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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2013年1月~5月 その1  Disk Review Jan. - May 2013 vol.1
 遅ればせながら、今年第1回目の新譜ディスク・レヴューをお届けしたい。まずはフィールドレコーディング、サウンドスケープの領域からの7枚。


Toshiya Tsunoda / The Temple Recording
Edition.T, e.03
Toshiya Tsunoda, Koichi Yusa, Sachie Hoshi, Teppei Soutome
試聴:http://www.art-into-life.com/product/3207
 まだ幼い頃、布団に入って横向きに寝ていると、どこからともなく行進の音が聞こえてきて、何だろうと起き上がると消えてしまう。そして再び寝入ろうとすると、ざっざっざっという規則正しい足音がまた響いてくる。何のことはない、その正体は蕎麦殻の枕に押し当てた自分のこめかみの脈動だったわけだが、そのことに気づくまでずいぶんと怖い想いをした。ジャケット写真に示されるように、ここで角田俊也は表題通りこめかみにマイクロフォンを装着し、風景と向かい合う。いわゆるバイノーラル・レコーディングと異なるのは、マイクロフォンが前方だけでなく周囲の、とりわけ身体内部の音もとらえてしまう点だ。それゆえ先に述べた雪を踏みしめるような「行進の足音」が規則正しく刻まれ、不透明にこもった響きの向こうに烏の鳴き声や小鳥の囀りが浮かび上がり、その遠ざかるような距離感が妙にリアルに感じられる。視覚が、対象との間の距離、介在する空間=分厚い空気の層をないものとしようとするのに対し、ここで聴覚はそうした隔たりを際立たせ、我々が重たい肉を被っていることを気づかせる。薄暗くはっきりしない風景の前で、耳の視線は内面へと沈み込んでいかざるを得ない。かつてのWrk以来の角田のコンセプチュアル・アート的な実験音楽志向について、私はそのすべてを無条件に賞賛するものではないが、本作が明らかにしている世界の手触りは素晴らしい。300枚限定。


Jakob Ullmann / Fremde Zeit Addendum 4
edition RZ 1029
Hans-Peter Schulz(organ)
試聴:http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=17326
 昨年聴いた最良の作品のひとつとして挙げたCD3枚組Jakob Ullmann『Fremde Zeit Addendum』の続編(作曲作品としては前作にSolo�鵯+�鵺+�鶚のうちの�鶚の部分に当たるようだが、別の機会の録音でもあり、当然のことながらまったく違って聞こえる)。オルガンの持続音の静かなうねり/うなりの向こうに、遠くたなびく薄いもやのような層が現れ、空間の奥深さがそうした層の重なりとして次第に浮かび上がると、その奥行きに投影されるように、稲光の素早いちらつきがはるか遠くで発光し、その前に新たな持続の層が立ちふさがったかと思うと、ゆるやかに薄らいでいく。暗闇を凝視するうちに次第に目蓋が重く閉じていくように、視界はコントラストを失って、薄闇と薄明がひとつに溶け合って、墨跡の滲みの重なり合いと化し、音もなくたゆたいながら、時折、鈴鳴りにも似た透き通った響きが空間を震わせる。


Jeph Jerman / Psaltery
レーベル番号なし
Jeph Jerman(psaltery,editing)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/jephjerman/jerman-131.html
 物音系コンクレートの大家ジェフ・ジャーマンの自主制作による本作には、ほとんどクレジットがないが、表題と収録された音から推察すれば、プサルテリーの弦をe-bow等で持続的に振動させているのではないか。ほとんど電子音といってよい響きの中に、指先にかかる軋轢や摩擦を連想させる「しこり」が感じられる。それゆえ音はざらざらとした砂を噛むような異物感を湛えたまま、中空に掲げられ磔刑に処され、ふるふると震えちらつき、あるいはひくひくと不均衡に痙攣を続ける。ドローンの思わず覗き込むような深さはここにはない。代わりに奥行きを欠いた不透明な浅さが際立っており、種も仕掛けもない極めて具体的な物質の手触りを伝える。と同時に録音や編集の過程で不可避的に付け加わったのであろう不明瞭さや虚ろな反射が、これらの響きをさらに魅力的なものとしている。


Jeremie Mathes / Efequen
Unfathomless U15
Jeremie Mathes(fieldrecording,editing)
試聴:http://www.ftarri.com/cdshop/goods/unfathomless/u15.html
 Unfathomlessが継続している特定の記憶を持った土地におけるフィールドレコーディングを素材としたコンクレート作品。ここでは主としてカナリア諸島で録音された渦巻くような風の唸り、子どもたちの声、泡立つ水音、そよ風に揺らぐ軽やかな雨音の粒立ち等が精密にして繊細極まりないパッチワークを経て、家族のアルバムから滑り落ちた1枚の色褪せた見知らぬ写真のように、あり得ない記憶のどきどきするほどリアルな迫真性をたたえている(サウンドの移り変わりのスリリングなこと!)。接合/投影され重ね合わされた音素材がもたらす、あえかな滲みや相互干渉による歪み、空間のパースペクティヴのずれや乱れ、多重露光を思わせる異なる速度のすれ違い、本来同時に成立し得ない物音の共存等が、ほとんどドラッギーな酩酊と言うべき、物静かな錯乱を招き寄せる。物語性や象徴性の次元をあからさまに欠いて、指先の感覚によって導かれた隣接性の論理のみによってつくりあげられた、精緻な音の象眼細工。このレーベルの作品の水準の高さにはいつも驚かされる。限定200枚。


Sala / Plotina
obs* 042
Audrius Simkunas(fieldrecording,arrangement,transformation,mixing)
試聴:http://abser1.narod.ru/index/0-37
 地を這う押し殺した息遣いが、しばらくするうちに次第に頭をもたげ、あたりを眺め回し、眼前に立ち上がる中から吹きすさぶ風音のどよめきや吹き晒されて錆びた門扉の軋み、遠くから風を渡る犬たちの吠え声、あるいは太い送電線の唸り等が姿を現す。しかし人々の口端から漏れるつぶやきや脈々と尽きることのない清水の流れが聴こえてくるにつれ、先ほどから眼前を覆って揺らぎ続ける見通し難い音の幕が、風の音であることが急に疑わしくなってくる。降り続く雨にいよいよ水かさを増した河の流れのようでもあり、厚いコンクリートの壁を隔てて伝わってくる巨大な機械の動作音のようでもあり、巧みに自然音の陰影を施されたジェット旅客機の飛行音のようでもある。いずれにしても音は、通常ドローンと呼ばれる一様にして稠密な深さとは似ても似つかぬ、不均質な隙間/気泡をはらみ続ける。「これは全き流れである 年月を経ることもなく‥」とジャケット代わりの大判ポストカードに引用された詩文は始められる。65枚限定。


Marc Behrens / Queendom Maybe Rise
Cronica 076-2013
Marc Behrens(fieldrecordings,electronics,editing,mixing),Yoko Higashi(voice sample)
試聴:http://www.cronicaelectronica.org/?p=076
 視界を覆い尽くすほどに湧き上がる虫の軋り、猿の遠吠え、彼方で鳴き交わす長短の鳥の声。息の詰まるほど濃密にたちこめる熱帯雨林のサウンドスケープが、高熱にうなされるように揺らめき遠のいて、ぐるぐると廻り始める。空をつかむ指の間から逃れ去る音の手触り。エレクトロニクスによる響きの再構成が、ぐわんぐわんと頭蓋骨を振動させ、落ち葉の間から蟻の群れが這い出るように、ざわざわと耳の視界をシミュレートし続ける。その精緻さは時に晩年のRolf Julius(『Raining』等)を思わせもするが、ここでのBehrensの構築は随所にぞっとするような深淵が口を開けており(超低音の響きの凄まじいこと)、そうした空間構成の乱脈さとサウンドの熱量において上回っている。東陽子のヴォイスの登場は最後の7分間のみ。


V.A. / Touch. 30 Years and Counting
Touch Tone 33cd
Touch 33,Fennesz,Bruce Gilbert,Rosy Parlane,Oren Ambarchi,ELEH,BJ Nilsen,Nana April Jun,Chris Watson,Mika Vainio,Carl Michael von Hausswolff,Jana Winderen,Philip Jeck,Francisco Lopez,Z'EV,Hildur Guonadottir,Biosphere
試聴:http://www.linusrecords.jp/products/detail/6528/
   http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=10139
 アンビエント、サウンドスケープ、フィールドレコーディング作品等を多くリリースしてきた英国の老舗レーベルTouchの活動30周年記念コンピレーション(2012年作品)。超豪華な面子に驚くが、決して既出音源の編集盤ではなく、すべてここでしか聴けないトラックにより構成されている。同時にリリースされたLP盤2枚組に合わせたのか、各ミュージシャンの音源は4トラックにまとめられているが、重ね合わされているわけではない。わずかな沈黙だけに隔てられて、異なる風景/音響世界が連ねられていく。たとえば3トラック目の冒頭を飾る、おそらくは走る列車の車内から外界へと耳を澄ましたChris Watson作品において、疾走する列車と線路が刻む心地よい振動を果てしなく滑らかに伸びていく軸線として、車窓を移りゆく風景は次第に輪郭を失って溶解し、ひしめく砕片の流動となってぐるぐると巡りながら聴き手を押し流していく。記憶がとめどもなく逆流し、涙で視界が混濁する幻惑的な持続がすばらしい。そうした息遣いは、同トラックを締めくくるJana Winderenによる、ぴよぴよと囀る雀の一群を思わせる電子音が中空で明滅し、その向こうに明度の低い雲のような音塊が揺らめきつつ、ゆっくりと静かに流れていく空間構成と、確かに一脈通ずるものがある。
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ディスク・レヴュー | 22:43:54 | トラックバック(0) | コメント(0)
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