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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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「舞天 祝祭の大地」ライヴ・レヴュー  Live Review for “Dancing Heaven, Festival of Earth”
 公益(財)日本伝統文化振興協会のスタッフ・ブログ「じゃぽ音っと」(*)で知った韓国舞踏の公演「舞天 祝祭の大地」の印象を書き留めておきたい。
*http://d.hatena.ne.jp/japojp/20121114


 会場少し前に草月会館に着くと、すでに列が地下のホールから1階のチケット売り場近くまで伸びている。あちこちから聞こえてくる韓国語のやりとりに耳を澄ましながらしばし開場を待つことに。
 草月ホールは久しぶりだが、ホール内に入ると、かつてのビル・フリゼール・バンドや金石出(キム・ソクチュル)一座の熱演の記憶がふとよみがえる。舞台に対して放射状に並ぶ客席の奥行きが比較的浅く、傾斜もゆるやかで、舞台が近く見えるのは舞踏公演に向いているかもしれない。

 今回の公演は8種類の舞踏を入れ替わりで見せる。目まぐるしいショーケース的攻勢を予想したが、観終わって思った以上にたっぷりな大盛り加減にびっくり。前菜8種盛り合わせではなく、主菜8品の満腹コース。
 企画構成を担当した陳玉燮の日本語を交えたユーモアたっぷり(いささかオヤジ・ギャグ)の司会進行により、踊り手たちが次々に舞台に上がる。音楽はサムルノリ系の打楽器アンサンブル(チャンゴ、ケンガリ、チンなど)やこれにダブル・リードの管楽器ピリが加わったものとテーグム、カヤグム、ヘーグム等の管弦楽器中心のアンサンブル(それでもコンサート・マスターはチャンゴが務めるのが韓国伝統音楽ならでは)の2種類。後者ではヴォイス(「口音」という)が加わる場面も見られた。

 まずはホール客席後ろの出入り口が開き、そこから歓声とともに打楽器群が鳴り渡り、ケンガリ奏者に率いられた少女集団が通路から舞台へと駆け上がる。これは実は続く「チン舞」のためのイントロダクション。チン(縁の部分が厚く折り返された銅鑼)を携えた赤白衣装の女性(彼女はひとり少女ではなく「おばちゃん」年齢)が一座から歩み出て、チンを叩きながらゆるやかに旋回する。やがてチンを置いた彼女はくるくると激しい回転に達して、客席からやんやの拍手喝采を引き出し、村祭りの広場に沸き立つ興奮を伝える。

 続いては一転して重々しい静寂の支配する「サルプリ舞」。背景に月と雲を浮かばせた陰影濃い照明に、白装束に身を包んだ女性が片手に持った白い布を泳がせる。視線は伏したまま、多くは客席に背中を向け、重々しく、だがすべるように足を運ぶ哀しみの舞。

 明るさを増した舞台に初老の男性が姿を見せると「トッペギ舞」。同じく白装束姿ながら、こちらには飄々とした軽みが感じられる。手の構えとゆっくりとした回転は一瞬「太極拳」を連想させるが、あのように腰を深くは落とさない。重心を軽やかに操り、身体の運動でダンスの空間をさらさらとクロッキー風にスケッチしてみせる様は、どこかマース・カニンガムを思わせる(ゆるやかな流動にふと透き通った空間が浮かび上がる印象)。ただ、ときどき両足を開き、思い切り腰を落として「ダンッ」と床を踏みしめるキメが入るあたりは「農夫の舞」とちらしに説明のある通りか(少なくともモダニズムではあるまい)。

 そしてサムルノリ再び(「パンクッ」)。やはりホールの外から演奏が始まり、吹き鳴らされるピリの喧騒さに煽られてみるみるうちにうちに舞台へと流れ込み、渦を描いて跳ね回る十数名の少女たちの熱気に、ホールの空気がたちまちのうちに沸騰する。うち5名の少女は防止に棹と長いリボン状の布飾りを付けて、それをわずかな首の動きでひゅんひゅんと回転させ、さらには輪になって走り回りながらトンボを切ってみせる。華やかな祝祭(ハレ)の賑わい。さらに少女たちにひとり紛れ込んだ少年(まだ小学生とのこと)が、さらに長い3mはあろうかという防止の布飾りを激しく振り回しのたくらせるパフォーマンスも。

 急に続いては緩。白装束の女性がやはり白い布を操る「トサルプリ舞」。先ほどの「サルプリ舞」が視線を伏せ背中で暗示することにより、貴族文化的な様式性やシンボリックな物語性を担っているとすれば、首にかけ両手でたくし上げるほど長い布を自在に操るこちらは、正面に向け見開かれた眼がこちらをしっかりと見つめ、衣装もより民衆的で舞もおおらかな力強さをたたえている。ヘーグムのうねりと絡みながら、もう高齢の鄭英晩(人間国宝にしてアンサンブルの音楽監督)が張り上げくゆらせる声の、しなやかな強度が素晴らしい。

 「芸者の踊り」と紹介された「長鼓舞」は、にこやかな笑みを浮かべながらチャンゴをあしらうように奏で、艶美さを振りまきながら、民謡調の女声の柔らかな節回しに乗せて舞い踊る。途中から同様にチャンゴを携えた女性3名が加わり、さらに艶やかさを増す。確かにサムルノリ等の広場の祝祭とは別物、閉ざされた座敷で繰り広げられる宴である。

 続いて管弦の演奏にケンガリが入って音圧を増しテンションを高めて、韓国時代劇によく登場する皇后風の額縁髪型ときらびやかな宮廷衣装による「太平舞」が始まる。「王女メディア」風の威圧的なメークアップにふさわしい威風堂々たる舞。途中で脱いだ上掛けを下げに来る女官役の踊り手のカラクリ人形的な動きが面白い。

 ラストを飾る8番目は男性の踊り手。でんでん太鼓を大きくした手持ちの太鼓を叩きながら、帽子に付けた棹とリボン状の布飾りを鮮やかに操る。帽子飾りが鞭の如くしなって鋭く空間を切り裂き、あるいはレーザー光線のように素早く8の字の軌跡を彫り刻む様に思わず息を呑む。先ほどの少女たちの嬌声に満ちた賑やかさとは異なり、見事な達人技にどんなに拍手歓声があがっても、沈黙の中に風切り音だけが響く冷ややかでモノクロームな鋭利さが決して失われることはない。頚椎の具合を心配したくなるほど、次々と超絶技を繰り出しながら、彼は客席の興奮を一身に担う。トリにふさわしい白熱のパフォーマンスだった。

 アンコールは演者全員が舞台上に顔を揃え、演奏に載せて始まる簡素な舞に、客席から部隊へ挙がって参加するよう呼びかけるおなじみの趣向。金石出一座の際の賑わいを思い出す(確か笹に短冊よろしくお札(お金)がぶら下がっていたっけ)。あの時は村々を巡る巫者の祭儀だから‥と何やら「民俗学」的な理解をしたが、今回のようなプログラム/パッケージされたアーティスティックな舞踏公演の装いであっても、その内容はそうした民俗をしっかと踏まえ、それゆえにこそ高いエンターテインメント性を確保している。すっかり満腹になり、頭の中を真っ白にした一夜だった。


2012年12月14日(金) 草月ホール

金貞淑:チン舞 静寂の趣
趙寿玉:サルプリ舞 清浄無垢
李潤石:トッペギ舞 一代壮観
演戯団八山台:パンクッ 師走の流星群
李貞姫:トサルプリ舞 無限の重
下仁子:長鼓舞 浄の拍動
金順子:太平舞 生涯の深遠
金雲泰:チェサン小鼓舞 華麗な激
※各惹句は公演パンフレットから引用


左から順に、太平舞、トサルプリ舞、チン舞、チェサン小鼓舞、サルプリ舞、長鼓舞、トッペギ舞、パンクッ

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ライヴ/イヴェント・レヴュー | 22:54:57 | トラックバック(0) | コメント(0)
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