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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2012年10月〜12月vol.1  Disk Review Oct.−Dec. 2012 vol.1
 遅ればせながらの2012年第4四半期のディスク・レヴュー。まずはエレクトロ・アコースティックなインプロヴィゼーションから。ここでひとつお断りしておかねばならないのが、本来ならまず採りあげるべき『Wandelweiser und so weiter』( another timbre)をCD6枚組というヴォリュームゆえに別稿扱いとしたこと。2012年のベストとも言うべき作品なのでぜひご注目いただきたい。



Sara Hughes, Kostis Kilymis / The Good Life
Consumer Waste cw08
Sara Hughes(zither,mosquito alarm), Kostis Kilymis(electronics)
試聴:https://soundcloud.com/syndromesuploadcloud/sarah-hughes-kostis-kilymis
 表面に浮かび上がるざらざらとした粒立ちとその向こうで静かに爪弾かれる弦の震え。あるいは手前でゆるやかにたゆたう響きと背後で鳴り続ける息漏れ音やはるか遠くのブザー。ガラスの破片にも似た鋭い響きが雨だれや針飛び音のように周期を刻み続ける。音風景のオールオーヴァーな広がりを前にして、どこに焦点を合わせてよいかとまどい、あてもなく視線をさまよわせていた耳は、周囲の様子を風景としてスキャンする機能を発動する。
 注意深く選ばれた繊細な響きは視覚的イメージを喚起することなく、空間を深い闇で一様に満たす。そこに配置される音もまた、特定の視覚像を描き出してしまうことをやはり注意深く回避しながら、空間を薄明るく照らし出し、その広がり自体をぼうっと浮かび上がらせる。あるいは手前で鳴る音が耳の視界に薄くヴェールをかけ、その向こうで響く音に不思議な香りをまとわせる。空間に遍く散布される音が沈黙を構成するざわめきと混じり合い、空間を変容させ、そこに広がる響きすら変化させる。100枚限定リリース。


Chris Abrahams, Sabine Vogel / Kopfuberwelle
absinth records 024
Chris Abrahams(pipe organ), Sabine Vogel(flutes)
試聴:http://absinthrecords.com/clips/024free.mp3
 気流の鳴る音。パイプ・オルガンの引き伸ばされた持続音とフルートの重音奏法が層となって重なり合い、ずっと鳴り続ける音から時折倍音が硬く凝り頭をもたげる。パイプ・オルガンが呼び子を思わせる甲高い響きと広がりのある低音を付け加えると、それらに上下から挿み込まれたフルートの音色はちらつくような明滅へと移ろう。オルガンの各音は別々のところから響いてくるように感じられ、いっこうに均質な和音を形成しようとしない。全体としてはドローンの稠密さへと近づきながらも、ここでそれぞれの音はみな他の音の付帯音としてあり、溶け合うことなく別の層を保っている。このことがフィールドレコーディングによる音風景を敷き重ね、重なり合った余白を透かし見るように、不可思議な奥行きの感覚をもたらしている。500枚限定リリース。


Jonas Kocher, Gaudenz Badrutt / Strategy of Behaviour in Unexpected Situations
Insubordinations insubcd07
Jonas Kocher(accordion),Gaudenz Badrutt(electronics)
試聴:http://www.insubordinations.net/releasescd07.html
 深いため息、オルゴールのきらめき、虫の音を思わせる甲高い響き、時計のカチカチ音、地下鉄が運んでくる超低音の揺らめき、紙を破り捨てるような蛇腹の軋み‥。ここにはふだん私たちが「演奏」ととらえる枠組み、「演奏」を構成する意識からこぼれ落ちてしまう音ばかりが集められている。皆既日食の時にだけ観測できるコロナの広がりのように、演奏の「本体」を消去することによって、初めて耳の視線が届き得る付帯音の集積。容赦なく削り取られ、極限まで研ぎすまされた結果、音は微かな痕跡を残すだけとなる。声帯を切除されたオペラ歌手が漏らす密やかな息のかすれ。トタン屋根に雪が降り積もる音。それらを聴きとるには意識のステージを更新して、ミクロなざわめきに耳を澄まし、僅かな痕跡も見逃さないようにしなければならない。それらのか細い音は沈黙を満たすざわめきに埋もれ、フレーズなど形成するはずもなく、透明な空間に振りまかれしばらく明滅を繰り返しやがて消えていく。その瞬間に鋭い目配せのように走る幾つもの力線を見逃さないこと。


Klaus Filip, Toshimaru Nakamur, Andrea Neumann, Ivan Palacky / Messier Objects
Meenna meenna-999
Klaus Filip(ppooll), Toshimaru Nakamur(no-imput mixing boarf), Andrea Neumann(inside piano,mixing board), Ivan Palacky(amplified Dopleta 180 knitting machine,photovoltaic panels)
試聴:http://www.ftarri.com/meenna/999/index.html
 演奏楽器のクレジットから推測できるように、ここで音は明確な輪郭を持たず、互いに侵食しあい、演奏は深い霧の中を手探りで進みながら、それでも次々と新たな音響世界の扉を開いていく。前掲作のKocherとBadruttの演奏においては、余白を重ね合わせながら空間自体はどこまでも見通せる透明で不動なものであったのに対し、ここでは劇中にセノグラフィを入れ替えるように、基盤となる空間自体が入れ替わっていく(これにはmixing boardがざらざらとしたざわめきを放出して、その都度空間を満たしてしまうことが大きいだろう)。ノイズの投影されたスクリーンの向こうで、ぼんやりとした影絵のように物音がうごめき、魅惑的なサウンドがスケッチされては次々に破り捨てられていく。


D'Incise /Akenes
Drone Sweet Drone Records dsd007
d'incise(objects,sons trouves,instruments divers,processus digitaux)
試聴:http://dincise.bandcamp.com/album/ak-nes
 揺れる花、流れる雲、震える水面、誰のものでもない視線が風景をゆっくりと眺め回し、白と黒を排した柔らかな階調でとらえられたモノクロ映像が、マルチ・ウィンドウの分割された画面の中を動いている。繊細な響きの編み目が幾層も重ねられ、瞑想的なエコーを伴って深い奥行きに沁み込んでいく。音は素早く浮かび上がり、さらさらと細かな破片に崩れ、あるいは掠め取られ、覆い隠される。そうした老成した緻密な職人芸とは裏腹に、わらべうたを思わせる叙情的なメロディがあからさまに奏でられるなど、無防備でイノセントな側面もうかがえる。



Atolon / Concret
intonema int004
Ruth Barberan(trumpet,objects),Ferran Fages(acoustic turntable,objects),Alfredo Costa Monteiro(accordion,objects)
試聴:http://www.intonema.org/2011/02/int004-atolon-concret.html
 彼らは互いに背を向け合ったまま、床を壁を天井を自らの音で照らし出し、指先で触れ探り続ける。空間を探査する持続音。それゆえ音は空間で交錯しながら、互いに触れ合おうとせず、視線すら交わさず、ましてや層を成して重なり合うことなどない。暗い夜の波が岩場を洗うようにアコーディオンの低音の持続が荒い息遣いを響かせ、金属質の軋みや薄い金属板のバリバリとした震えが空間を満たし、ゆっくりと音色の輝きの度合いを変移させていく。それらの響きが潮の引くように遠ざかると、ターンテーブルに乗せられた陶片がこすられる音が波間から浮かび上がり、空間に規則正しい傷跡を刻んでいく。少しも熱を感じさせない冷ややかに静まり返った世界の中で、何か巨大なものがゆっくりと立ち上がり、時間をかけてこちらを振り向こうとしている。音の輪郭は変わることなく、そこを占める音粒子の密度あるいはスペクトルだけが変化していく。こうした音の眺めはフィールドレコーディングによるサウンドスケープを思わせる。以前にディスク・レヴューで採りあげたRuth BarberanとAlfredo Costa Monteiro(何と今回のトリオのうちの2人)による『Luz Azul』(Flexion)において、音が放たれる深夜の畑や鉄道線路のざわめきが、ここでは演奏者によってつくりだされ、汲んでも汲んでも汲み尽くし得ない細部の豊かさをたたえている。


Bruno Duplant, Pedro Chambel, Jamie Droin / Field by Memory Inhabited 1 & 2
Rhizome.s 02
Bruno Duplant(electroacoustic device,phonographies), Pedro Chambel(microphone,objects), Jamie Droin(suitcase modular,radio)
試聴:http://rhizomes.bandcamp.com/album/field-by-memory-inhabited-1-2
 闇の底を徘徊する電子音から、ふと鬼火のようにプラズマが発光する。次第に明るさを増していく視界の中で、何か見分け難いものがひしめき合っている。猫の鳴き声、靴底で砕ける凍った雪、水銀灯のノイズ、瓶の蓋を開ける軋み、呼び子にも似た持続音、何もない空間の広がり、しみこんでくる外の気配、マイクロフォンに衝突する空気の塊‥。音を切断する手つきの冷ややかな鋭利さは、外科手術のメス捌きを思わせる。その感触が、この演奏がインプロヴィゼーションではなく、あらかじめ作曲されたスコアのリアライゼーションであることを感じさせる。

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ディスク・レヴュー | 21:19:54 | トラックバック(0) | コメント(0)
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