■プロフィール

福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■リンク
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QR

イヴェント「Studying of Sonic」レヴュー  Review for an Event “Studying of Sonic”
 去る12月23日(日)、西麻布Calm and Punk Galleryにおいて、このブログでもご案内したイヴェント「Studying of Sonic」が開催された。30名という当初予定した定員は申込期限前に予約で埋まり、その後の問合せ多数につき一部追加予約を受け付けたと主催者であるサウンド・アーティスト小野寺唯から聞いていた。
 当日詰め掛けた熱心な聴衆に向け、次のプログラムが上演された。順を追って見ていきたい。

 ①レクチャー「The Way to Ambient Music」金子智太郎・福島恵一
 ②ライヴ&アーティスト・トーク(with 飯島淳)
  sawako+holifi
  Yukitomo Hamasaki+yui onodera
  Carl Stone+Christoph Charles

1.The Way to Ambient Music

 小野寺による挨拶と趣旨説明に続き、 音源と映像を用いたレクチャーを始める。アンビエント・ミュージックと総称される音楽の聴きどころやその可能性を活かす聴き方について、関連領域を横断しながらイントロダクションを提供する試み。
 金子は米国の老舗レーベルであるフォークウェイズの1950年代に録音されたフィールドレコーディング音源(蒸気機関車の走行音、虫の声、花火の音など)を紹介しながら、そこに音楽を聴き取ったり、風景を発見する心性/欲望を、録音/通信テクノロジーが世界をまた私たちの身近な生活環境を変えていく動きと関連付けながら解説した。
 米国アンペックス社による民生用テープレコーダーの発売が、SPレコードの制作・流通によりいったんは「購入するもの」と化した音楽を含む私たちの身の回りの音を、改めて「自分たちで録音/再生するもの」とした(その可能性をより幅広く開き直した)とか、「フィールドレコーディングされた音を聴く」という行為自体が録音/再生テクノロジーの発達(特にLPレコードによる再生ノイズの飛躍的軽減)に支えられている‥等の指摘は極めて重要かつ触発的だ。また、マイクロフォンに飛び込んでくる音を何でも取り込んでテープに定着するテープレコーダーの原理が、ジョン・ケージ「4分33秒」をを基礎付けているとの指摘も興味深く、ケージによる「拾得物としての音楽」をこうしてテクノロジーと結びつけることによって、さらに視野を広げることができるだろう。そして何よりも、これら一連の出来事が全て1940年代末から50年代初めにかけての、ごく短い期間に集中して起こっていることに驚かされる。フェイズの大きな変わり目と言えよう。
 さらには、こうしたシーンのキー・パーソンと言えるトニー・シュワルツの業績にも一部言及が為された。この部分はもっと掘り下げてもらいたかったところだ。
 もちろん金子ならではの選曲眼により、披露された音源がいずれもサウンドとして興味深かったことは指摘しておきたい(決して歴史的価値だけではない)。なお、金子が雑誌『アルテス』に連載している書評が、ちょうど現時点での最新刊である第3号で、今回のテーマとも深く関連するSteve Roden編纂によるSPレコード音源集+アンティーク写真集の体裁の『I Listened to the Wind that Obliterates My Traces』を採りあげていることもご案内しておこう。

 続いて私のプレゼンテーションは、金子の記録/記憶を介した「聴くこと」への時間的アプローチに対し、もっぱら空間的アプローチになることを予告した後、まずは音源1としてカイロの街頭音を素材としたGilles Aubry『Les Ecoutis, Le Caire』の何とも言えない魅惑的音像/音場を紹介し、この聴取体験を深めるために次の5つの補助線を引いてみた。プレイした音源や図像とともにご紹介しよう。

 ①フリー・インプロヴィゼーション
  音源2:Derek Bailey『Solo Guitar Volume 1』
 ②空間による侵食とこれによって明らかとなる音のマテリアル性
  音源3:Derek Bailey, Min Tanaka『Music and Dance』
 ③音空間のヘテロトピア性
  音源4:Michel Doneda, Tetsu Saitoh『Spring Road 01』
  図像:ル・コルビュジエ「サヴォワ邸」
     ピエロ・デッラ・フランチェスカ「キリストの笞刑」
     フラ・アンジェリコ「受胎告知」
     ジョヴァンニ・バッティスタ・ピラネージ「牢獄」
     原田正夫「(仮)ある晴れた日の新宿風景」
 ④感覚器官としての手→運動器官としての耳
  資料:認知運動療法によるリハビリテーションの視点
 ⑤視覚イメージと聴覚の切り離し
  音源5:Lucio Capece『Zero Plus Zero』
  図像: Lucio Capece演奏風景
  音源6:Michel Doneda, Xavier Charles, Jean-Leon Pallandre『Gaycre 2』

 プレゼンテーション後は金子と短くやりとりし、「時間的/空間的と二人のアプローチの差異が指摘されたが、共にフィールドレコーディングを素材に「聴くこと」や「聴き方」を問うものではなかったか。私のプレゼンテーションもテレビ普及前(=ラジオの時代)に深められた「聴くこと」の様相をとらえるものである」との金子の投げかけに対し、「その通りで、youtubeをはじめ映像の氾濫の前に、いま「聴くこと」が貧しくなっている。視覚のフレームに従属させるのではなく、まず音に耳を傾けてもらいたい」と私が返してコーナーを締めくくった。
 「参考になった」、「触発された」、「面白かった」とアフターアワーズに直接多くのご好評をいただいた。演者としてありがたい限りであり、今後に向け大層励みとなった。金子とも「また機会があれば‥」と話し合ったところである。


金子のプレゼンテーション  
左:福島 右:金子


2.Live Performance & Artist Talk

 続いて後半は3組のデュオ・ライヴと飯島淳をファシリテーターに迎えたアーティスト・トークで構成。

(1)sawako+hofli
 sawakoのPCからカラカラ、コトコトと小石を踏みしめて歩くような感触の音の細片が振りまかれ、一方hofliは少し水を入れた巻貝をゆったりと揺すりながら客席を巡り、ステージに到着してからもそれを続け、あるいはやはり水を入れたガラス壜を叩いた音を拡散させる。ミュート加減の丸みのある音が気泡のようにゆっくりとたちのぼる。後に続くアーティスト・トークでsawakoが語った通り、森を散策するようなゆるやかな眺めの変化が魅力的。会場内に8基がランダムに配置された無指向性スピーカーKAMOMEの「散在する点音源」としての特性を最も効果的に活かしていたのは、このペアかもしれない。各スピーカーは覗き込めば響きが湧き出す泉と化していた。聴衆が最も頻繁かつ流動的に会場内を歩き回っていたのも、このペアの時だった。もちろん一番手だったし、しかも演奏者であるhofliが率先して歩き回った性もあるだろうが、通常はコンサートで主催者がいくら「どうぞご自由に歩き回ってください」と呼びかけても、ほとんど動かないのが日本の観客である。それをこれだけ動かしたのは、やはり二人の演奏の魅力ゆえではないか。

左:hofli 右:sawako

(2)Yukitomo Hamasaki+yui onodera
 流麗なドローンが足元からひたひたと満ちてきて、ピアノの旋律の断片が中空に繊細な綾を織り成していく。牧歌的だった前ペアに対し、2番手に登場した彼らの音には都会の夜のテイストが香る。彼らの演奏に先立って、今回発売前のKAMOMEを提供してくれた(株)PHONONから製品説明があったため、演奏中にもかかわらず来場者の質問と担当者による説明が会場にぼそぼそと響く悪条件だったが、そうした予定外のつぶやきすら余裕でサウンドスケープに取り込む貫禄のパフォーマンスだった。後のアーティスト・トークでは、ピアノのサンプリング音だけに音素材を限定してプレイし、風景を構成するよりもタイムラインに沿った音の動きの推移変容を編み上げることを意図したと力強く語ったHamasakiの発言が深く印象に残った。

左:Hamasaki 右:onodera

(3)Carl Stone+Christoph Charles
 大御所二人のパフォーマンスは、持続音により全体としては安定した音場で空間を満たしながら、貝殻をこすり合わせる音、イルカの鳴き声、小石をかき混ぜる音(それぞれ音素材を同定できるわけではなく、~のように聴こえるという印象記述に過ぎないが)等のサウンドの細粒がそこここで間欠的に噴き上がり、サウンドの花を咲かせるバランスの取れた仕上がり。低音がぶ~んと分厚く共鳴しながらゆるやかなうねりをつくりだし、エスニックな歌謡の蜃気楼を揺らめきのうちに呑み込んでいく。幾重にも敷き重ねられた音の層の空気をはらんだふうわりとした柔らかな厚み/広がりがアンビエントと呼ぶにふさわしい。アーティスト・トークではKAMOMEの可能性について尋ねられ、音量や周波数帯域には制限があるものの(今回も音にならなかったサウンド・ファイルがあったとのことだ)、無指向性点音源の特性を掘り下げれば、インスタレーションをはじめ様々な使い方ができると答えていた。

手前:Carl Stone 奥:Christoph Charles


アーティスト・トーク 左端:飯島


 三者三様のパフォーマンスながら、生の物音やフィールドレコーディング素材(サンプリング音を含む)が共通して用いられることにより、前半のレクチャーの内容との連続性が確保されていると感じられた。両者が相互に補完しあうことにより、聴取体験が、また「聴くこと」への理解と楽しみがより一層深まったと信じたい。


 ともあれ、多面的な構成により出色のイヴェントとなったことは間違いあるまい。休日の午後から夕方という時間帯設定も成功だったように思う。詳しくは別稿に譲るが、短いながらいろいろな方と直接お話しできたし、素敵な出会いもあった。
 主催者やスタッフ、出演者各位、そして何よりも冷え込みの厳しい中をご来場いただいた多くのお客様(何とはるばる新潟や名古屋からおいでいただいた方も)に深く感謝したい。どうもありがとうございました。



この日の立役者のひとりKAMOME

音響:枯山水サラウンディング http://www.kare-san-sui.com/
KAMOME提供:株式会社PHONON http://www.phonon-inc.com/
スポンサーサイト


ライヴ/イヴェント・レヴュー | 23:10:05 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad