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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー2012年4~6月期③ Disk Review Apr. - Jun. 2012 vol.3
【前口上】
 4~6月期のディスク・レヴュー第3弾として「ポップ・ミュージック篇」をお届けする。これまでジャズ等と同じ枠に組み込んだり、年間を通して別枠で紹介していたりしたが、今回は好盤が多かったこともあり、単独枠で規定の7枚を採りあげることとしたい。なお、今後も単独枠を維持できるかどうかは、作品の(入手)状況にも左右されるため未定です。御容赦ください。
 さて今回、単独枠で7枚を確保できた理由として、私には珍しくラテン・ミュージック(ペルーとキューバ)を採りあげていることが大きい。いずれも古典の復刻だが実に素晴らしい。往時の音楽の豊かさ(「音楽が豊かだった時代」と言うべきか)を存分に堪能することができる。今回はそれを含め旧作の再発が3枚ある一方で、サウンド・レイヤーの重ね合わせをはじめ、エレクトロニクスによるサウンド・プロセッシングを駆使した盤もあって、作品の幅はずいぶん広がっていると思う。それではどうぞお楽しみください。


Tia Blake and Her Folk-Group / Folksongs & Ballads
Water water241
Tia Blake(vo), Bernard Vandame(g,vo), Francois Brigot(g,vo), Michel Sada(g), Sydney Aufrere(fl), Gilbert Caranhac(dobro), Eric Kristy(g), Unknown(tanbbourin)
試聴:http://www.pastelrecords.com/SHOP/tia-blake_c-042.html
 C&W調の乾いた刻みとスチール・ギターの絡みにすら、しっとりとしたしなやかさが滲みこみ、翳りと憂い、虚ろさを含んだ低めの声に受け継がれる。弾むようなリズムがどこか夢うつつになって、ブリジット・セント・ジョン(Bredget St John)を思わせるしなやかで奥深いアルト・ヴォイスを浮かべ、運んでくる。パティ・ウォーターズ(Patty Waters)がESPレーベルに残した神経を過負荷で焼き切るような絶唱で知られる「Black Is the Color (of My True Love's Hair)」も、抑制的な語り口が、傍らに暗く口を開いた深淵に身を躍らせることなく、それでもしっかりと縁から底を覗き込んでいる。19歳のアメリカ娘がふとしたことからパリに渡り、そこでオーディションに合格して吹き込まれたレパートリーは英米のトラッド有名曲の数々。希薄なささやきを秘めた柔らかな襞に包まれながらもしんと冷たく静まり返った揺ぎ無い声の芯が、曲想の多様さを貫いて彼女の音楽世界の基底をかたちづくっている。人懐っこい甘さの中にもどこか突き放したクールネス。ここにはフィルム・ノワールにも似た「フランスから見たアメリカ」とも言うべきどこかスタイリッシュな〈距離〉の視線があるように思われてならない。ちなみに録音はサラヴァ等で活躍した名匠ダニエル・ヴァラシアン。この1971年にリリースされた彼女の唯一の作品は、すべての音楽ファンの宝物となるだろう。


Simone White / Silver Silver
Honest Jon's Records HJRCD66
Simone White, Samuel Bing, Julian Wass & vn,whistling,harmony vo,harmonium,bass,g,narration,key,glockenspiel,rhodes,synth
試聴:http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=8256
 ハスキーな憂い(と僅かな不機嫌さ)を含んだ舌足らずのキュートな声は、直ちにスティーナ・ノルデンスタム(Stins Nordenstam)を思わせる。彼女と同じく重力を感じさせないふわふわとした声の足取り。でもとびきり高いヒールにもかかわらず、足元は意外にしっかりしている。一方、バックの演奏はひとり立ち尽くす声をよそに、それに寄り添うでも支えるでもなく、ゆったりと奥深い別の景色を描き上げていく。パーカッションのもたらす深い奥行きに象徴される構築的な音空間は、時に声の手触りを遠く離れて、ギザギザとした急峻な風景や紙やすりのように痛々しくざらついた倍音の層、不釣合いに壮大/雄大に広がる風景をすらかたちづくる。夢見るようなアコースティック・ギターの爪弾きやグロッケンシュピールのきらめきだけが声に寄り添い、こうした背景との乖離を決定的なものとしながら、彼女の声の傷つきやすい可憐さを極限まで引き出そうとする。Grouperのように自らドローンに溶け込んでしまうのではなく、夢を見ながら、それが夢であることに気づいているような不思議な解離感(それはカヴァーに散りばめられた古びた写真の、捏造された記憶のフラッシュバックのような脈絡のなさと強烈なデジャヴュ感によってさらに強められる)。最後に置かれた南国楽園的な響きの小曲が、夢の終わりが淡く溶けていくのを見詰めている。


Biota / Cape Flyaway
ReR BCD7
Kristianne Gle(vo,g), Gordon Whitlow(org,acc), Tom Katsimpalis(g,claviolin), Mark Piersel(g),David Zekman(vn,mandolin), Larry Wilson(per), Steve Scholbe(rubab,g), James Gardner(tp), Randy Yeates(key),Charles O'Meara(p), Randy Miotke(rhodes,acc),William Sharp(electronics,mix), Mnemonists(visuals)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16350
 もともと多楽器による集団即興演奏と環境/工業ノイズや既成音楽断片のコンバインによるヴィジュアル表現を含めた雑色的構築を試みていたMnemonistsが、別プロジェクトとしてBiotaを発足させ、こちらはインダストリアル・オルゴールとも言うべき練磨/結晶化されたノイズのきらめきを経て、プロセッシングがつくりだすぐにゃぐにゃした不定形にして色鮮やかなサイケデリック空間に女性ヴォーカルを迎え入れるというよりポップな形態へと変化していった。本作ではサウンド担当がBiota、メンバーの重複するMnemonistsはヴィジュアル担当と役割分担が確立されている。今回の女性ヴォーカルは声質もメロディもいつになくトラッド的色合いが濃く、サウンドのプロセッシングも細やかさをいや増して、かつてのぐにゃりとした(それこそ諸星大二郎「生物都市」を思わせる)溶解/融合感覚を離れ、その音風景は万華鏡的と言うべき、より硬質な鉱物/結晶性のモザイク的構築が卓越し、ゆったりと変化しながら浮き沈みしていく(時に声を水没させてしまうほど、その水位は上昇する)。長尺(7分程度)のヴォーカル曲の間に挿み込まれるアコースティックな小曲が、撥弦のさわりや腺病質のオルガンの繊細なアラベスクの強調によるサイケデリアが、当てもなく漂う断片の浮遊感を通じて、ヴォーカルの凛とした古風な気品とそこに立ち込める寂寥感を際立てて止まない。添えられた大量のヴィジュアル・アートもいつになく多元的な風景の広がりを意識したものとなっている。彼らの新たな代表作となるのではないか。


Troy Schafer / Evening Song Awaken
Recital R003
Troy Schafer(vn,per,etc)
試聴:http://troyallenschafer.bandcamp.com/album/evening-song-awaken
http://soundcloud.com/experimedia/troy-schafer-evening-song
http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=7795
 主として彼自身によるヴァイオリンの多重録音による作品が並ぶ。弦楽四重奏の有する安定したバランスを欠いて上方にシフトし、狭い音域の中に寄り集まりぶつかり合う音たちは、圧縮された軋みを響きへと昇華させて、ただただ高みを目指し、陽炎のようにたちのぼっていくしかない。バロック絵画の闇に沈んだ画面の中で、ただ左上から射し込んでくる一筋の光を仰ぎ見る潤んだ眼差し。次第に厳かさへと接近していく感情の揺らぎ。ジャンルとしては一種の(スピリチュアルな)ヒーリング・ミュージックに属するのかもしれないが、ここには心身をゆるやかに慰撫してくれる微温湯的な癒しはいささかもなく(音はみな触れればただちに皮膚が裂けるほど、ぴんと張り詰め険しく切り立っている)、一刻を争うほどはるかに厳しく切羽詰った救いへの希求があるように感じられる。終曲は弦以外を用いて、通常のヒーリング・ミュージックの定型により近づいているが、それでも熱帯雨林にも似た沸騰するような喧騒をたたえている。200枚限定の手書きナンバー入りCD-R。


Federico Durand / El Libro de los Arbales Magicos
Home Normal homen036
Federico Durand, Chihei Hatakeyama, Fuqugi, Ian Hawgood
試聴:http://soundcloud.com/homenormal/homen036-federico-durand-el
http://www.pastelrecords.com/SHOP/federico-durand_pl-849.html
 彼の前作『El Extasis de las Flores Pequenas』について、かつてブログでこう書いた(※)。「フィールドレコーディングされた環境音が多用されるが、それは〈外〉を手探るのではなく、ひたすらに〈内〉を見守り、その手触りを確かめるためだけに用いられる。浮かび上がる見たことのない風景。綿菓子のように溶けていく懐かしさ。思い出の糸をどこまでもさかのぼる音の魔法。聴き続けていたら現実感を喪失して、そのまま朽ち果ててしまいそうな、あまりにも危うい甘やかさ。現実逃避型フィールドレコーディング/セピア系アンビエントの極致。」
※http://miminowakuhazushi.dtiblog.com/blog-entry-150.html
 その手触りはある意味変わりない。しかし、以前には3次元的な夢想空間に見通しよく点在していた響きの花々は、ここで真綿のような不可視の厚みへと取り込まれ、不透明なもやに包まれており、周縁部が薄闇に沈む中、中央にぼんやりと浮かび上がる環境音のフィールトレコーディングによるレイヤーの敷き重ねも、何物ともと判別し難い曖昧さを増しながら、発音体の輪郭(空間との境界)ぼんやりと溶かしていく。この輪郭を結びきれない、場面を完結しきれない希薄さ(止まりかけたオルゴールのような、ほどけてしまいそうなほどに切れ切れの旋律もまた)が、セピア色でありながらどこか映画的な鮮明さをたたえていた前作と本作を分かつものであるだろう。無意識の奥深くに沈み込み、何かの呪文(紅茶に浸したマドレーヌのような?)がなければ封印が解けない記憶のようなあえかな肌触り。


Jesus Vasquez / Con Guitarra de Oscar Aviles
Xendra Music XM-1039
Jesus Vasquez(vo), Oscar Aviles(g)
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/XM1039.html
http://elsurrecords.com/archives/contents/newcd/s_america/jesus-oscar.html
 ペルー音楽の中でもカンシオン・クリオーヤと呼ばれるクレオール系歌曲とのこと。なるほど確かに発掘編集盤『The Rhythm of B lack Peru』で聴くことのできるプリミティヴな躍動性や、笹久保伸が奏でるフォルクローレ系ギターの、朝の木漏れ日の中を小鳥が飛び交うような素早く爽やかな叙情性はここにはない。むしろここで強く感じられるのはダンスホールやナイトクラブで奏される「夜の音楽」としての比類のない完成度の高さである(それがクレオール性とどのように関係しているのかいないのか私にはわからない)。1958年頃の録音というから30代後半のはずのヘスースの声はいまだ可憐さを失わず(声を張った時にも独特の涼やかさをたたえている)、それでいて自在な緩急や抑揚により艶やかさを振りまく。ダンディな洒脱さをたたえたオスカルのギターは、暗がりに半分身を沈めつつ、きらめくように流麗でありながら抑制とニュアンスの美学を片時も忘れることがない。爪の立て方ひとつで異なるだろう音の立ち上がりの閃き、弧の描き方を鮮やかにコントロールし、声のための余白を中央に存分に残しながら、縁取りを金糸銀糸の細密な刺繍で飾ってみせる。多くは三拍子系の優雅な楽曲(バルス?)が、幾分反らし気味に背を伸ばしたギターとドレスのすそをゆるやかに揺らす声によって、申し分のない気品とクールさで演じられる(全曲律儀に3分前後なのはSP時代の名残なのだろうか)。やはり音楽を愛するすべての人に。解説付き日本盤あり。


Guyun Y Su Grupo / Canta Elisa Portal
Disco Caramba CRACD-244
Guyun(g), Elisa Portal(vo)&p,per
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/CRACD244.html
http://shop.ameto.biz/?pid=41197050
 キューバのフィーリン音楽からの1枚。他の何枚かのフィーリン音楽(の名盤)のうちから本作を選んだ理由は、何よりもグユンのギターの涼やかさにある。リズムをせわしなく刻まず、音符を細かく弾きこむこともない。暑さとは無縁の軽やかな白い雲が流れるようなコードの提示。その浮遊感や淡い色彩感は都会的/リゾート的な洗練と倦怠/退廃へと通じているだろう。ジャズ的な楽理を採りいれながらも、スウィング感の元となるリズムの遅れ(もたれ/よどみ)を排することにより、ボサノヴァ的な清々しい軽みが漂う(それは彼の奏でる、決して弧を描かぬ張り詰めた硬質な響きのギターに関する限り、ほとんど潔癖さの域に達している)。微かにハスキーさを乗せたエリサの女声もまた、抑揚や緩急の強調によって色気や情感を振りまき過ぎることなく、選び取られた平坦さの中で、必要にして充分なさりげなさをたたえている。その点でこれはJesus Vasquezたちによる前掲作と異なり「夜の音楽」ではない。むしろ凪が止んで涼風が南国的芳香を運び始める夕暮れの音楽。柑橘類とハーブの香る軽く発泡したロング・カクテル。それも表面に浮かんだシャーベット状に砕けた氷のすっと溶ける舌触り。グユン唯一の録音(1960年代後半)。香り高き名品。

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ディスク・レヴュー | 19:37:18 | トラックバック(0) | コメント(0)
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