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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー2011年10~12月(第1部)  Disk Revivew Oct.to Dec.2011 (Part 1)
 【前口上】
 本来なら1月中に掲載すべき2011年ディスク・レヴューの締めくくりを遅ればせながらお届けしたい。‥‥と言いながら今回では終わらず、少なくとも3回以上に分けて掲載することをお許しいただきたい。これも2011年の締めくくりとあって、いろいろと漁った結果、紹介すべき作品が多くなってしまったためである(それでもトラッド系やECMなどなど、漏れは山ほどあるのだが)。
 とりあえず今回は「アコースティック・インプロヴィゼーション篇」ということで7作品を選定した。次回はよりエレクトロ・アコースティックな視点から、さらに次々回はこれら2つの領域にかまけていて全く紹介できないできたポップ・ミュージックの分野から、それぞれおすすめの作品を採りあげることとしたい。それらひっくるめての年間ベスト選は、昨年に引き続き多田雅範、堀内宏公両氏による音楽サイトmusicircusのご厚意で、そちらに掲載していただけることになった(記事がアップされた後、改めてURLをお知らせします)。この場を借りて感謝したい(いつもお世話になっております)。なお、2010年は自分のブログでディスク・レヴューをしていなかったので、ここぞとばかり30作品も掲載させていただいたが、今回は規定通りの10作品(+α)ということで。
 それでは早速始めることにしよう。


Kang Tae Hwan / Sorefa
Audioguy Records AGCD0031
Kang Tae Hwan(alto saxophone)
試聴:

 床に胡坐をかいて、床面に接しそうな低い位置に楽器を携える独特のフォームを編み出してから二十余年。その間にカン・テーファンが生み出してきた様々な様態の流動と充満-ちらつき、たゆたい、ひたひたと足元から満ちてきて、ゆらり揺らめいたかと思うと突如として沸騰し、裂け目から隆起して、空高く潮を噴きあげる-を、ここに聴き取ることができる集大成(2CD)。サイレンにも似た素早い回転の底の方から、ゆるやかにうねり脈打つ何者かがゆっくりと頭をもたげてくる。同じくノンブレス・マルチフォニックスを操りながら、倍音の上澄みを泡立たせるEvan Parkerとの違いはここにある。それゆえ限りなく引き延ばされた一音にも、一段抜かしで上昇下降する各音にも多声のざわめき(叫び、つぶやき、吐息等)がひしめいている。大河を思わせる一見滔々たる流れの内奥で複数の振動がせめぎあい、ミクロな戦闘が絶え間なく繰り広げられている様は、フィールドレコーディングが幅広く聴かれるようになり、ドローンが解像度の低いぼやけたミニマル・ミュージックではなく、刻一刻生成するものと認識された現在の方が看て取りやすいだろう。さらに凍りつくほどに透き通った最高音が日本刀のように張り詰めた弧を描き、リードの軋みが陽炎の如く背後で立ち騒いで、無重力状態で漂う複数の音色がにじむように溶け合う場面は、前回採りあげたThe Clarinetsの最良の瞬間をも凌ぐかと思われる。レーベル名通り録音もまた素晴らしい。音圧が増すほどに静けさが滲みてくるようだ。ともあれ必聴作品。


Christian Munthe, Christine Sehnaoui / Yardangs
Mandorla MAN CD002
Christian Munthe(acoustic guitar), Christine Sehnaoui(alto saxophone)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/mandorla/man-cd002.html

 沈黙を鋭く切り裂き、さえずり、ふつふつと泡立ち、弧を描いて、砕け散り、中空を漂い、あるいは低く地を這う多様多彩なサウンドを、直立させて捧げ持ったアルトからサンプラーなどとても敵わぬ速度で瞬時に引き出してみせるSehnaouiの演奏には、やはり多彩なサウンドを追求し(アルト・サックスをゲーム・コールズ=呼子笛の束に分解し尽くしてしまうほど)、それらを高速でパッチワークしてみせたJohn Zornが宿命的に背負っていた、あの加速へのオブセッションが感じられない。アナログなテープのパンチ・インではなく、デジタルなレイヤーの敷き重ねによるサウンドのミクロな起伏のあり方が、彼女にとってはもうデフォルトとなっているからだろうか。その演奏は、ナノ・レヴェルの微細構造をリアルタイムでスキャンしていくような冷ややかさに満ちている。同様の手触りはMuntheの演奏にも感じられる。発音体としてのギターに様々な視点/角度からアクトしながら、そこにはDerek Baileyのランゲージ感覚も、あるいはFred Frithの楽器のコントロールに対する万能感も見られない。あるべき点にあるべき音が置かれ、その強度が空間を変形しながらしかるべき起伏をつくりだしていく。素晴らしく鮮明な録音も手伝って、インプロヴィゼーションの〈解像度〉が一桁上がっていることに驚かずにはいられない。それは〈即興〉について回るミスティシズムの霧を晴らすものにほかなるまい。エレクトロ・アコースティックを経験したことで、より繊細に刷新された純アコースティックな即興演奏の姿がここにある。


Anthea Caddy, Magda Mayas / Schatten
Dromos Records dromos007
Anthea Caddy(cello), Magda Mayas(piano)
試聴:http://soundcloud.com/dromosrecords/sets/madga-mayas-anthea-caddy

 昨年のベスト30に選出した『Teeming』のデュオ、Magda MayasとChristine Sehnaouiが互いに新たなパートナーと組んで、ここでの揃い踏みとなった。ピアノの内部奏法やプリペアドをはじめとする特殊奏法を当然の前提として使い尽くし、微細な起伏を正確無比につくりだす冷ややかな手触りは、彼女たちにも共通している。違いがあるとすれば、ピアノ弦のうなりや筐体の響きによるくぐもった暗騒音、チェロの持続音と生々しく切り裂かれた空間の余韻等を介して、空間の広がりと奥行きがまざまざと感じ取れるあたりか。雪の結晶の如く、たちまちのうちに消え去ってしまうことが音を二人の間に留め、ピュアリティを確保していた『Yardangs』に対し、こちらの二人は長く尾を引く持続のうちに空間に侵食され、沈黙に蝕まれて劣化/腐食していく音すらも聴く者の眼前に突きつけて止まない。しかし、『Yardangs』が砂丘等に見られる風の浸食による隆起地形を表し、『Schatten』が影を意味する(カヴァーもタイトルを反映して、藍色の和紙に同色のヴィニールのオブジェを貼り付けた1点ごと異なる造形作品)というのも、何やら因縁深い。ともあれアコースティック・インプロヴィゼーションの最先端を示すデュオ2作である。


Hors Ciel [live] / En Sa Propre Nuit
Amor Fati FATUM 020
Benat Achiary(voice), Didier Lasserre(drums)
試聴:http://jazzaparis.canalblog.com/archives/2011/09/27/22103125.html

 バスク地方のトラッドを出自とし、Michel Donedaとの共演等で知られる即興ヴォイス界の伊達男Achiaryの新作は2011年4月パリ公演のライヴ録音。即興ヴォイスとドラムのデュオとなれば、叫びまくり叩きまくりの応酬という「悪しき定型」を予想してしまうが、彼らはそれを快く裏切り、能の謡いやギリシャ悲劇の朗誦、パンソリの胸を締め付けるような物語性、オペラティックな高揚、しめやかな悲歌に至るまで、超人的な集中で身体に過剰な負荷をかけながら歌い語るAchiaryに対し、Lasserreもまたほとんどシンバルとタム(ティンパニのように聞こえる)に限定して厳かに音数を絞り込み、終始張り詰めた舞台を現出させることに成功している。1枚ごとに絵の具をなすりつけた手描きジャケット(当然、1点ごとに微妙に絵柄が異なる)もそうした舞台に似つかわしい。


Greg Kelley, Olivia Block / Resolution
Erstwhile Records erstwhile 063
Greg Kelley(trumpet), Olivia Block(electronics,piano)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/erstwhile/erstwhile-063.html

ほぼ切羽詰った息音しか発しないトランペットを、プリペアドされ、あるいは内部を掻き回され、筐体を叩かれるピアノと、ざらざらしたコンクリートの床面にぶちまけられる木材やガラス瓶、メタル・チューブ等のせわしない響き(おそらくはエレクトロニクスに取り込まれたフィールドレコーディングによる)が窒息させにかかる(あたかも巨大なハイパー・プリペアド・ピアノのように両者は等価に奏される)。地を這いながら水かさを増すピアノの低弦の振動に、トランペットは金属板の震えをもって応答する。響きの上で類似性のあるLethe(桑山清晴)と異なり、彼らはあえてサウンドの次元に留まり、空間の広がりを決して重視しないため、響きが空間でとぐろを巻くような物質性(まざまざと触覚に訴える重みや手触り)はさして感じられないが、その代わりにトランペットの、とてもこの楽器から生み出されるとは思えない不可思議な響きが、このエレクトロ・ァコースティックな〈(抽象)空間〉に様々な速度/強度を注入して止まない。


Toshimaru Nakamura, John Buthcher / Dusted Machinery
Monotype Rec. mono041
Toshimaru Nakamura(no-input mixing board), John Buthcher(soprano sax,tenor sax,feedbach sax)
試聴:http://monotyperecords.com/en/mono041.html

 もともと通常の楽器音とは限りなく遠いところに位置している中村のサウンド(最近のソロ作品『Maruto』(Erstwhile)同様、ガサガサしたとても即物的な音色となっている)を、Butcherはその驚異的な模倣能力で捕獲しにかかる。距離をもって対峙し、相手を対象化しつつ、互いの輪郭を明らかにする代わりに、ここではいきなり相手の懐に飛び込み、渾然一体ひとつとなってサウンドを発する戦略が選び取られている。それゆえ向かい合う二人の演奏者は視界から消え去り、ひとつの音響機械の作動不良や各部の暴走が姿を現わす。3曲目でソプラノ・サックスが突然サイレンのようにけたたましく鳴り響いてからの殺伐としたやりとり(保護回路のパニック的な作動と聴こえる)や4曲目でのサキソフォンによるフィードバックとの肌をすり合わせての鋭敏かつ繊細な並走など実に素晴らしい。


Keiji Haino / Un autre chemin vers l'Ultime
Prele Records prl007
Keiji Haino(ether)
試聴:http://art-into-life.com/?pid=33329409
http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=6249

 灰野敬二が仏ノルマンディー地方の洞窟及び教会で行った無伴奏ヴォイス・ソロを、レーベル主催者で自身フィールドレコーディング作品も多く手がけるEric Cordierが録音し、場の空気を封じ込める。灰野のクレジットが「ヴォイス」でなく「エーテル」と記されているのは、彼らがそこに始原へと遡る灰野の霊的感応力を感じ取ったからだろう。少なくとも作品を聴く限り、演奏/録音のロケーションから想像するほど圧倒的な残響がたゆたうわけではない(その点、大谷地下採石場跡や地下貯水場とは異なる)。とはいえアコースティックな起伏に富んだ環境を率直に活かそうとすれば、まずは朗々と声を響かせればよいのだが、灰野は自らの武器のひとつである聖歌隊のボーイ・ソプラノにも似た澄んだ高音を、ここではほとんど封印しており、代わりに放たれるのはむしろ獣の唸りや咆哮である。私は灰野をまず何よりもヴォーカリストであると考えているが、彼の声による演奏は、何かを表現/表象するというより、声が息苦しいほどに充満し、あるいは跡形もなく蒸発しさって、匂いがたちこめるように空間を染め上げ/染み渡り、空間そのものと化すことにあるように思う。ここで彼は残響が空間を満たし、サウンドの充満が彼の身体を埋もれさせる前に、身体の内側から吐息を、唸りを、叫びを、嗚咽を、異言を、吠声を放つことにより、それらへの抵抗として在る身体の輪郭/限界をまず崩し去ろうとしているようだ(広々とした空間の片隅のちっぽけな窪みに、切れ切れに喉を鳴らしながら苦しげにうずくまる身体)。カヴァー及びリーフレットに掲載された写真は、みな素晴らしく美しいことを最後に付言しておきたい。


『Un autre chemin vers l'Ultime』
裏ジャケット写真


『Un autre chemin vers l'Ultime』
内ジャケット写真
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ディスク・レヴュー | 18:04:34 | トラックバック(0) | コメント(0)
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