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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2012年10~12月 vol.3  Disk Review Oct. − Dec. 2012 vol.3
 2012年第4四半期ディスク・レヴュー第3弾はポップ/ロックの分野からの7枚。ポップ/ロック系は4~6月分にしか掲載していないので、2012年後半分ということで。


Twinsistermoon / BoygrealmVessels
Handmade Birds HB-045
Mehdi Amesiane(vocal,guitar,electronics)
試聴:https://soundcloud.com/theinarguable/sets/twinsistermoon-bogyrealm
   http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=9673
 男女デュオNatural Snow Buildingの片割れ(男性の方)のソロ3作目。ハイトーンのヴォーカルはとても男性のものとは思えない。すぐに充満し響きが歪みざらざらとささくれるキーボード。共振で震え滲んで向こうを見通すことができないエレクトロニクスの壁。過剰なリヴァーブとマイクロフォンの近接効果で輪郭が曖昧なギター。かすれた息遣いと分ち難くひとつに溶け合ったまどろむようなヴォーカル。夢見るようにはかなく、うつむき思い詰めた切なさに満ちたメロディ・ラインはどこかで聴いたことがあるようでいて、まったく思い出せない。薄汚れた壁に残るしみの跡がふと浮かび上がらせる幻の景色にも似て、眼を離したらたちまち消え失せてしまいそうな幻想世界。ヴォーカル曲だけでなく、最後の一音がただウワンウワンとこだまし続けるようなインストゥルメンタル曲を随時挿しはさむことにより、いつも以上に作品全体がおぼろに歪んだひとつの世界(だがしかしそれにしても、この音質が極端に劣化した古いカセットテープのような音場に、聴き手が見出している世界とはいったい何なのだろう)へと結実している。500枚限定。


Takumi Akaishi / Music for Hurdy Gurdy
無番号
Takumi Akaishi(hurdy gurdy)
試聴:http://losapson.shop-pro.jp/?pid=49134832
曲を演奏するのではなく、「音響」としか呼びようのない仕方で空間へと音を放ちながら、ここで古楽器ハーディ・ガーディはその倍音を徒に繁茂させることなく、古めかしい奥ゆかしさを保ち続ける。そこにはSP盤から再生されたヴァイオリンにも似た蠱惑的な輪郭の震えや不明瞭な遠さが常につきまとい、蜜のようにほのかに甘く、燻したようにどこかほろ苦い響きは、香りとなって空間に漂い広がる。その様は「アンビエント」と呼ぶにふさわしいが、しかしそうしたカテゴライズがもたらす安逸なイメージをアーティスティックに裏切って、音はいつも突如として断ち切られ、昼下がりの明るみの中、死体が優雅に横たわるに任される。切手の貼られた使用済み郵送用ダンボールを油紙で包み、写真の印刷された大判のインサートを封入したパッケージの意匠には、制作者のオブジェに対する透徹した美意識が感じられる。100枚限定LP。


Masayoshi Fujita / Stories
Flau FLAU31
Masayoshi Fujita(vib),Hoshiko Yamane(vn),Atsuro Martinez Steele(vc)
試聴:http://www.flau.jp/releases/31_jp.html
 せせらぎが走り、風がそよぎ、湖面に波紋が広がって、木の葉が揺れる。朝の光に照らされて、まだ霧にむせぶ世界がざわざわとした揺らぎとともに生成し、ゆっくりと伸びをする。el fog名義でも活動するベルリン在住のヴィブラフォン奏者Masayoshi Fujitaのソロ第1作は、そうした早朝の森の心地よいざわめきに満ち満ちている。金属質のアタックよりも残響の揺らぎを重視したサウンドは、優しく頬に触れ、耳をなぶり、まぶしさのない柔らかな光で暖かく部屋を満たす。軽やかに駆け抜けるトレモロとゆったりとうねり息づく余韻。鍵盤の弓弾きによる持続音が中空に浮かび、あるいはゆるやかに床を這う。遠くにほのかに浮かぶ軋みが空間の広がりを明らかにする。ここに収められた8編の物語の中で、時間はそれぞれ異なった進み方をする。


Heidi Harris / Sand in the Line
Reverb Worship RW190
Heidi Harris(all instruments?)
試聴:http://heidiharris.bandcamp.com/album/sand-in-the-line
 NYブルックリンで活動する女性SSWによる2作目は100枚限定という極少部数リリースが信じられない傑作となった。やはり本作に満ち溢れているのも様々な揺らぎにほかならない。バスクラのうねり、エレピの揺らめき、ギターのピッキング/カッティングのぶれ、あるいはスライドやリヴァーブ、通り過ぎるヴァイブのきらめき、弦やハーモニカのポルタメント、なだらかに上昇/下降しながらオーロラのようにひらめく電子音、そしてフィールドレコーディングされた子どもの声や虫の音がもたらすざわめきもまた‥‥。Josephine Fosterを思わせる声のオールドタイミーな抑揚と息遣いは、ダブルトラック録音により自らの声のうちに開けた裂け目へと落ち込み、タバコの煙とアルコールにまみれながら、この揺らめきの中に身を沈めていく。最後まで水面に残った手がいつまでも「おいでおいで」と揺れ続けるのを見詰めていると、船酔いにも似た甘美な酩酊が襲ってくる。6曲目の最後で音像が動き、逃げるように部屋から出ていく声の背後で外のトラフィック・ノイズが沁み込んでくるあたりの精妙さにも恐れ入る。


Itasca / Grace Riders on the Road
無番号
Kayla Cohen(vo,g)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=g3fJ0zt6Erw
https://soundcloud.com/itasca/satyr
http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=9931
 宮廷音楽風の典雅な響きのアコースティック・ギターの爪弾きが、対位法的な動きを多用しながら編み上げた舞台に、感情の抑揚を押し殺した冷ややかな眼差しの女声が降り立つ。聖堂のように深いエコーがふうわりと裾をひるがえしつつつくりだす奥深くしめやかな空間を、民衆的な記憶の古層へと沈み込んでいく米国フォーク調の乾いたメロディ(そこには60年代サイケデリックの甘美な蜜がひと垂らしされている)が静かに歩みを進めていく。時折テープの逆回転によるオルガンに似たサウンドやエレクトリック・ギターの霧に見え隠れするようなくぐもったトーンが、沁み込んでくる冷気や外の気配と交錯する。300枚限定。


Maria Monti / Il Bestiario
Unseen Worlds UW08
Maria monti(vo),Steve Lacy(ss),Roberto Laneri(bs),Alvin Curran(arr,syn),Luca Balbo(g),Tony Ackerman(g)
試聴:http://www.meditations.jp/index.php?main_page=index&artists_id=4550&typefilter=artist
 イタリアの映画女優によるヴォーカル作品(1974年)の再発。注目はやはりMEVのメンバーAlvin Curranの参加。本作でも聴かれる軽やかな浮遊感のあるあてどころなく漂うようなドローンは、かつてAnanda等からリリースされていた彼の70年代作品(『Solo Works:The 70's』として再発されている)でおなじみのもの。もうひとつは彼女の女優らしい演劇性を活かしたキャバレー・ソングやトーキング・ヴォーカル作品の堂々たる仕上がり。ちょっと調子外れなおどけた曲調にラグタイム風のピアノ(クレジットはないがやはりCurranによるものだろう)が絡み、Steve Lacyのソプラノ・サックスが突っ込みを入れる様は、意外なほど絵になっている。全体としては、アコースティックなアンサンブルや電子音、環境音や各種SE(混信する無線等)に異化されることにより、さらに輝きを増しているフォーク調メロディの佳曲群が見事。Alvin Curran「Live in Rome」によればTVドラマや映画のために書かれた曲であるようだ。


不失者 / まぶしい いたずらな祈り
Heartfast HFCD-014
灰野敬二(g,vo),ナスノミツル(b),高橋幾郎(dr)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=3RBZMi1m0kU
 担当した『捧げる−灰野敬二の世界』所収の全作品ディスコグラフィは、ちょうど本作の前、不失者のメンバーが交代し映画『ドキュメント灰野敬二』のサウンドトラックがリリースされた時点で終わっていた。本作は前メンバーによる演奏で『光となづけよう』の続編となるが、ヴォーカルが叫び、リズムが衝突する前作が「動」だとすれば、本作は「静」のアルバムである。声はいつになく優しく柔らかに語りかけるようだが、一音一音を切り離し、道しるべのパン屑のように置き散らしながら進む発語は、情念をはらむことなく、意味を宙吊りにし、メッセージを気化させて、聴き手の掌からこぼれ落ちていく。演奏もまた緩やかにたゆたいながら、決して互いに同調することなく、視線すら交わさず、孤独に自らの道を歩み、ひたすらすれ違い続ける。速度を落とし、深みへと沈み、瞬間への感覚を研ぎ澄ましながら、決して手を取り合うことのない音は、聴き手に焦点を結ぶことなく、傍らを通り過ぎ、充満に至ることなくその場に屹立しながら、遥か彼方へと向かう。張り上げられた叫びが筋肉の緊張をつくりだし、その反射で反対側の腱が無意識に伸び、身体的なリズムをつくりだした前作と異なり、ここで音は限りなく引き延ばされながら、決してまどろむことなく、次々と蘇るフラッシュバックにも似た異なる速度と呼吸を生きている。強烈なまぶしさがまぶたの裏に刻む残像を思わせる、藤色と銀色を重ね合わせた色合いのジャケットも印象的。

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ディスク・レヴュー | 20:49:56 | トラックバック(0) | コメント(0)
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