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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー2012年1~3月②+4~6月①  Disk Review Jan. - Mar. vol.2 + Apr. - Jun. Vol.1, 2012
【前口上】
 Lucio Capece『Zero Plus Zero』(Potlatch)を論じたことをきっかけとして、風景と建築等について考える中で、エレクトロ・アコースティック系の即興演奏やフィールドレコーディング作品数点を採りあげてしまったことから、レギュラーのディスク・レヴューがすっかり滞ってしまった。その間にAnother TimbreやPotlatchからは次の新譜がリリースされるなど、すっかり「周回遅れ」状況となってしまったので、ここで急ぎ何とか辻褄を合わせておきたいと思う。前述のLucio Capece『Zero Plus Zero』絡みで計6点をレヴューしているので、ここでは2012年1~3月期と4~6月期の2期分の残りとして8点を採りあげることとしたい。なお、急拵えゆえ、ディスク・レヴュー全体の構成を組み立てるに至らず、各盤の評文が並んでいるだけの代物だがご容赦いただきたい。なお、エレクトロ・アコースティック系以外の即興演奏やポップ・ミュージックについても1~3月期分こそアップしたものの、その後はMasabumi Kikuchi Tro『Sunrise』と橋爪亮督グループ『Acoustic Fluid』を各々単独で論じたにとどまっているので、こちらについても近日中に埋め合わせしたいと考えている。


Jakob Ullmann / Fremde Zeit - Addendum
Edition RZ RZ1026-1028
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=15864

 霧の彼方から聴こえてくるおぼろで虚ろな鳴り。暗闇の中でゆっくりと伸び縮みする音のかげ。耳の奥で鳴り止まない響き。モノクロ映画の無音のスローモーション。長い間を置いて弱音が鳴らされる演奏は数多いが、本作はコンセプチュアルでもなければ、点描的でもない点で、それらと一線を画する。この眼を凝らしても一向に輪郭を明らかにせず、闇に溶け、滲み広がるような音のあり方は本当に独特だ。今まで聴いたことがない(基本的には管弦楽器のアンサンブルやソロの作品であるにもかかわらず)。雅楽の最も静謐な瞬間を闇に沈めたところを想像してもらおうか。あるいはうつらうつらとした夢うつつのうちに気がつくともう遠く通り過ぎている夜汽車の踏み切りや、鳴り終わってから気づく階下の大時計の打刻鳴鐘、とうに灯明を消したはずの仏間から漂ってくる香の匂いを。古井由吉の作品から聴こえてくる誰のものともつかぬ(死者の)声を思わせる音の手触り。それは沈黙のざわめきを照らし出すことなく、ただ音もなく暗い淵へと吸い込まれていく。こうした特質は1枚目に収められた「消えていく音楽」から明らかだが、3枚目全てを占める「プラハ」がやはり素晴らしい。傑作。このような作品をCD3枚組ボックスでリリースするEdition RZの相変わらずの慧眼を称えたい。


i treni inerti / luz azul
flexion records flex_002
Ruth Barberan(tp,objects), Alfredo Costa Monteiro(acc,objects)
試聴:http://www.flexionrecords.net/?page_id=410

 Michel DonedaとJonas Kocherのデュオ(素晴らしい!)に続くflexionからの2作目は鉄道の線路が傍らを走るオリーヴ畑の只中で、深夜から明け方にかけて屋外録音された。様々な音具をベルやマウスピースに触れさせなから吹奏されるトランペットは、その分割共振を得て、空気の粒を躍らせるような、何とも見事な震えを見せる(時にそれはバケツや空き缶を掻き回したような喧騒へと至る)。一方アコーディオンは、金属リードの鳴りに様々な軋みや倍音を付加しながら、空間を鷲掴みにするトランペットとはまた別様の震えをつくりだす。共に響きは内省的でありながら、互いに向かい合い対話の中に閉じることがない。車の走行音や犬の吠え声、風の音等がどんどんと入り込んでくる中で、それらと共存しながら、オリーヴの木々の間に向かって、遠くを照らし出すように開放的に放射されていく。その極致が突如として現れる列車の通過音との交錯だろう。演奏は列車の轟音(重みを持ちながら乾いたいい音だ)に掻き消されながら、それに対抗するのでなく、かと言って伴奏するのでもなく、そのまま受け入れ、共存し、後をじっと見送る。


Osvaldo Collucino / Atto
another timre at50
Osvaldo Collucino(acoustic objects)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=1msEYO-nOsg

 以前に2010年ベスト30に『Gemina』を選んだイタリアの作曲家の新作は、楽器や電子操作を用いない、アコースティック・オブジェクツのみによる演奏となった。とは言え、カチカチ/サワサワ/チリチリ/‥‥といった所謂「物音系」とは程遠く、ほとばしり、叩きつけ、粉々に砕け散り、散り散りになって空に舞い、滔々と流れ出す千変万化のアコースティックな流動と空間のパースペクティヴ構成の絶え間ない変化がここにはある。カメラは一瞬たりとも立ち止まることなく動き続け、それにより差し込む光も刻一刻と変化し、眼の前で立ち起こっている巨大な何かが、一望の下にはとらえきれず視界から溢れ出す。にもかかわらず、全編は揺ぎ無い構築感で覆い尽くされている。音素材の質感/粒立ちの違い、空間の響きの手触りを保ちながら、集合的な速度/運動性を極限まで解き放つことにより、唐突に噴出/衝突/交錯/切断される圧倒的な奔流は、時にヤニス・クセナキスのアンサンブルを思わせる。


Annette Krebs, Anthea Caddy, Magda Mayas / Thread
another timre at48
Annette Krebs(prepared g,objects,tapes,mixing desk), Anthea Caddy(vc), Magda Mayas(p)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=dT5caF2RCPA
 
 引き締まった強靭な打鍵も引き絞られた弦の張り詰めた軋みも、突如噴出する弓弾きの重厚なアタックも掻き鳴らされたピアノ弦の遠い響きも、ここで目を見張る強度でぶつかり合うアコースティックな音たちは、それでもなお演奏の素材に過ぎない。全体を統括し、舞台を監督/進行しているのは、Klebsによるミクシングやテープの挿入である。彼女はテープによるヴォイスの断片を放ちながら、他の2人と同じ水準に立つことはない(演出家と俳優と言ったところだろうか)。常にメタ的なねじれの位置を確保しながら、音響を操作し、チープなエレクトロニスの埃っぽさに他の2人をまみれさせる。逆に言えば、そのような空間を彼女が常に仕掛け続けることが、ピアノやチェロの圧縮された音響(ほとんど電子的音な)を引き出し、2人のサウンドの応酬の均衡点をずらし続けているのだろう。その意味でKlebsが2人の音像を操作することなく、自身は希薄に遍在/偏在化していく様は興味深い。アコースティック・インプロヴィゼーションの切り立った「速さ」とエレクトロニクスの次第に甘美に溶け広がり、飴のように伸びて深みにはまっていく「遅さ」の対比が見事。


Alfredo Costa Monteiro / Umbralia
Triple Bath TRB 031
Alfredo Costa Monteiro(el-org)
試聴:http://www.triplebath.gr/releases/trb.031_umbralia.html

 アテネのドローン系レーベルから。アコーディオン、ギター、ターンテーブル、ラップトップ等を駆使して、即興演奏からサウンド・アートまで幅広い領域で活躍する彼は、ここでエレクトリック・オルガンによる重層的なドローン演奏を試みている。明滅する繰り返し、鋭く射通すような持続音、がさがさとしたざわめきの抑制された変化が、凍てついた静謐さから冷たく沸騰する喧騒に至るまで、空間の様々な組織を切り開いてみせる。ここで音は空間の中に置かれない。むしろ空間から取り出された何か特定の性質が、音のかたちをとって露呈しているように感じられる。解剖台の上で無影灯に照らし出されるように、徹底して無機質かつモノクロームな音色の選択をはじめ、極めてハードコアな透徹した美意識が感じられる。


Ollivier Coupille / Entrelacs
loligo 5
Ollivier Coupille(live electronics)
試聴:http://homepage2.nifty.com/paganmusik/omega/new1205.html

 彼のライヴ・エレクトロニクスによる演奏風景をyoutubeで垣間見ることができるが(※)、がらんとしたホワイト・キュープの中に座り込んで、古めかしい電子機器のツマミをいじくり回す姿はアナクロニックな怪人といった風情。そこでのサウンドは演奏の身体動作にそのまま見合ったもので、いかにも電子回路が発振/変調しているといったものなのだが、最近の作品では一皮剥けた演奏を聴くことができる。かつては突発的/刹那的だった電子音の噴出が、ここではミニマルな脈動やパルスの放出とは異なる起伏を獲得している。その古風で厳つい音色は、直ちにかつてのDavid Tudorを思い出させるが、彼が編み上げた蔓植物が縦横に繁茂する密林を思わせる濃密なアンビエントに対し、Coupilleがつくりだすのはアザラシやアシカ、クジラ、シャチ等が冷たい海の中を自由に泳ぎ回りながら鳴き交わす呼び声の多重な交錯である。音景の中央で頭をもたげ、身をよじりくねらせる音と、その背後でつぶやき、ざわめきながら生成変化を続ける響きは、ほとんど同じ姿をしている。電子変調の連鎖/相互干渉により巧みに構築された空間はそれ自体が巨大な生き物であるかのように息づいている。
※http://www.youtube.com/watch?v=W0T1oRwSi3k


Eyvind Kang / Visible Breath
Ideologic Organ SOMA 004
Stewart Dempste(tb),Julian Priester(tb),Cuong Vu(tp),Taina Karr(oboe),Timb Harris(vn),Eyvind Kang(va),Jessika Kenney(vo),Miguel Frasconi(glass),Cristina Valdez(p),Steve Moore(el-p),Susan Alcom(pedal steel g),Janet Leppin(modified vc)
試聴:http://soundcloud.com/experimedia/eyvind-kang-visible-breath

 何よりもLPのA面に収められた表題曲(15分弱)を。雅楽的とも言うべき管弦の水平なたなびきの積み重なりが、しめやかな儀式を思わせる。時折、それらをかがるパーカッシッヴな打撃が、時を引き締める。トロンボーンの太い持続音が加わって低音の厚みを増すと、アンサンブルの色合いはチベット密教を思わせるものとなる(Dempsterの参加していたDeep Listening Bandの距離を介した呼び交わしはここにはない)。たちこめる倍音の中、グラスハープが響きの輪を静かに広げ、灯明のように揺らめかせる。そうした響きに照らし出されながら、持続音は緩やかに上下しながら交錯し、ゆっくりと引き延ばされ波打つ時間が、船酔いするような幻惑的なうねりをつくりだす。


Michael Pisaro / Fields Have Ears (6)
Gravity Wave gw 007
Michael Pisaro(composition,g,electronics,recording,mixing,mastering)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/gravitywave/gw-007.html

 もともとはクラシック・ギターと正弦波のための作品だったものが、エレクトリック・ギターと演奏した都市の街頭風景のフィールドレコーディング等を加えることにより、全く違うヴァージョンへと変化している。全体にかけられたもやがリアリティを消去し、想起モードのスヴィッチを入れて、ノスタルジーを呼び覚ます。オート・スライドのように次々と切り替えられていく風景は、どこか古びたジュークボックスから流れるオールディズのヒット・パレードにも似た、頭の芯が痺れるような甘美さをたたえている(実際に街頭にポップスが流れる瞬間もある)。と同時に環境音もまたセピア色の絵葉書のように、切ない記憶のひとコマとして甘やかに浮かび上がる。フォトジェニック/フォノジェニックな断片の浮き沈みによる、かつて『July Mountain』で試みられた魅惑的なスウィートネスの追及がここにも。コンセプチュアルなタイム・コンポジションや崇高にそそり立つ音響建築よりも、これが彼の本質なのではないかと思わずにはいられない。

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ディスク・レヴュー | 17:02:08 | トラックバック(0) | コメント(0)
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