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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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橋爪亮督グループ@新宿ピットイン ライヴ・レヴュー  Review for Ryosuke Hashizume Group Live in Shinjuku Pit Inn
 今回のライヴは彼らにとって今年4月にリリースしたCD『Acoustic Fluid』の発売記念ツアーの一環に当たる(フライヤー参照)。7月には橋爪の左肘骨折というアクシデントに見舞われたが、その後、リハビリ期間を経て、現在は全く問題ない状態でステージをこなしている。ライヴ中のMCでは「ツアー中、新曲が毎日できている」との発言があり、実際、この日も2曲の新曲が披露されるなど、グループのクリエイティヴィティが非常に充実していることが感じられた。
 『Acoustic Fluid』における彼らの清冽な叙情溢れる演奏に着いては、すでに本ブログで、音楽批評サイトcom-postの面々によるクロス・レヴューへのレヴューを含むディスク・レヴューとして(ややこしいな)採りあげた(「流動化された音響」*1)。
 今回のライヴでは『Acoustic Fluid』への参加が一部にとどまった佐藤浩一(pf)がフル参加していることが注目される。今年4月の新宿ピットインでのライヴ(私は聴いていない)について多田雅範が記述しているような(「橋爪亮督グループ『アコースティック・フルード』発売記念ライブReview」*2)、彼と橋爪、市野が研ぎ澄まされたテンションをぶつけあう場面が聴けるのだろうか。期待を膨らませて、久方ぶりのピットイン詣でとなった。
 *1 http://miminowakuhazushi.dtiblog.com/blog-entry-165.html
 *2 http://www.enpitu.ne.jp/usr/bin/day?id=7590&pg=20120421

 さて聴き終えての全体的印象からすれば、そうした「発火力」(多田雅範)の爆発よりも、むしろメンバー間の自在なやりとりを通じた、痒いところに手が届くような心配りに溢れた熟成したアンサンブルを聴くことができたように思う。もちろんここで「熟成」とは単に「聴きやすい」とか「スムーズ」といったことを意味しない。グループとしてのサウンドのテクスチャーがより精緻になり、アンサンブルに奥行きが出て、各演奏者間の「対位法」的な関係が自在に織り成され、常に新しい切り口に聴き手に向け示される。

 リーダーの橋爪は、何よりもまずコンポーザーとしてこのグループに関わっている。それゆえか、彼は先陣を切って演奏を牽引しようとはしない。大きなドライヴを担うよりは、むしろ曲にふさわしいエモーションの表出に向け、基本的な色合いの広がりを差配する。彼のテナー・サックスの音色はエッジがおぼろにかすれ、チョークで描いたデッサンを思わせる。的確さと曖昧さの絶妙な配合。そのサウンドは常に透かし見るような多重さをはらんでおり、時に壊れやすく不安定な印象を与えもした。
 対して、この日の演奏全体にわたりグループの前面に立ってアンサンブルを強力にドライヴしたのは橋本のドラムだろう。しぱしぱっと閃光が瞬くようなシンバル・ワークや切れ味鋭いリム・ショットは時間を刻むのではなく、前へ前へと押し立てる。その推進力はCD『Acoustic Fluid』に収録された演奏に比べ、まだ若い彼の成長ぶりを印象付けた(単に彼のドラム・サウンドが私のオーディオ・システムの再生能力を超えているために、CDよりも説得力を持って聴こえたというだけの話ではあるまい)。総体として橋爪と市野による透明感溢れるレイヤーの重ね合わせを主調とするグループ・アンサンブルに、これほど鋭く切れ込むドラミングがフィットするのは、彼らの演奏のしなやかな柔軟性と精緻な揺るぎなさによる。
 そのカギを握っているのが織原のフレットレス・エレクトリック・ベースだ。アコースティック・ベースのように明確な輪郭を持たず、どこまでも透き通り輪郭を溶かしながら(この点がどろりとゲル状の軟体動物性を前面に押し立てるパーシー・ジョーンズなどと決定的に異なる点だ)、方円の器に従い自在にかたちを変え、空間を開き、ボトムを支え、空間へとしみこむ彼のベースは、グループのサウンドの心棒そのものである(それはグループ全体のつくりだす響きと美しい相似形を描いている)。ドラムとのコンビネーションにおいて浮遊するように包み込みながら、フロントラインとの距離/空間を確保する一種のメディウムとしても重要な役割を果たしている。
 中空に浮かびたなびき揺らめいて、薄荷の匂いを放ちながら透き通り、空を横切って長く伸びる飛行機雲のように気化していく(あるいは風に吹かれるちぎれ雲のように散り散りにかたちを失っていく)市野のギターは、先に述べた橋爪のテナーのもろく崩れやすいおぼろさと重なり合い溶け合いながら、演奏の色調を柔らかく(だが断固として)決定する。一方、佐藤のピアノは、リズム隊の一員としてリズミックな打撃を提供するよりも、華麗に匂いたつアルペジオを振りまいてアンサンブルに色を挿しながら、そのサウンドの明確にして実体的な輪郭の強さにより、他の三人の音の層を貫通して、(橋爪、市野ではなく)橋本のドラムの音の粒子/波と衝突しあい、互いに響きを引き立てあう。

 個人的な印象としては、こうした彼らの特質は「Current」とメドレーで奏された「Last Moon Nearly Full」や、急遽その場で「十五夜」をイントロダクションに挿入された「Journey」等の演奏(いずれも『Acoustic Fluid』収録曲)で最もヴィヴィッドに聴き取れたように思う。
 タバコの煙とPAのサウンドゆえに長いこと遠ざかっていた新宿ピットインだが、3泊4日の韓国ソウル行き出発前日のドタバタの中で出かけた甲斐の十二分にある素敵なライヴだった。素晴らしい演奏を繰り広げたメンバーたちと、彼らを知るきっかけを与えてくれた益子博之、多田雅範に改めて感謝したい。

2012年11月30日(金) 新宿ピットイン
橋爪亮督(tenor sax), 市野元彦(guitar), 織原良次(fretless bass), 佐藤浩一(piano), 橋本学(drums)


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ライヴ/イヴェント・レヴュー | 22:22:44 | トラックバック(0) | コメント(0)
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