■プロフィール

福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■リンク
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QR

ディスク・レヴュー 2012年7月~9月期①  Disk Review Jul. to Sep. 2012 vol.1
 遅ればせながら2012年第3四半期のディスク・レヴューをお届けしたい。まずはエレクトロ・アコースティック系のフリー・インプロヴィゼーションからの7枚。


300 Basses / Sei Ritornelli
Potlatch P212
Alfredo Costa Monteiro(accordion,objects), Jonas Kocher(accordion), Luca Venitucci(accordion,objects)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/potlatch/p-212.html
 一寸先も見えない暗闇の中で何かひどく大きく重たいものがゆっくりと回転し、空間を圧していく。押しつぶされていく空気の重みが、微かなうなりや軋みを通じて、その震えを肌へと届ける。降り始めたばかりの雨粒が屋根に当たり、パラパラと乾いた音を立てて通り過ぎる。暗闇に眼が慣れてきたのか、次第にあたりの明るさが増して、暗がりで絡み合い、のたくる複数の蛇腹の輪郭がおぼろに浮かんでくる。
 飴のようによじり、押しつぶして、引き伸ばし、捻じ曲げ、ついには引きちぎる。ゆっくりと軋みながら回転する巨大な輪に巻き込まれた物質の悲鳴がこだまする。アコーディオンから鍵盤楽器としてのフレーズを排除し、誰もいない機械仕掛けのようにぐるぐると巡る鳴りだけを置き去りにする。空っぽの何かを吹き抜けていく風の唸り。
 その一方で屠殺場の阿鼻叫喚にも似た、噛み付くような喧騒が、聴き手を不安のただ中に突き落とす。ここではPotlatchからの前作品Lucio Capece『Zero Plus Zero』において目指されていたソロ・インプロヴィゼーションによる複数化/重層化が、メロディ、リズム、コードといった因習的な役割分担を経ることなく、顕微鏡的に微細な次元におけるサウンドの重ね合わせの綾を通じて、3人の奏者により探求されている。中空にぴんと張られた一本の線の様々な分割振動が生み出す多様な倍音の広がり、あるいは翅の擦り合わせによる虫の音を極限まで拡大したざわめき、笙のように澄み切らず僅かな濁りを浮かべた集合的なリードの震え/共鳴。そこには額を擦りつけんばかりに密集し、全身を耳にして互いの音に耳をそばだてる同種楽器同士ならではの凝縮された聴取のアンサンブルがある。


Antoine Beuger / S'Approcher S'Eloigner S'Absenter
Erstwhile Records ErstLive 009
Barry Chabala(guitar), Dominic Lash(double bass), Ben Owen(electronics)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16751
 室内の空気の対流音なのだろうか。ずっと鳴り続ける息漏れのような(あるいは耳鳴りのような)音響を背景として、薄暗がりの中を音のかげがゆっくりと横切る。耳はそのかそけき響きに、微かな揺らぎに、微細な振動のもつれに、引き伸ばされあるいはゆったりと繰り返される持続に惹きつけられてしまう。ふと浮かび上がる深々とした持続音、何物かの気配を伝える微かな物音、囚人同士の秘密の通信を思わせる冷たい石の壁をコツコツと叩く音、視線を交わすことなく重なり合いすれ違う音像。ここで〈沈黙〉とはすでにそうした音を透かし見るための複数のレイヤーの重ね合わせであり(遠くからぼんやりと浸み込んでくるトラフィク・ノイズ等)、巧みな彫琢を施されている。Wandelweiser楽派特有の放たれる音数の少なさではなく、その僅かな音が沈黙を、空間を、持続を、どのように変容させているかに耳を傾けなくてはならない。


Abdelnour Jones Neumann / As:Is
Olof Bright OBCD 35
Christine Abdelnour(alto saxophone), Bonnie Jones(electronics), Andrea Neumann(inside piano,mixing board)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/olofbright/obcd-35.html
 アルト・サックスの次々に弾けては消えるミクロな泡立ち。インサイド・ピアノの肌に食い込む冷ややかな切れ込み。パチパチとした接触不良ノイズから虫の音や降りしきる雨音に至るエレクトロニクス。各演奏者の放つ音色の類似性を通じて、全体は朦朧とけぶるような響きとなり、水をかき混ぜるような運動感覚が、ざらざらとした空間/沈黙の手触りを際立たせる。それゆえ演奏は音色の交換/代替可能性を足場にして、コール&レスポンスではなく、サウンドの重ね合わせやON/OFFにより進められる。その揺らぎに満ちた重層的な変化は、むしろ三者の重ね合わせというより、ひとつの振動の中から、そこに含まれる多様な倍音、あるいは分割振動のピークやディップが強調され析出してくるような印象を与える。かすれた無声音は極端に切り詰められ圧縮された一瞬の衝突/交錯/均衡が刻む傷跡であり、一方、ノイズにまみれたファウンド・ヴォイス(おそらくはNeumannが持ち込んでいるのだろう)をはじめ、ざらざら/すべすべ/つるつる/つぶつぶしたきめ細かな響きは、その意味性や象徴性(がもたらす雑色性)を剥奪/濾過されて、即応的/流動的にメタモルフォーゼを繰り返す触感/皮膚感覚の音楽となっている。


Abdul Moimeme, Ricardo Guerreiro / Kuhettahu
Creative Sources CS191cd
Abdul Moimeme(two electric guitars played simultaneusly,prepared with small and large objects), Ricardo Guerreiro(interactive computing platform)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mvc?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=15039&Product_Count=&Category_Code=
 演奏が進むにつれ、2台同時に奏されるギター(おそらくは解剖に付される死体のようにテーブル上に横たえられているのだろう)は、ギターと判別可能な音を発する機会が減少し、サウンドは全体としてハーフからシャドーに至る艶消しのモノクロームな、色彩を欠きながらもおぼろにして濃密なグリザイユの世界に沈んでいく。そこでは何物も重力を逃れることはできず、飛躍や切断とは無縁に、その場に降り積もり、輪郭を揺らがせて入り組んだ奥行きを構成していく。高熱にうなされる中、眼の前いっぱいに広がるぐるぐると回転し続ける歯車の群れ。巨大な機械仕掛けの作動音(軋みやうなり、果ては地響きまで)が常に響き渡り空間に充満し、さらに底の方から別の響きの輪がゆっくりと浮かび上がってくる。金属音の爆発が輝きを連ね、ジュゴク(竹製のガムラン)にも似た音色が空間を横切って、テープの回転数を変化させたようなピッチの変化がその後を追う。


Axel Dorner, Ernesto Rodorigues, Abdul Moimeme, Ricardo Guerreiro / Fabula
Creative Sources CS220cd
Axel Dorner(trumpet), Ernesto Rodorigues(viola), Abdul Moimeme(prepared electric guitar), Ricardo Guerreiro(computer)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/creativesources/cs-220.html
 乾いたフラジオや鋭い息音をはじめ、甲高い軋みの集積が、まるで結晶化した金属のような冷ややかな輝きをたたえる。音色として表に立つのはAxel DornerやErnesto Rodoriguesだが、この空間の骨組み/基本的性格をかたちづくっているのは前掲作『Kunettamu』で共演したAbdul MoimemeとRicardo Guerreiroにほかなるまい。
 真空中にビット・マッピングされるのではなく、発せられた音は響きと共に空間を開きながら、すぐさまそこから軌道を逸らせて変形/変容し、異なる分布/配置をつくりだしていく。その結果生じたモザイク状の空間は、至るところで通底し、飴のように引き伸ばされ、うねうねとよじれ入り組んで、サウンドの模倣/転写により歪んだ鏡によじれた像を映し出しながら、多元的な相互貫入をかたちづくっていく。互いが互いを切り刻んで断片化の果てに至る代わりに、太く細く、あるいは澱みあるいは瀬を速めて、濁ったり澄み渡ったりしながら流れ続ける強靭な持続の感覚がここにはある。
 中盤以降、演奏はますますうねりを増し、波頭を高く持ち上げ、重低音の速い鼓動をはじめ、時として音色を一色に染め上げてしまうことすら厭わず、ダイナミズムの変化を強烈なものとしている。ぐつぐつと煮えたぎる深々とした奈落の底を見せつけ、それにも飽き足らずその向こうに広がる凍てついた光景を垣間見せて、演奏は終わりを迎える。


Pedro Chambel, Bruno Duplant, Julien Heraud / Worked Without Noise
Rhizome.S 01
Pedro Chambel(guitar,microphones,objects), Bruno Duplant(snare drum,objects,radio), Julien Heraud(alto saxophone)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16022
 短波ラジオの混信した視界。もやのかかった不鮮明な夢の景色。濁った澱みからふつふつとあぶくが湧き上がっては弾けていく。短い気息音。カタカタと振れる金属音。澄んだベルの響き。ガイガー・カウンターを思わせるエレクトロニクスのつぶやき。ミュートされた弦の震え‥‥。寸断化された音風景の断片は、割れた鏡に映る光景のように散乱してとりとめがない。彼らは空間の共有/連続をまったく信じていないかのようだ。手元だけを照らし出すちっぽけな明るみの中だけで孤独に作業を続け、音はそのまま手元に留まるか、あるいは中空に浮かんで、しかるべき場所に落ち着くということがない。遠くのラジオによる語りや歌がもたらす粒子の粗いざらざらとした雑色性が沈黙を汚染し、空間の混乱にさらに拍車をかける。顕微鏡下の手術にも似た極端なマイクロ・ミュージックでありながら、壁に耳を着けて幾つもの部屋の音を同時に聴くような思いがけない広がりが耳を穿つ。



Fabrice Favriou / Phases
Creative Sources CS205cd
Fabrice Favriou(harmonium unprepared but with old crackled blades!)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16335
 でこぼこと不均衡に重ねられた鳴り、響き、軋み、うなり、揺らぎ、うねり‥‥。故障した冷蔵庫を思わせる不調な機械音。しかし、各音色の重なり合いに耳を凝らせば、それが単純なループの組み合わせではなく、ミクロなちらつき/明滅の移ろう束であり、微妙に同期をずらした様々な音が、音のにじみや不安定な共振/共鳴、あるいは相互干渉を通じて、深さ/奥行きを持ったこわれやすい層をかたちづくっていることがわかるだろう。こうして1台の壊れかけたリード・オルガンという単純な仕掛けが、分裂生成により幾つもの異なる〈音楽機械〉を生み出していく。特に全景をロング・ショットでとらえた5曲目では、響きの総体がひとつの風景と見紛うばかりの広大なパースペクティヴと共に立ち現れてくる。




スポンサーサイト


ディスク・レヴュー | 18:30:49 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad