■プロフィール

福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■リンク
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QR

トラッドとの出会い~奈落への転落 Encounter with Trad Music - Downfall to the Depth
 月光茶房店主の原田さんが、渋谷にあった伝説的なロック喫茶「ブラックホーク」におけるトラッドとの出会いを、ご自身のブログで書かれている。貴重な資料も掲載されたリポートを読みながら、「ブラックホークでトラッドと初めて出会った自分」を想像してみたりするが、私自身は実のところブラックホークの名を知るのみで、一度も行ったことがない。そうした「人生の曲がり角」をみんな幾つか持っていて、曲がったり通り過ぎたり、すれ違ったり行き止まったりしながら、いまここに至っているのだろう。

 というわけで、今回は私のトラッド遍歴、特にその入口部分についてお話ししてみたい。


 LPを買い始めた頃は、簡単な記録をつけていたので、初めて手に入れたトラッドのレコードが何だったか調べがつく。ノートをひっくり返すと、1980年6月にペンタングル「クルーエル・シスター」(日本コロンビア)を大学の生協で買ったのが最初らしい。ディスク・レヴュー論の中で、「フールズ・メイト」を初めて読んだのが12号のファンタジー特集だったと書いたが、「ロック・アポカリプス」特集と題して、RIOやディス・ヒートを採りあげた続く13号には、英国トランスアトランティック・レーベルの紹介記事も掲載されていた。ペンタングルの存在を知ったのは、おそらく山岸伸一氏が執筆した(氏は「クルーエル・シスター」のライナーも書いている)、この記事でではないだろうか。この辺の幅広さが雑誌のありがたいところだ。さらに編集長北村昌士は同号の国内盤レヴューの1枚としてペンタングル「クルーエル・シスター」を採りあげ、「イギリスのトラディショナルを題材とした最高の音楽を演奏するこのグループの魅力の全てが、この作品の中に収められている」と記している。「そーかあ。これは聴くっきゃないかー」とトラッド初心者は思ったわけです。

 次に購入したのがOssian / Ossian,Ossian / St. Kilda's Weddingの2枚(6月24日・新宿レコード)。気品豊かなスコティッシュ・トラッドを奏するオシアンを知る方は、ペンタングルからの飛躍(マイナー度の極端なアップ)に驚かれることだろう。ロック・ダイヴィング・マガジン編「ラビリンス/英国フォーク・ロックの迷宮」で言えば、ラビリンス2からラビリンス7への三段(五段か?)跳び。種を明かせば、バック・ナンバーで手に入れた「フールズ・メイト」10号のディスク・レヴューで、広川裕氏が前者を次のように絶賛されていたからにほかならない。
 「1977年に発表された、オシアンのデヴュー作にあたるこの作品集は本当に素晴しい。とにかく、トラッドに少しでも興味を抱いている人、もしくはトラッドを聞き始めて間がなく、まだこのバンドを知らずにいる人達、さらに望むべくは、音楽を愛する良識ある人達、全てに聞いていただきたいアルバムだ。アルバム全体に溢れている、その深みのある暖かな歌と演奏は、音楽が本質的に持つ感動そのものの表現に他ならない。」
 どーです。こりゃあ聴くしかない!って気になるでしょ。それと私の場合、由良君美先生のウィリアム・ブレイク講義で、英国ロマン派の源泉たる「オシアン」(ジェームズ・マクファーソンがスコットランド・ゲール語による古資料から英語に訳したと称した詩集)について聞いていたことも大きかったかもしれない。まさにこの記事は自分に向けて書かれたような気がしたものだ。ちなみに同レヴューの最後の部分には、「この新進バンドや、同じく最近頭角を表してきた「クレナド=Clannad」など、個性的で魅力的なバンドが続いて現れ‥」と書かれており、私の記憶にはOssianと並んでClannadの名が刷り込まれたのだった。

 しかし、現時点から冷静に振り返ると、大学生協のペンタングルから「ユーロ・ロックの人外魔境」新宿レコードのオシアンへというのは、やはり飛躍がすごい、すごすぎる。三段跳びどころか、いきなり崖の上から滝壷にダイヴするくらいの落差がある。それにしても誰か止めるヤツはいなかったのか。

 これに続くのが、マリコルヌ・ショック。Malicorne / Almanachを下北沢エジソンで6月27日に購入している(中古)。見開きジャケットにリーフレットが挿み込まれた豪華な装丁に魅せられたことも大きかったろう。彼らの作品の中では、むしろ鄙びた感じを与える1枚だが、それでも甲高く鼻にかかった独特の硬質な発声、中世音楽の薫り高い立体的なコーラス・ワーク、倍音をぶつけあわせるような切り立ったアンサンブルには、ガツンと頭を殴られるような衝撃を受けた。このショックは9月にディスク・ユニオン御茶ノ水3号店 で手に入れた簡素なジャケットのライヴ盤 Malicorne / En Publicでさらに増幅される。エレクトリック・ベースのヘヴィなうねりに、ヴィエル・ア・ルーの倍音が渦を巻き、つるはしで掘り出したばかりの岩塩のように荒々しく尖った演奏と鋭利に張り詰めた声がぶつかりあう。
 この頃には、小学生の頃から通っていた文京区立小石川図書館所蔵のレコード・コレクションにももう手を着けていたはずだが、これと似た音は、これまでどこでも聴いたことはなかった。まさに異世界のサウンド。そうしたこともあって、7月に手に入れたフェアポート・コンヴェンションの代表作2枚、「フル・ハウス」と「リージ&リーフ」(共に英国盤。後者は中古)にはあまりピンと来ず、その後すぐ手放してしまうことになる。

 その背景には幾つかのことがあるように思う。冒頭にご紹介したブログ記事で原田さんは、トラッドが好きになった理由をフォーク・ダンスの思い出に結び付けているが、同じことは私の場合にもあったかもしれない。しかし正反対のかたちで。
 私がフォーク・ダンスを踊らされたのは小学生の頃だったが、嫌いだったことしか覚えていない(ちなみに中高は男子校のためフォーク・ダンスなし)。どうやら、この「忌まわしい記憶」は、「アコーディオンが刻むダンス・チューンが嫌い」という症状に姿を変えて現在に至っており、ジグとかリールとかはどうも好きになれない(なのでアルビオン・カントリー・バンドとかぜんぜん駄目。ボシー・バンドぐらいまで行くとまた話は別なのだが)。オシアンの奏でる叙情馥郁たるスロー・エアーに魅せられる由縁である。
 もうひとつは中世音楽への好みがあるだろう。もともとポリフォニーは好きだったのだが、それに加えて前述の小石川図書館から借り出して聴いた「スペイン古楽集成」シリーズ(原盤は西イスパヴォックス)の、簡素にして滋味豊かな味わいと、遠くで小鳥の声が聞こえる不思議な響きに魅惑されてしまったのだ。特に第1集のアルフォンソ賢王によるカンティガは繰り返し聴いたように思う。ここで聴くことのできる旋律は、その後に中世音楽やそれを題材としたトラッド・フォーク系の作品を渉猟する中で何度も懐かしく出会うこととなり、まるでデジャヴのように私を導いてくれた。と同時に、世俗音楽としての古楽へと道を開いてくれることにもなった。ゴシック聖堂に響き渡る荘厳な合唱ではなく、鼻が詰まったようなクルムホルンやノイジーなさわりを豊かに含んだ打楽器類が鳴り渡るけたたましいドンチャン騒ぎの魅力。The Boston Camerata / A Medieval Christmas (Nonsuch) とか、長岡鉄男が優秀録音として紹介したJoculatores Upsaliensesなど。当時は中世音楽のLPを買うのに、クルムホルンが入っているかどうかで判断していた記憶がある。さらには、これはまあ今から思えばだが、構造計算を駆使した建築物にも似たバッハ的な構築(それはきっぱりとした自己完結性を有している)とは明らかに異なる、響きやにじみにより輪郭を曖昧にした空間親和的な組み立て(それはまた空間に溶け出したり、侵食されたりすることでもあるのだが)に触れ、それを楽しんでいたということでもあるのだろう。



Pentangle / Cruel Sister


ペンタングルの演奏風景
この写真はいいですね。youtube等で動画もどうぞ。



Ossian / Ossian
気品あるたおやかさ、典雅さが際立つ1枚。



Malicorne / Almanach (Hexagone)


Malicorne / En Public (Hexagone)
これはCDのジャケット。
LPは右下隅がめくれているのだが、
写真が見つからず残念。



スペイン古楽集成第1集
アルフォンソ賢王のカンティガ



Boston Camerata / A Medieval Christmas



Joculatores Upsalienses /
Skogen, Flickan och Flaskan (BIS)
森、女、酒というすごいタイトル。

スポンサーサイト


ディスク・レヴュー | 14:53:09 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad