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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ゆらぎの諸作法-「タダマス6」レヴュー  Manners of Fluctuation-Review for “TADA-MASU 6”
【前口上】
 益子博之・多田雅範(私の言うところの批評ユニット「タダマス」)による「四谷音盤茶会」も今回(7月22日)で6回目を迎えた。企画の継続をまずは喜びたい。今回のゲストは先頃このブログでもレヴューした注目作『Acoustic Fluid』をリリースしたサックス奏者/作曲家の橋爪亮督。また、当日のプレイリストの詳細についてはyotsuya tea partyのページ(*1)を参照していただきたい。
 さて、遅ればせながらの私のレヴューはいつものことながら、必ずしも当日の展開を網羅したものではなく、私の視点/関心によって切り取られたものであることをお断りしておく。


1.サウンドスケープ化の諸形態

 今回の前半は、これまで何度かこの場で指摘されてきたNYダウンタウン・シーンに顕著な方向性を「サウンドスケープ化」(それは「触覚の浮上」をはじめ、多様な局面を指し示した、言わば総括的な呼称である)とくくりながら、そうした傾向のヴァリエーションを改めておさらいするかたちとなった。
 Colin Stetson『New History Warfare Vol.2 – Judges』に聴かれるバス・サックスの重層的な倍音とその向こうで翻る声、Mike Reed's People Places and Things『Clean on the Corner』で弓弾きベースのフラジオ音と溶け合う2管の吐息、Francois Houle 5+1『Genera』における純音志向のクラリネットのどこかぬるりとしたとらえどころのなさ、ヴァイオリンのかすれや倍音がエレクトロニクスの波に溶けていくHugo Carvalhais『Particula』等、フレーズ/フォルムを離れ、トーン/マティエールそのものと化した響きが浮遊する様には、確かに共通の手触りが感じられる。
 その一方で、それがごく限られた一側面だけにスポットを当てた聴取なのではないかと、疑問が浮かぶ瞬間も今回は少なくなかったそのことは。音盤紹介役の益子が「他の曲はストレート・アヘッドなジャズ演奏なのだが、この曲だけはこのような特異な演奏になっている」と何度と無く説明したことにも表れていよう。これらは「たまにはこんなのも演ってみよう」と選ばれた、ひとつの趣向に過ぎないのではないか。こうした「サウンドスケープ化」の彼方にジャズの将来を展望することは、全体の中にごくごく微量散りばめられた要素を、都合にあわせて拾い集めているだけではないのか‥と。
 もちろん、そうとばかりは言えまい。選ばれた細部の間の共通性に「徴候」を読み取る限りにおいては。すなわち多様な領域・分野に渡り(それこそNYジャズどころか、音楽の枠組みにすらとらわれないような)、細部の共通の輝きが星座をかたちづくり、それによって巨大な不可視の何かがゆっくりと照らし出されていくのであれば。そこでは「徴候」としてとらえられる共通の細部が「なぜ共通性があるように感じられるのか」ということ自体が、同時に鋭く問われてくることになる。
 そうした「徴候」の扱いを誤り、ある一見客観的な基準の機械的な当てはめによって「類似」を見出したり、人脈/影響関係、スタイルや地域性に還元し、「傾向」として実体化を急げば、先に述べた陥穽にはまってしまうことになるだろう。
 その点、益子や多田はこれまで「徴候」読みの姿勢を崩すことはなかったように思う。
今回、いささか危うさがあったとすれば、前半のプログラム(選盤・選曲)が橋爪亮督グループによる「十五夜」のライヴ演奏(アルバムに収められた演奏とは異なる)に向けた試行錯誤のアプローチのように聴こえてしまったことだろう。特に直前に置かれたFly(Mark Turner)『Year of the Snake』からの3つのインターリュード的演奏(ここでも「これらの演奏以外は、よりストレート・アヘッドなプレイなのだが‥」と説明が入る)など、まさに「十五夜」的なものの「前夜」のように感じられた。
 いったんこうした構図が描かれてしまうと、「十五夜」があるべきひとつの先端/突出点として「サウンドスケープ化」のスペクトルが描かれるように見えてしまいかねない。そこには西洋/東洋の文化の違いといった、いささか危うい対比軸も含まれてきていたように思う(※)。たしかにこの「十五夜」のライヴ演奏は、非常な深みに達した見事な演奏なのだが、彼らの演奏がこの曲を山頂としていて、『Acoustic Fluid』収録の他の曲は、これに対して裾野を形成しているというわけではない。当日のやりとりでも橋爪自身、この曲/演奏の特異性を強調していた。

※佐伯隆幸はフランス「太陽劇団」の演出家ムヌーシュキンの視点として、偉大なテクストの演劇である西洋演劇と、俳優の技芸としての東洋演劇という対比を紹介している(『記憶の劇場 劇場の記憶』れんが書房新社)。この対比図式自体に問題なしとはしないが、こうした大きな構図の問題系が提出され、なおかつそれが創作へと反映していくのであれば、とりあえず生産的と考えることができる。しかし、西洋/東洋(やさらに細かいエリアごとの)の文化の違いを実体化し、それをさらに他へ適用するとなると問題が多いように思う。益子・多田が時折触れる森本恭正『西洋音楽論 クラシックに狂気を聴け』(光文社新書)も、角田忠信『日本人の脳-脳の働きと東西の文化』を引くなど、問題が多いように思う。今回の対話でも、「サウンドスケープ化」への志向が、自分たちの文化にはない要素を目指すエキゾティシズムの一種として解釈されるところがあったように思う。音楽はもともとエキゾティシズムを重要な要素/魅力として持っているわけで、そこに話を落としてしまうのでは面白くない。

  
     Colin Stetson         Mike Reed's PP&T       Francois Houle 5+1

  
    Hugo Carvalhais        Fly(Mark Turner)         橋爪亮督グループ


2.ゆらぎの諸作法

 後半はリズム/サウンドのゆらぎに着目した展開となった。こうした傾向も前出の「サウンドスケープ化」の一環ととらえられるのだろうが、それを実現する手法、取り組みの姿勢や目的意識に様々な違いが見られるとともに、最終的な完成形に非常に聴き応えがあり面白かった。
 アルゼンチン出身だというGuillermo Klein & Los Guachos『Carrera』がビートの支えを一片ずつ抜いてフラクタル状にスカスカにしていく、脱構築(デコンストラクション)的なゆらぎは、ラテンの哀愁漂うメロディとの取り合わせにより、どこかアルゼンチン・タンゴを思わせる行きつ戻りつ突っかえるリズムを織り成しているのが大層魅力的だった。また、Tomas Fujiwara & The Hook Up『The Air Is Different』は、「四谷音盤茶会」の常連と言うべきMary Halvorsonのギターのたどたどしい刻みや唸りが、風景を傾け、奥へと回り込むようにゆっくりと回転させていく。ルーズさゆえに踏み外し、縁からこぼれていく響きがとても印象的だ。精密に組み上げたグリッドをずらしていくとか、異なる拍子をぶつけ合わせるといったタイト系とは異なる「豊かさ」が感じられる。「Henry Threadgillがユルくなった感じ」という多田の指摘に同感。
 その御大によるHenry Threadgill Zooid『Tomorrow Sunny/The Revelry, Spp』は流石の出来。今回はドラムスを中心に、アコースティック・ベース・ギターとチューバ、チェロとギターを左右対称に並べた布陣で、シリンダー錠のように同心円状かつ放射状に色分けされた区画が、カチカチと回転して角度を切り替えながら明滅し、音の文様を鮮やかに組み替えていく。といいながら場面が一挙に変わるのではなく、編み上げられた毛糸の色合いや重ね方/交わり方が変化することにより、編み目がねじれていく感じ。Henry Threadgillのリードも、それを背景としてブロウするのではなく、編み込みの中に進入し、その一部となって文様を息づかせていく。寸断されたフラクタルな対位法。あるいは絡まりあうように群れて飛びながら、決してぶつかることのない蝶の集団の動き。益子はベースの武石務に直接聞いたとして「このアンサンブルには禁則がすごく多い」という話を紹介していた。とすれば、相互排除によるスペースの確保とそこへの出入りの作法のルール化ということなのだろうか。

       
Guillermo Klein & Los Guachos Tomas Fujiwara & The Hook Up  Henry Threadgill Zooid
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ライヴ/イヴェント・レヴュー | 19:21:17 | トラックバック(0) | コメント(0)
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