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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2012年10~12月期 vol.4 Disk Review Oct.-Dec. 2012 vol.4
 2012年第4四半期ディスク・レヴュー第4弾は、エレクトロ・アコースティックより音の輪郭が明確な「器楽的」インプロヴィゼーションからの7枚。次回に英国Another TimbreからのCD6枚組大作『The Wandelweiser Und So Weiter』を採りあげて2012年レヴューを完結させることとしたい。



Gunter Baby Sommer / Songs for Kommeno
Intakt Records CD 190
Gunter Baby Sommer(dr,perc),Savina Yannatou(voice),Floros Floridis(ss,cl,bcl),Evegnios Voulgaris(Yayli Tambur,Oud),Spilios Kastanis(b)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16916
 第二次世界大戦終戦間際、ギリシャ西岸の村Kommenoを占領したドイツ軍が住民300人以上を虐殺した事件を題材として、ドレスデン出身のGunter Sommerの音楽監督の下、4人のギリシャ人ミュージシャンが集って完成させた本作には、ちょうどテオ・アンゲロプロスのフィルムがたたえるような凝視の強度がみなぎっている。ロングネック・リュートのような形状で膝に立てて弓奏するYayli Tamburの、倍音豊かな音色の言葉にならない心情の襞に寄り添う微細な揺らぎを基調として、かすれたつぶやきから声を宙に舞わせ粘膜を引き裂くように震わせるヴォイス、音程/強弱/音色を激しく移ろわせ時に激情をほとばしらせるソプラノ・サックス、太く揺るぎない芯棒となりながら足下を見詰め身を震わせてすすり泣くアルコ・ベース。細やかに音色を散らしながら音を刻むパーカッションが一体となって、歴史の重圧に耐えながら寡黙に糸を紡ぐように、遥かな哀しみを語り継ぐ。激昂したり声高に語ることを避け、言葉少ななゆるやかな歩みのうちに溢れかえる想いを映した演奏の密度が素晴らしい。住民の証言や現地で収録した民謡等の挿入も効果的であり、静謐にして劇的な高揚をもたらす。ドイツ/ギリシャ/英語の3か国語による分厚いブックレットが付属。なお、ドキュメント・フィルムからの抜粋を次のURLで見ることができる。http://www.youtube.com/watch?v=II3bVckRx6I


John Butcher / Bell Trove Spools
Northern Spy Records NSCD032
試聴:https://soundcloud.com/experimedia/john-butcher-bell-trove-spools
 サキソフォンの各部を鳴らし分け、この楽器から自在にポリフォニーを引き出す彼の演奏は、これまで、楽器の表面にハリネズミのようにセンサーを取り付けて、オシログラフに映る振動モードや表面温度を測定しつつツマミを調整する科学者のように見えた。とりわけ楽器を鋭敏な受信機/発信器としてアコースティック・フィードバックのもつれあうループの中に挿入する場面において。そこでは画面いっぱいに顕微鏡的に拡大された視覚が映し出され、楽器を操作する彼自身は画面の外に位置し、振動の場に無防備に身体をさらすことがない(たとえば『Invisible Ear』を参照)。しかし本作では強靭な響きが聴き手のみならず奏し手である彼自身もとらえて放そうとしない。自ら振動に巻き込まれることで視界は揺らぎ歪み、時間は乱れ、身体は見通しの効かない不透明で重苦しい響きに捕らわれることになる。彼はぬかるみにずぶずぶと踏み込み、深みへと沈み込んで、息詰まる濃密さと格闘する。耳はその様に圧倒されながら、後を付き従うよりほかはない。かつては希薄な響きの層へと分解され尽くして、無際限な空間の中に宙吊りされた分子模型やワイヤー・モデル、あるいは断層撮影イメージのように立ち現れていた音は、ここでそうした透過性を失い、輪郭をまとい表面を閉ざし質量を伴って地へと降り立つ。見通すことのできない響きの肉襞の奥に潜む硬いしこりが耳の指先に触れてくる。


Charlotte Hug, Frederic Blondy / Bouquet
Emanem 5026
Charlotte Hug(viola,voice),Frederic Blondy(piano)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=17121
 ここでも音は聴き手に迫り呑み込もうとする。まるで響きの花弁の奥を覗き込んでいるかのように。ピアノの低弦への打撃はプリペアドにより、振動をそのまま空間に解き放つことなく内にこもらせる。毒は全身に回り、毛穴という毛穴から汗が噴き出し、筐体は鬱血して、くぐもった声にならない叫びを挙げる。一方ヴィオラは弓の張りを緩めて複数の弦を同時に弾くことにより、厚みを持ったねじれた音色を立ち上げる。あるいはヴィオラのリフレインと重ねられた彼女の喉を震わせる「声」が斜めに行き違い、冷ややかにそそり立つピアノの高音の連打にピアノ弦の搔き鳴らしが襲いかかる。近距離で向かい合いながら、二人は矢継ぎ早に音のかけらを投げつけ合うのでも、身体の強迫的な痙攣を鏡に映し合うのでもなく、まずは音の混成体をつくりだし、その色合いや疎密の程度を見極めながら、ミキサーのフェーダーをいじるように自らの演奏をコントロールする。こうした演奏する自分をその背後からもう一人の自分が見ているような感覚(「離見の見」)は、空間に充満させた倍音を揺らがせるようなドローン的演奏においてはまま見られたところではあるが、ここにはそうした緩衝材はない。至近距離における自動運動の乱反射でも、分厚い空間に隔てられた響きのクロマトグラフィックな滲みあいでもない、いわば中距離の交感は、先に見たJohn Butcherの場合と同様、虚空で音粒子が衝突/交錯するといった透明性を離れ、互いの音ははなから見分け難く混じり合い溶け合っている。というより、それぞれの演奏自体が、ここではすでにして分裂/解離した複数の身体/運動の混合物なのだ(とりわけBlondyがピアノから引き出す響きの多様な色彩と速度/濃度は驚くべきものだ)。音響的なインプロヴィゼーションを突き詰め突き抜けることにより、Derek Bailey,Evan Parkerによる『London Concert』や『Company 1』の地平に改めてたどり着いた感がある。


Maya Homburger, Barry Guy / Tales of Enchantment
Intakt CD 202
Maya Homburger(baroque violin),Barry Guy(bass)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16917
 たおやかな聖歌の調べをイントロダクションとしてビーバーによるミステリー・ソナタ3曲とクルタークの作品が、バリー・ガイの作曲を間にはさんで並べられている。ビーバーの作品では、通常は鍵盤楽器による伴奏をコントラバスが務めている。通常のヴァイオリンではなくバロック・ヴァイオリンを用いることでより豊かに倍音が立ち上り、結果として主旋律の占める空間は感覚的に上方へと引き揚げられ、そこに開けた低域から中高域に至る幅広いスペースを、コントラバスはアルコによるフラジオや鋭い打弦を自在に駆使して、サッカーにおける「リベロ」のように縦横無尽に活用する。残響や倍音を空間いっぱいに振り撒き、あるいは濃密な響きのうちに車のフロントガラスを推移する圧縮された風景を映し出して。優雅さを身にまとった2本の幅の異なる響きの帯が、頭上高くドームのそびえる空間にはためき、旋回し、もつれあう。


Andrew Lafkas / Making Words
Sacred Realism SR002
Ann Adachi(fl),Adam Diller(ts),Tucker Dulin(tb),Kenny Wang(va),Andrew Lafkas(b),Margarida Garcia(el-g),Gill Arno(electronics),Keiko Uenishi (electronics) ,Barry Weisblat(electronics),Bryan Eubanks (electronics),Sean Meehan(snare drumm,cymbals)
試聴:http://www.sacredrealism.org/label/sr002.html
   http://www.ftarri.com/cdshop/goods/sacredrealism/sr002.html
 Andrew Lafkasのコントラバスが、床面すれすれにゆっくりと引き続ける一本の線から、余白へと滲みが広がり、クロマトグラフィーのように色合いを次第に淡く変化させながら、響きを立ち上らせていく。線はこうして響きの織りなす幅をたたえた音の帯となり、空間を渡っていく。前掲作におけるMaya Homburger,とBarry Guyのデュオにも見られたこうした生成的な広がりが、ここではアンサンブルを組織する唯一の原理となっている。原画における水彩の滲みの淡い広がりを、糸の色合いを変えながら織りが写していく。そのようにして再構築された風景は、響きが重層化され、偶然がもたらす揺らぎやもつれはアンサンブルの必然的な変化として再構築されて、より豊かで濃密なものとなっている。


高橋悠治, 内橋和久 / U9
Innocentrecords icr-019
高橋悠治(piano,laptop),内橋和久(acoustic&electric guitar)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/innocent/icr-019.html
 基本的には音のかけらを投げ合う器楽的なインプロヴィゼーションなのだが、二人の演奏者の「より多く聴きより少なく演奏する」耳の視線の強度が、演奏を張り詰めたものとしている。内橋はエフェクターを多用して音色を多彩なものとしながら、音を重ねず、溢れさせず、加速よりも減速へと向かい、希薄な響きの広がりや微かな傷跡で沈黙を際立たせようとする。対して高橋はラップトップにしてもピアノにしても音色を絞り込み、時には傍若無人なまでにだんまりを決め込み、たとえピアノを弾き散らかしたとしてもやはり加速へとは向かわず、気ままなデッサンととしてすぐに破り捨てて、あるいは冷ややかに響きを突き放しながら、つっかえつっかえたどたどしく進んでいく。先を争うことなく、自分自身にさえ「遅れ」ようとする冷ややかな距離の視線は、音が指され打たれる「盤面」を照らし出し、指し手/打ち手の身体を暗がりへと沈める。大阪の今は無きライヴ・スペースBRIDGEにて2007年に行われたライヴ。奥行きのある空間に彫りの深い音像を立たせる見事な録音は、アフター・ディナーへの参加等で知られる音響マイスター宇都宮泰による。この録音が本作の価値を高めているのは確かだ。


Philip Corner / Quiet Understanding
Quiet World qw35
Philip Corner(piano)
試聴:http://www.art-into-life.com/product/2442
   http://www.youtube.com/watch?v=xAlaSF6seDA
 『From the Judson Years』に収められたキッチン・シンクでの手仕事を録音に打ちのめされて以来、彼の「耳力」というか耳の視線の強度にはたびたび驚かされてきたが、本作もまた凄まじい。4日間に渡るピアノ・インプロヴィゼーションからの抜粋は、鍵盤に指を叩き付け、弦を直接掻きむしり、ピアノの躯体を拳で殴りつける等、暴力的極まりないものだが(ジャケット写真に傷だらけになった両手が写っている)、これだけなら山下洋輔がいれば用が足りる。恐るべきはそうした爆音を生み出す身体の運動の軌跡ではなく、最初に述べた通り、それをたじろぐことなく凝視し続ける耳の視線の強度の、張り詰めた揺るぎなさである。このことは録音の方がよくわかるだろう(ライヴに居合わせたならば身体動作に眼が釘付けになってしまうだろうから)。録音機材の感度を高めているため、冒頭から盛大なテープ・ヒスが聴き手の身体を緊張で縛り付ける。そこに蹂躙されるピアノの悲鳴が響き渡るが、彼は一瞬たりとも、自らの身体の運動に熱中して我を忘れてしまうことがない。鞭を振るい、針を突き通し、刃物で皮膚を切り裂きながら、常に獲物の脈を計り、失神や恍惚状態に達しないよう苦痛を与え続ける冷徹さがそこにはある。この一瞬に堰を切ったように噴出しながら、冷ややかに抑制され決して飽和へと至らない響きは、だがしかし、レコーダーのVUメーターをいとも簡単に振り切って見事なまでに歪んでしまうのだが、彼の視線はそのことも当然のように見通しつつ、まったく動じることがない。聴き手もまた、マイクロフォンの向こうに広がる演奏の空間に手を伸ばすのではなく、スピーカーのこちら側に送り届けられる傷だらけのマイクロフォンによる凄惨な報告に向かい合い、身じろぎすることなくしかと受け止めることを求められていよう。



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ディスク・レヴュー | 01:57:46 | トラックバック(0) | コメント(0)
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