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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2011年ポップ・ミュージック選  Disk Reviews for Pop Music Favorites 2011
 【前口上】
 これまでの四半期ごとのディスク・レヴューで採りあげてこなかった、よりポップな視点から12枚のセレクションをお届けしたい。とはいえ、フリー・インプロヴィゼーションやフィールドレコーディングのように、関連レーベルやブログ等も押さえて、それなりに網を張ってチェックしている(それでも漏れは多いが)わけではないし、だいたいが幅が広すぎて、そんなことできるはずもない。好みによる偏りも当然あるので、ベスト・セレクションではなくて、あくまでフェイヴァリッツということでご理解いただきたい。なお、2011年リリース作品のみを対象とし、再発作品は初発時に極めて入手困難だったものだけに限定した。2011年になって初めて聴いて感銘を受けた作品ももちろん多数あるので、これは通常のディスク・レヴューの視点からの作品を含め、追って補足したい。
 なお、購入にあたり頼りにしている情報源は、信頼しているレコード店の入荷情報(作品紹介や試聴トラックを含む)と友人からの口コミが主。レヴューに付した試聴トラックもそうしたお店のものが主になっている。以下の各店には、この場を借りて改めて感謝したい(通常のディスク・レヴューで張っている〈網〉についても、以前に多少触れたが、いずれ詳しくご紹介したい)。
  Meditation http://meditations.jp/
  pastel records http://www.pastelrecords.com/
  p*dis http://www.inpartmaint.com/shop/
  Record Shop Reconquista http://www.reconquista.biz/
  Taiyo Record http://taiyorecord.com/
 なお、韓国ソウルではシンチョンの次のお店を愛用している。
  Hyang Music http://hyangmusic.com/



Mark Fry, The A. Lords / I Lived In Trees
Second Langage SL013
MarkFry(vocals,acoustic guitar,cello), Nicholas Parmer(Spanish guitar,piano,
harmonium,accordion,recorders,autoharp,bouzouki,clarinet,bells,percussion),
Michael Tanner(mellotron,12-string guitar,banjo),
Aine O'Dwyer(harp), Jess Sweetman(flute), Steve Bentley-Klein(viola,violin,cello)
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/mark-fry_pl-743.html
 アシッド・フォーク名盤『Dreaming with Alice』(1972年)で知られる(というより、ほとんどそれでしか知られていない)Mark Fryの新譜は、はかない期待をはるかに裏切る、驚くべき傑作となった。風にそよぐ葉ずれのように、心地よくさわさわと耳を撫で続ける細やかなアコースティック・サウンドには、マルチ楽器奏者Nicholas Parmerの多大な貢献が明らかだが、彼のソロ活動である Directorsoundと聴き比べれば、どうしてもジャンルの枠組みを参照して「それらしく」仕立ててしまう後者に対し、ここではMark Fryがそうした既成の枠組みには到底収まりきれないファンタジーの大樹を広げ、リスのように遊び心豊かなParmerの演奏力を、天まで伸びる幹、生い茂る枝々へと解き放っていることがわかる。ゆったりとしたヴォーカルと演奏の息遣い、歌詞からサウンドの入念なつくりこみ、蛇腹状態に折りたたまれ、開くと夕陽に照らされた木がするするとお月様まで伸びていくジャケットの意匠(中には種子の入った小袋まで封入されている)、イラストレーションに丁寧に描き込まれた小動物たち‥‥この作品いっぱいに詰まった「小さきものへの愛情」にAnthony Phillipsとの共通点を感じる(彼の音楽の最良の瞬間がここにも確実に存在している)。

※蛇腹状のジャケットを開くと下のように‥




Aspidistrafly / A Little Fable
Kitchen Label KI-007
April Lee(vocal,acoustic guitar,glockenspiel,programming, string arrangement),Ricks Ang(electric guitar, programming),Kent Lee(electric bass),Janis Crunch(piano,chorus),Junya Yanagidaira(piano),Hongayoko(piano),Akira, Kosemura(piano),Haruka Nakamura(guitar),Wakako Hanada(violin),Nina Furukawa(viola), Fumiko Kai(viola),Segen Tokuzawa(cello),Kyo Ichinose(string arrangement)
試聴:http://shop.ameto.biz/?pid=37518097
 シンガポールの男女2人組による作品。滞日中に録音され、日本人ミュージシャンが多くサポートしている。ささやくような歌声。さざめく音彩。陽だまりの暖かさ。隅々まで行き届いたアレンジメント。水彩とチョーク。頬に風を感じ、ふと視線を上げるとまぶしさのない穏やかな眺めが窓の向こうに広がる。グループ名はジョージ・オーウェルの小説『Keep the Aspidistra Flying』から採られたというから「節度ある(羽目を外さない)夢想・冒険」といったところか。居心地の良いカフェか骨董店に流れるゆったりとした時間。セピアにくすんだアート・ブック仕様の装丁もまた愛らしい。

※アート・ブックを開くと‥     最後の頁に美麗なCDが
 



Federico Durand / El Extasis De Las Flores Pequenas
Own Records ownrec56
all melodies and field recordings by Federico Durand
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/federico-durand-pl-632.html
 クレジット通りにフィールドレコーディングされた環境音が多用されるが、それは〈外〉を手探るのではなく、ひたすらに〈内〉を見守り、その手触りを確かめるためだけに用いられる。浮かび上がる見たことのない風景。綿菓子のように溶けていく懐かしさ。思い出の糸をどこまでもさかのぼる音の魔法。聴き続けていたら現実感を喪失して、そのまま朽ち果ててしまいそうな、あまりにも危うい甘やかさ。現実逃避型フィールドレコーディング/セピア系アンビエントの極致。




Charalambides / Exile
Kranky Krank158
Christina Carter(voice,electric guitar,piano),Tom Carter(electric guitar, acoustic guitar, acoustic resonator guitar, electric piano,moog,bass guitar)
Helena Espvall(cello),Margarida Garcia(Upright bass)
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/charalambides_pl-717.html
ふらふらと震え漂う漂泊の響きを奏で続けて20年。音を絞り込んで移ろうべき余白を充分にたたえた本作は、タイトルからして彼らの原点/本質に回帰した感がある(現実喪失感の強さならこちらも負けてはいない)。Christinaのソロ『Original Darkness』のあらゆる輪郭を溶かす真っ白に輝く虚ろな闇(「白暗淵」と呼ぶにふさわしい)に比べ、こちらは霧状に重く垂れ込め虹のように弧を描くTomのギターが時の経過を引き延ばし、溶解の速度をずるずると遅れさせていく。2人の間に働く然るべきデュオの力学が、燃え尽きることのない活動を支えているのだろう。ハーディ・ガーディにも似た、チェロのノイジーにささくれだった倍音も効果的だ(1曲のみの参加ではあるが)。3:1の横長に区切られたグリッドに、画像をそれとはずらして反復したジャケットの意匠も素晴らしい。



Minamo / Documental
Room 40 RM443
Keiichi Sugimoto,Yuichiro Iwashita,Namiko Sasamoto,Tetsuro Yasunaga
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/minamo_pl-751.html
エレクトロニクスやコンピュータによるサウンドとアコースティックな楽器音等を共に活用することは、いまやポップ・ミュージックの現場で幅広く行われているのだから、エレクトロ・アコースティックな視点からサウンドを生み出すことを「実験音楽」とか「電子音楽」等のくくりでとらえることには賛成できない。その点でMinamoはポップ・ミュージックを演奏するグループだと言ってよいだろう(Mimeoの隣に置くのではなくて)。今回は原音忠実度の高いDSD 1bitレコーダーの導入により、彼らの生命線とも言うべきサウンドの質感が鮮明さを増し、よりナチュラルに響くようになった。さらにアコースティック楽器を多用し、前作で用いていたフィールドレコーディングによる環境音の使用を基本的に廃したことが、ここではプラスに働いているように思う。これはおそらく彼らの最終的な編集の感覚とも深く関わっているのだが、環境音という〈持続〉を排し、サウンドと沈黙の差異をきっぱり際立たせたことが、空間の響きに対する彼らの感覚の鋭敏さ/繊細さをより十全に引き出している。



Ben Frost, Daniel Bjarnason / Solaris
Bedroom Community HVALUR12CD
performed by Ben Frost & Daniel Bjarnason with Sinfonietta Cracovia
試聴:http://www.linusrecords.jp/products/detail/5934/
 タイトルはもちろんスタニスワフ・レムの傑作SFから。凍てつくほどに冷ややかな平坦さをたたえた弦のたなびきが、眠りを誘うようにゆっくりと潮を満たしては引き、プリペアド・ピアノがオルゴールのごとく時を刻む(本作が凡百の「ポスト・クラシカル」作品から一線を画すのは、この滑らかながらも覚醒した肌触りによる)。タルコフスキーがバッハ作品の使用に求めた高みを仰ぎ見る崇高さよりも、どこまでも水平に彼方を見詰める眼差し。そこに映るのは分厚いガラスの向こう側のモノクロームな風景であり、生々しい息遣いを欠いて後悔に沈んだ記憶であるだろう。



Balmorhea / Live at Sint-Elisabethkerk
Western Vinyl WEST092
Rob Lowe,Michael Muller,Aisha Burns,Travis Chapman,Kendall Clark,Dylan Rieck
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/balmorhea_pl-693.html
 ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、コントラバス、ギター、ドラムの6人編成。各ラインのきっぱりとした彫りの深さ、力みなぎる描線の太さもあって、ポスト・クラシカルにくくられるグループによくあるふやけた微温湯加減は、ここには見られない。結構叩いているドラムがまったく浮いていない(バスドラムの強烈な響きが実に効果的)ことが、そのことを証明しているだろう。クラシカルな典雅さ/重厚さもさることながら、時折ヴォイスが導き入れるアメリカーナな空気が、このグループの本来の味わいなのかもしれない。ライヴ録音会場となった、ベルギーはゲントのエリザベート教会の極上の響きが、彼らの演奏をさらに力強いものにしている。



Julien Chirol, Ensemble Nord-Sud / Anya - L'Esprit Des Tambours Sacres
Music Unit ZZA 161803399
Julien Chirol(composition,direction,trombone),Ensemble Nord-Sud(vn,va,vc,cb,fl,sax,cl,tp,cor,perc,vo)
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/AD1758.html
飛翔するフルート、うねる弦、咆哮する金管、ひたひたと畳み掛ける打楽器隊等によるアンサンブル(マリンバのソロが実に効果的)は、「聖なる太鼓の精」との副題の通り、アンリ・ルソーが描いた幻想のジャングルを思わせる。西アフリカ等に起源を持つキューバの民間信仰サンテリアの独自解釈とのことだが、音楽の組み立ては、バレエ音楽がプリミティヴな不定形の対象を取り扱う際に、多様な音楽言語/音響効果を引用・混交しながら、空間の推移とそこで舞い踊る複数のムーヴメントを統御する仕方(とてつもなく洗練されたモダニズムの暴力と野生のしなやかな優美さ)を思わせる。ストラヴィンスキーによるパレエ・リュス、NYコットン・クラブのデューク・エリントン、冨田勲による『(新)ジャングル大帝』等を参照のこと。



Viceversa En Octeto / Pulsion
レーベル/番号なし pulsion
Lucas Furno(violin), Juan Miguens(contrabass), Juan Pablo Saraco(electric guitar), Lautaro Greco(bandneon), Emiliano Greco(piano), Cesar Rago(violin), Ruben Jurado(viola), Adrian Speziale(cello)
試聴:http://taiyorecord.com/?pid=36934388
http://www.clubdeldisco.com/resena/354_viceversa_pulsion
 アルゼンチン・タンゴの新たな動向としてDiego Schissi Quintetoの先鋭的な演奏が注目を集めており、なるほどいかにも「ポスト・ピアソラ」的な無機質な怜悧さなど素晴らしいのだが、むしろViceversaの若さに任せた突っ走りぶりを買いたい。Greco兄弟を中心としたキンテートの楽器編成はSchissiあるいはピアソラとも同じであり、それにゲストの弦3人を迎えたオクテートも、SchissiのライヴDVD『Tangos:En Vivo』と同じである(ぜひ聴き比べてみて欲しい)。ヴァイオリンやバンドネオンの弾き込み具合に感じられる血の味の濃さ、アンサンブルの急加速/減速時の心臓の鼓動がひとつになるような「運命共同体」的とも言えるスリリングな一体感(Schissiのアンサンブルはもっと「車間距離」を確実に保って模範的)が聴きもの。



コハク / 消えた海、太陽と
pong-kong records 番号なし
miori(singing,guitar),Jules Marcon(bass),Eddie Corman(chorus,keyboard)
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/PONGKONGKOHAKU1.html
 ポンコン・レコードと言えば「ゑでぃまあこん」のレーベルであるのは百も承知の上で、あえて彼らがサポートに回った「コハク」を採りあげるのは、ミノリのか細いが芯の勁さを秘めたまっすぐな声、近景を射通してはるか遠くを眺めやる眼差し、その場で(反動をつけず、溜めもなく、揺らぎもせずに)すっと立ち上がる歌の在り様、そして頭の中にそのまま流れ込んで静かに像を結ぶ言葉の簡潔な確かさ(「地図を描こう‥どこにもない街を」)による。おろしたての万年筆ですうっと引いた線のように水平なメロディをたどる、一歩一歩確かな足取りに、世界から電気がすべてなくなっても、この歌は残ると思わずにはいられない。



HAWAAII (하와이) / 티켓 두 장 주세요
SY01
Earip이아립 (vocal,guitar,xylophone,shaker)
Lee Ho Seok 이호석 (vocal,guitar,nmandolin,kazoo,tambourine)
試聴*:http://j1muzak.tumblr.com/post/11183001955/hawaaii-two-tickets-please
    http://www.youtube.com/watch?v=MtlVGxiPNnU
 ジャケットに映る女性ちょっとパンクな金髪/サングラス姿に反して、楽しげに「みんなのうた」やボサノヴァを弾き歌う韓国のフォーク・デュオ。ソウルで毎冬に開催されるレーベル・マーケットで購入したので、インディーズであること以外詳しいことはわからないのだが、何しろ女性ヴォーカル(Sweaterのヴォーカルらしいが、こっちの方がステキ)の天真爛漫な伸びやかさが素晴らしい。ハスキーなかすれを少しだけ帯びてジャズも似合いそうなのに、そうした憂いは表に出さずに、雲ひとつなく晴れ渡ったメロディを、もっともらしく気取ったポーズ(はしゃいだり、ささやいたり、アニメ声だったり、R&B風に揺らしたり、不思議ちゃんだったり‥)をつけずにあっけらかんと歌ってしまう自然体が、美しく健康的な素肌の魅力を最大限に引き出している。他の作品に比べ情報が入手困難と思われるので、「試聴*」欄には、彼らを紹介しているブログ記事(英文)とライヴ動画のURLを載せておくことにしたい。



Sandstone / Can You Mend a Silver Thread ?
Lion Production LION648
David Robert Scheirer(guitar,mandolin,vocals),Lourie Brounstein(guitar,vocals),Mario Grella(guitar,mandolin,vocals)&guests(flute,recorder,electric bass,drums,violin,viola,cello,piano,harpsichord)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=CbKNBszXKzA
   http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=21
 誰も手に取らないぐらいダサいジャケの中には、70年代に米国ペンシルヴァニアで夢見られた過去の英国の幻が魔法のように詰まっている。慎ましやかなハープシコードと弦、リコーダーのアンサンブルに柔らかなコーラスが重ねられる冒頭からすでに、トラッドからさらに古楽へと溯りつつ、〈いま/ここ〉とは異なるゆるやかな時が流れ始める。「祖母の嫁入り道具をしまい込んだ屋根裏部屋」に忍び込んだ子どもの、埃の積もった家具や黴くさいドレス、セピア色に退色したアルバム等を巡る、はるか彼方にまばゆく輝くあり得ない記憶への、束の間の夢の旅路。当時300枚程度のプレスだったものの再発作品。




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ディスク・レヴュー | 22:11:44 | トラックバック(0) | コメント(0)
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