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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー2012年4~6月期② Disk Review Apr. - Jun. 2012 vol.2
【前口上】
 エレクトロ・アコースティック系の即興演奏やフィールドレコーディング作品に続いて、そうではない分野からやはり即興性の高い音楽の注目盤を選んで、レヴューをお届けしたい。前回予告させていただいたように単独レヴューで採りあげたKikuchi Masabumi Trio『Sunrise』と橋爪亮督グループ『Acoustic Fluid』を除き、今回は対象を5枚とさせていたただいた。実は他にも最近届いた注目盤はあるのだが、それは次回7~9月期に回すこととしたい。以降も必要があれば単独レヴューも織り交ぜながら、できるだけタイムリーな紹介を心がけていきたいと思う(自戒を込めて)。ご期待いただきたい。


Shelley Hirsch, Simon Ho / Where Were You Then ?
Tzadik TZ7638
Shelley Hirsch(vocals), Simon Ho(sequencer,p,acc,org,key) & vn,va,vc,b,dr,per,tuba
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=15816
 小編成の弦楽アンサンブルあるいはピアノやエレクトロニクスによる演奏は、ヴォードヴィルやバーレスクの舞台よろしく、曲ごとに鮮やかに場面を転換する。そこに性急な(あるいは落ち着き払った)語りから、甲高く浮かれた、あるいは重々しく垂れ込めた詠唱を自在にこなすShelley Hirschが降り立つ。全体としては語りを中心とした一人オペレッタの様相(コーラスや掛け合いも彼女自身が声音を変えながら多重録音によりこなしている。「オー・ソレ・ミーオ」のような有名曲の断片が引用される場面も)。鼻にかかった甘えた声音のとろけるような甘美さと南国の花々の如く香るエキゾティシズム。「異郷の歌姫」をマルチで演じる彼女は、かつて『Haiku Lingo』でしてみせたように身体をスクリーンの一部としてサウンドを映し出し、変幻自在にそれに溶け込むかと思えば、自伝的作品『O Little Town of East New York』で試みたように多様な声音や抑揚の変化を通じて、身体の内なる記憶から表面に様々なキャラクターを投影し、次から次へ鮮やかな変貌を遂げてみせる。彼女のピグマリオン的な個性と様々な音楽的機械仕掛け(オルゴールを模した音色や遊園地に鳴り渡る世紀末風ワルツ)とがあいまったからくり仕掛けの人形舞台は、同時にミュンヘン・オリンピックの悲劇や9.11等のテロリズム同時代史を背景として、繊細なプロセッシングと多重な投影が複雑な像を浮かび上がらせる。


The New Trio / Melting Game
jazzwerkstatt 101
Gunter BABY Sommer(dr,per), Floros Floridis(as,cl,bcl),Akira Ando(b)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=15919
 東独時代から独自の活動を続ける御大ギュンター・ゾマーの新グループはギリシャからフローロス・フローリディスを迎えたトリオとなった。流れる雲を眺めながらそぞろ歩くような冒頭曲から、街頭へと繰り出すドラムを吠え声が煽り、サックスが大道を千鳥足で練り歩くチンドン的(あるいは葬送祭礼的)アンサンブル。むしろ線の細い叙情派との印象が強かったフローリディスも、ここではニンニクと生のままのオリーヴ油の香る地中海エスニック風味の濃い演奏(そこには当然アラビアやビザンティンの影響もうかがえる)を存分に展開している。ベース(日本人奏者か)もまたリズム・セクションの基底を支えるというより、奔放に暴れつつ転がる石に巧妙に角を立て、表現の領野を押し広げている印象。総じてざっくりとした線の太さとそれを可能ならしめている軽妙な筆遣いが見事。トラッド特有の血の濃さ、血潮の熱さをも感じさせる。ジャズの太い根に基盤を置きながら、そこから別の幹を生やし、枝を伸ばし葉を繁らせた街頭徘徊型民族フリー。


Gareth Davis, Frances-Marie Uitti / Gramercy
Miasmah Recordings MIACD019
Gareth Davis(bcl), Frances-Marie Uitti(vc)
試聴:http://www.miasmah.com/recordings/miacd019.html
 チェロとバス・クラリネット。2つの低音楽器が自在に溶け合い、輪郭をあいまいにして重なり合いながらかたちづくるアンサンブルは、白夜の底を覗き込むようなぞっとする深さとどこまでも溢れていく闇にも似た得体の知れない広がりをつくりだす。薄暗がりの中に時折走る目映さと、その傍ら口を開ける漆黒の深淵。絃の軋みに縁取られた輪郭やクラリネットのソノリティが時折水面で身を翻し、その銀色の腹の一部を一瞬垣間見せたとしても、そのほとんどの部分は見通すことのできない水の中に身を沈めている。決して声を張り上げることなく、ゆるやかに闇の底をたゆたい、暗く冷たく思い水をゆっくりと押してくる演奏は、どこかしら黒いヴェールをまとった祈りに似ている。ひたすら水平にたなびき、圧縮された軋みが亀裂を走らせる長尺の5曲目(20分以上に及ぶ)は、彼方に連峰の霞む見渡す限り凍てついた氷原の趣き。両者は時に分かち難く一体となり溶け合って、互いに互いのかげを成すような動きへと近づくのだが、それでも音響のたゆたいやアンビエンスの広がり、多元的な風景の構成へと全てを譲り渡してしまうことなく、あくまでも向かい合う2人の演奏者の身体/サウンドの輪郭にこだわっているように見える。それゆえ音色的には限りなくエレクトロ・アコースティック的でありながら、こちらの枠組みに配した次第。


Reverie Duo / Stagioni
Slam SLAMCD534
Redi Hasa(vc), Valerio Daniele(ac-g)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=15634
 彼らは単にメロディアスに音を紡ぐだけではなく、映画音楽的な仕方で常に情景を喚起しながら演奏を進める。ギター絃のさわりとウードにも似たエキゾティックな音色/奏法が交錯しながら艶やかな音の層を織り成し、チェロの闇夜に響く口笛のようにあえかなフラジオがほのかな香りを添え、あるいはヴィオラ・ダ・ガンバを思わせるくぐもった音色が魅惑的な奥行きを醸し出す。両者とも卓越した演奏技量を備えながら、決して演奏の郷土に任せて突き進むことなく、音色の配合への細やかな心遣いと自らをメロディック/エキゾティックな領域に留め置く柔らかな(だが揺ぎ無い)抑制が音に馨しいサイケデリアを与えている。ECMサウンドよりはより雪解けのゆるやかさへと、あるいはポップ・ミュージックのスウィートネスへと傾いていると言えようか。


Marc Ribot / Silent Movies
Pi Recordings P134
Marc Ribot(g,vib on tr.12), Keefus Ciancia(soundscapes on tr.1,3,7,11,13)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=13377
 マーク・リボーと言えば、自身やジョン・ゾーンのアンサンブルでどこかたどたどしくも70年代的な香り高く弾きまくる姿が浮かぶが、無伴奏ソロではより抑制され絞り込まれた音使いにより、一瞬への信じ難い集中を見せる。弾かれた弦が鳴り響き、唸りや軋みをあげる瞬間、マッチ売りの少女が灯したマッチのように、鮮やかなモノクロームの情景が浮かび上がる。かつてDIWからリリースされた『Don't Blame Me』もそうだった。だがここではその時に感じられた鼻を突く燐の臭いや鮮やかな閃光は影を潜め、幻燈のように浮かび上がる温もり豊かな情景を砂絵のようにゆるやかに崩しながら、切々と場面を移ろわせていく。情景の変容と溶暗が想起の中でつくりだす子ども時代の大事な思い出にも似た甘美な起伏。珠玉の短編集とも言うべき各情景のとびきりの叙情性が素晴らしい。むしろ黒鉛筆の様々な筆触を活かして描き込まれた絵本のページを繰る感覚か。本作品は2010年の作品ゆえ新譜とは言えないが、リリース自体最近知ったことからこの枠で紹介させていただくこととした。



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ディスク・レヴュー | 14:35:55 | トラックバック(0) | コメント(0)
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