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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2013年1月~5月 その2  Disk Review Jan. - May, 2013 vol.2
 ディスク・レヴューの第2回は器楽的インプロヴィゼーションからの7枚。ミッシェル・ドネダ参加作品が2作も含まれているが、透明な流麗さから荒々しい肉体闘争まで、速度そのものと化したサウンドの奔流から古びた心霊写真のように優雅な停滞まで、アコースティックな交錯からエレクトロニックな散乱まで、むしろ演奏の手触りは幅広く変化に富んでいると思う。長い準備期間をかけて選び抜いただけあって、いずれも秀作揃いと自負している。ぜひ耳を傾けてみていただきたい。



Benoit Delbecq & Fred Hersch Double Trio / Fun House
Songlines Recordings SGL-1600-2
Benoit Delbecq(piano),Fred Hersch(piano),Jean-Jacques Avenel(bass),Mark Helias(bass),Gerry Hemingway(drums),Steve Arguelles(drums,live electronics)
試聴:http://www.delbecq.net/bd/bd2audio.html
   http://www.allmusic.com/album/fun-house-mw0002482989
   http://vimeo.com/58387908
 ピアノとプリペアド・ピアノによる足のもつれたリズムの交錯。トリオの交感がつくりあげる本来は閉じた三角形を外へと開き、溢れ出す音の流れ。手前と背後で、右手前と左手奥で緊密に呼応しながら、異なる平面を推移する響き。ものの動きとかげの移ろい。光線の翳りと輪郭のちらつき。ピクニックのバスケットを囲む家族の団欒の後ろで、ふと風にそよぐ樹々の揺らめき。時折ピアノからドビュッシー的なきらめきが香るのは、そうした光に鋭敏だからかもしれない。決して場所を占めすぎることのない、各楽器の冷ややかに抑制された端正なタッチは、空間を埋め尽くすことなく、確かな余白の広がりを指し示す。小鳥の羽ばたきにも似た、粘度の低いさらりとした素早い動きが、磨かれた表面を滑走していく。そぼ降る雨の中、音もなく行き交う人の群れを、四角く切り取る窓のガラスに、弾ける水滴の予測し難い振る舞い(ズームの寄りと引きを繰り返すキャメラの視線による)。終曲を飾るのはオーネット・コールマン「ロンリー・ウーマン」。


John Butcher, Tony Buck, Magda Mayas, Burkhard Stangl / Plume
Unsound U35
John Butcher(saxophones),Tony Buck(drums,percussion),Magda Mayas(piano),Burkhard Stangl(guitar)
試聴:http://www.unsounds.com/35u.html
 冒頭のDerek Bailey,Evan Parker,Tony Oxleyのトリオを彷彿とさせるやりとりに一瞬驚かされるが、すぐに互いの感覚的距離がずっと近いことに気づく。音は投げ交わされるのではなく、演奏者の身体から切り離されることなく肌を触れ合わせ、折り重なる。響きの肌理を震えを触知する皮膚感覚的演奏。その一方で、ひたすら希薄な広がりを編み続けることに飽き足らず、間断なく音の粒立ちを変容/推移させ続けるヴィルトゥオージテは、旧世代から綿々と受け継がれた今となっては貴重品にほかなるまい。特にJohn ButcherとTony Buckの驚くほど繊細かつ多彩にして、ダイナミクスの振幅の大きな演奏が素晴らしい。後半は二人の紡ぐ電子パルスの雲のような集積に、Magda Mayasが冷たく硬質な輪郭を深々と刻印するトリオとなる。


Michel Doneda, Nils Ostendorf / Cristallisation
Absinth Records 023
Michel Doneda(soprano & sopranino saxophone,radio), Nils Ostendorf(trumpet)
試聴:http://www.absinthrecords.com/clips/023free.mp3
   http://www.squidco.com/miva/merchant.mv?Screen=PROD&Store_Code=S&Product_Code=16336
 風神の戦い。まっすぐに管を吹き抜ける息と、息の流れがねじれて生じた結び目が、管の各部をポリフォニックに分割振動させ、多重な輪郭の揺らぎが姿を現す。彼らは至近距離で対峙しながら、決して息を溶け合わせることがない。そそり立つ息の柱の間近を、噴出する鋭い風のうなりが削るように行き過ぎる。二人は互いの左手首を結わえ付け、右手にナイフを持った決闘者のように斬りつけ合う。両者の放つ音が「無声音」から「有声音」の領域へと移行し、寸断されたフレーズが寄せ集められて、彼らの向かい合う距離を介して「対話」へと編み上げられる時であっても、そこには常に「音響」へとこぼれ落ちていく回収不可能な逸脱があり、それを先の「接近戦」の感覚が支えている。500枚限定。


Doneda, Lasserre, Pontevia / Miettes & Plaines
Petit Label PL son 014
Michel Doneda(soprano & sopranino saxophone,radio), Didier Lasserre(snare,cymbal), Mathias Pontevia(horizontal drums)
試聴:https://soundcloud.com/psaihtam/miettes-plaines-extrait1
   http://www.petitlabel.com/pl/disque.php?ref=PL%20son%20014
 またしてもドネダ。しかし本作では、ほとばしる流動への純化に至った前掲作とは異なり、より色彩豊かに音色の運動を繰り広げる彼を聴くことができる。シンバルの連打の交錯を篠笛を思わせる甲高い音色が鋭く突き刺し、弓弾きシンバルの軋みから溢れる倍音の雲に対しては超高速の息の奔流が応え、ほとんどエレクトロニクスにも似た剛直な音色のパルスが激しく泡立ちながら明滅を繰り返す。ここで三人は演奏の場が張り裂けそうになるほど激しく息を吹き込み、忙しなく打ち込み揺すり立てながら、各々の動き回る身体の輪郭を聴き手の視線にさらし、等身大の世界を生きている。牙を立て噛みちぎるようなサックスと雪崩落ちるパーカッションの肉弾戦。あるいはふつふつとたぎる息と静かに擦られる打面の振動、間を置いて打ち鳴らされる金属音に注意深い眼差しを注ぎ続ける耳。だからこそ雑色的な異空間を導入するため、時折ラジオが用いられるのだろう。


Stephen Cornford, Samuel Rodgers / Boring Embroidery
Cathnor Recordings Cath015
Stephen Cornford(electronics),Samuel Rodgers(piano)
試聴:http://cathnor.com/?product=stephen-cornford-samuel-rodgers-boring-embroidery
   http://www.art-into-life.com/product/3476
 暗闇にピアノの打鍵がぽつりぽつりと滴り、空間に静かに波紋を広げる。空気がねっとりと波打ち、突然の衝撃にひしゃげ、あるいは一瞬プラズマが閃く様が、冷えきったエレクトロニクスにより彫啄され、皮膚表面のうぶ毛をざわつかせる。速度へと傾くことなく、一音一音の内部に潜む微細な振動の重なりにひたすら眼を凝らすピアノが、何より素晴らしい。希薄なエレクトロニクスの広がりに浸されながら、その響きは音響へと解体されてしまうことなく、目蓋の裏に映る残像のように希薄化しながらも、断じてそこに留まり続ける。耳の奥に貼り付いたピアノの地縛霊。そう言えば、このエレクトロニクスの感触は心霊写真にぼんやりと浮かび上がるエクトプラズムに似ている。カヴァー・アートのほとんど意味不明な、得体の知れない優雅さもまた魅力的。


Axcel Dorner, Mark Sanders / Stonecipher
Fataka 5
Axcel Dorner(trumpet,electronics),Mark Sanders(drums,percussion)
試聴:http://recordings.fataka.net/products/513486-stonecipher-axel-dorner-mark-sanders-fataka-5
 トランペットの息音、間歇的なあるいは変化することなく鳴り続ける電子音、鋭く短くあるいはやはり変化することなく擦られるシンバル‥‥。そうしたいかにもな音響的素材は、しかし通常のエレクトロ・アコースティックなインプロヴィゼーションの語法、すなわち触れるか触れないかぎりぎりに保たれた水平な層の重なりや、形なく溶解してクロマトグラフィックに滲み広がっていく希薄な響きの相互浸透等、に従うことなく、解き放つことの衝動と快感のままに放射/噴射され、勢いよくぶつけ合わされる。もちろんそこには冷徹な抑制が貫かれており、情動の垂れ流しに至ることなど決してないのだが、この交感はむしろロックあるいはノイズ・ミュージックのそれに近い(ミクロな次元まで研ぎ澄まされているとは言え)。それゆえ器楽的インプロヴィゼーションの枠に入れた次第。向かい合う二人の音像は明確な輪郭をたたえ、至近距離で激しく切り結ぶ。息音と電子音をまったく並列的に取り扱うDornerが素晴らしいのは当然として(その手つきはデヴィッド・チュードアを思わせる)、音色の遠近を際立たせながら、実に的確に対象を打ち抜くSandersの鮮やかさには驚かされた。録音も演奏の核心を鮮明にとらえている。


Ikue Mori, Steve Noble / Prediction and Warning
Fataka 6
Ikue Mori(electronics),Steve Noble(drums,percussion)
試聴:http://recordings.fataka.net/products/513487-prediction-and-warning-ikue-mori-steve-noble-fataka-6
 見事なスティック・ワークで風のように駆け抜け、鮮やかに身を翻すNobleと向かい合い対抗するのではなく、ミクロな細流となってその間隙に入り込み、衝突することなくすり抜け、常に高速で交錯し続けること。Moriは実に考え抜かれた明確なヴィジョンの下、表情ひとつ変えることなく沈着冷静に、サンプリングされた打撃音の破片を振り撒き続ける。降りしきる豪雨を幾重にもセットされたプロペラの回転が切断するような、恐ろしいばかりに高密度に圧縮された高速運動体(だが超高速度撮影で見返せば、ローターと雨粒はまったく衝突などしていない)。本作に比べれば、「高速ビートの交錯」を謳うスピード・メタルやターンテーブル・スクラッチはまったく児戯に等しい。チャン・イーモウがスローモーションで魅せるスーパー・アクション(時折濃密に過るオリエントな香りからの連想)を、反対にバスター・キートン的に何倍にも加速したような、思わず込み上げる笑いを抑えきれない圧倒的快作。
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ディスク・レヴュー | 23:08:10 | トラックバック(0) | コメント(0)
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