Savina Yannatou&Elena Ledda / Tutti Boci (Resistencia)


Donnisulana / Per Agata (Silex/Auvidis)


Voces de Sadinna 1
Tenore de Orosei / Amore Profundhu (Winter&Winter)


Voches de Sardinna 2
Cuncordu de Orosei / Miserere (Winter&Winter)

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ディスク・レヴュー | 23:56:55 | トラックバック(0) | コメント(0)
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