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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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2013年ポップ・ミュージック ディスク・レヴュー その2  Disk Review for Pop Music 2013 vol.2
 前回のアンサンブル編に続く第2回はソング編。‥‥と言いながら今回で終わるはずもなく、来年1月もまだまだ続きます。


Silvia Perez Cruz / 11 De Novembre
Universal 0602537012985
Silvia Perez Cruz(vocal,guitar,spanish guitar,piano,accordion,saxophone,clarinet,sounds,others),violin,viola,cello,contrabass,horn,trumpet,cor anglais,mandolin,flamenco guitar,slide guitar,percussion,backing vocals,voice
試聴:http://elsurrecords.com/2012/08/02/silvia-perez-cruz-11-de-novembre/
 Benat AchiaryやSavina Yannatouのように声を身体の奥深くから汲み上げる歌い手が好きだ。そこで声の源泉はさらに深く伝統の水脈とつながっていて、一方、モダンな抽象化を経ることにより声は自在な飛翔力を手に入れる。彼/彼女たちのような声の喫水の深さは彼女にはない。彼女にとって伝統は決して運命的に背負う/戦うべき何物かではなく、年寄りの集まる年期の入ったカフェや、屋根裏部屋で見つけた昔の映画のサントラのEP盤やお婆さんが娘時代にしていたショールのような、自分が新たに発見し価値づけた「お気に入り」なのだろう。だからここで声は深さよりも軽さを志向し、朝の光の中に羽ばたく。もちろん伝統は彼女の血に流れ込んでいるが、それはすでに日常の中で他の異文化と混ざり合っている。彼女の声はまるで小鳥のようにそれらの枝々を飛び回り、美しい尾羽根を閃かす。枝を渡るたびに眺めが変わるので、さらりとした歌い回しにもかかわらず、編曲は思いがけず入り組んだものとなっていて(突然「ムーン・リヴァー」が扉をノックする)、それがまた彼女の声の身軽さを引き立てている(決して「ミクスチャーのためのミクスチャー」ではない)。素晴らしい。


Irma Osno, Shin Sasakubo / アヤクーチョの雨
Chichibu Label / Beans Records Chichibu-002
Irma Osno(vocal,percussiones),Shin Sasakubo(classic guitar,acoustic guitar,12 strings guitar,charango,chinlili,percussion,vocal),Maki Fujiwara(drums),Noritaka Yamaguchi(bass,electronica)
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/CHICHIBU002.html
 以前にライヴをレヴューした(※)ペルー音楽の探究者笹久保伸とその妻イルマ・オスノによるペルー南部山岳地域に位置するアヤクーチョの民謡を題材としたデュオ(ゲストの参加は13曲中2曲に留まる)。一聴、天真爛漫、天衣無縫に飛び回るヴォイスの「野生」に圧倒されてしまう。「魅惑的」などという悠長なものではなく端的に言って「怖い」。ふだん聴き慣れている西洋音楽的な格子にはまらず、フリー・インプロヴィゼーションの枠組みにも従うことのない、声の身体の生な噴出/奔流に思わず後ずさりしてしまう。そこをぐっと踏み堪えて耳を開いて凝視すれば、声とギター(や打楽器類)が実に多様な関係性を取り結んでいることが、次第に明らかになってくる。音盤に添えられた解説には「このアルバムで、Irma Osnoはアンデスで歌われる歌をそのまま歌い、笹久保伸は表面的な意味での"アンデス・ギター奏法"にとらわれることなく、自由に演奏することを心がけた。いわゆる『共演』というよりは同じ場所でそれぞれが別々の響きを創るように録音された。」と書かれている。それは嘘ではない。しかし、決して行き当たりばったりに創りあげられた作品でもない。声が迸らせる匂いにぴりりとスパイシーな打弦で拮抗する一方で、多重録音により切り立ったエッジで綱渡りする声をガイドし、その場にそそり立つエナジーを滔々たる流れへと導く(持てる技量を総動員して)。もし本作から溢れ出す声の力の圧倒的な「まぶしさ」に「耳が眩む」ならば、ぜひギターの傍らに耳を置き、ギターの響きのシェード越しに聴いてみることをお勧めしたい。


Tibet: Les Chants De L'exil - Songs From Exile
Buda Musique 3731687
試聴:http://www.ahora-tyo.com/detail/item.php?iid=12352
   http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=11271
   http://www.youtube.com/watch?v=fKZGt8dx-QQ
 インドはラダック地方に暮らす亡命チベット人たちの音楽。生活の場面に溢れる掛け声がそのまま歌を生み、演奏もまた風の響きや家畜の鳴き声、移動の足音が織り成す音風景の一部として溶けていってしまう。この渾然一体とした分ち難い豊穣さは、同時にロングやアップを切り替えながら「ドキュメンタリー番組」を制作するクルーのキャメラ・ワークが浮かんでくるほどあざといまでに構成的であるのだが、そうした押し付けがましい「ヒューマニズム/良心」に向けた警戒心を最大限に発揮してもなお、本作の素晴らしさを認めないわけにはいかない。音楽は実に豊かで、演奏も見事過ぎるほどに見事で、これほどの音楽が日常生活の中に埋め込まれているとは俄には信じ難く、また、録音もやたらに鮮明で風によるマイクロフォンの「吹かれ」のような暗騒音も皆無。笛の息遣いを鮮明にとらえる足元には水の流れが涼やかに響きを立て、向こうには鳥が遊ぶ。その水の流れを連続させたまま、演奏はすっと女性たちの合唱の不揃いであるが故の豊かさへと引き継がれる。この水の流れの連続性は、この風景がスタジオで事後的に構築されたものであることを明らかにしている。本作の素晴らしさをぜひ多くの方に聴いていただきたい。と同時にフィールドレコーディング作品が世界をそのままに写し取るものではないことを、改めて強調しておきたい。


Eric Marchand / Ukronia
Innacor Records INNA41215
Eric Marchand(vocal),Florian Baron(oud),Benjamin Bedouin(cornets a bouquin),Phillipe Foulon(lyra viols),Phillipe Le Corf(violin),Pierre Rigopoulos(zarb,daf,davul)
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/AD2141C.html
 いつも向かい風に立ち向かって進む、甲高く鼻にかかったEric Marchandの声は、ブリトン・トラッドの領域をはるかに越境し、ウードやタブラと共演し、バルカン音楽とすら親密な(だが緊張に満ちた)エールを交わしてきた。ここでは古楽アンサンブルとの共同作業を進めているのだが、「バロック・ブルトン音楽」の試みとして説明されるそれは、通常のバロック音楽がイメージさせる「安逸さ」とは、全く別の方角へと旅立っている。何よりも彼の張り詰めた声が、他の楽器のラインをも際立たせ、倍音をふんだんに香らせる。その結果アンサンブルは、各種の木の実や穀粒をふんだんに含み粒立ちに満ちた多様な歯触りと香味の小爆発で、口中のありとあらゆる部分を同時多発的に愉しませるものとなった。対位法をかたちづくる各ラインは異なる色合いで織り成され、さらには一連のフレーズやリズム・パターンを構成する各音もまた、それぞれに異なる方向へと弾け飛ぶ。異質の速度と色彩が自在に駆け抜ける音響編制体は、一見典雅な見かけのうちに、細長い棒の先で揺らめきながら回転する大皿小皿の集合体という危機に溢れた内実を隠している。



Unni Lovlid / Lux
Heilo HCD 7271
Unni Lovlid(folk singing),Hakon Thelin(double bass),Randi-Merete Roset(glass),Liv-Jorun Bergset(glass)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=WFzKb0okg1A
   ※音盤収録の音源ではありませんが参考に掲げておきます。録音が適切ではないため、彼女たち独特の冷ややかさが薄れ、妙に騒がしく聴こえてしまうことを、あらかじめお断りしておきます。
 クレジットを見ての通り、声とコントラバスとグラス・ハーモニカという破天荒な楽器編成に驚くが、決して奇を衒ったものではなく、聴けばその説得力に深く頷くこと請け合い。北欧トラッド特有のいささかの弛みもなく凛と張り詰めた声の強度と、弦を軋み震わせ轟々と鳴り響かせるコントラバスの音圧が、吐く息が白く見えるほど冷えきった空間において緊密に渡り合う。その間には稲光にも似た緊張の線が何本も走り、ますます響きを研ぎ澄ましながら、両者はさらに深く硬く鋭く空間を彫り刻んでいく。やはりピンと冷たく張り詰めたクリスタル・グラスの縁を撫でる指先が、たゆたう倍音の霧を醸し出し、静かに明けていく東の空の明るみがいよいよ冷たさを増した石造りの床に照り映え、はるか高い天井に届こうとしている。石畳から薄白くたちのぼる冷気を思わせるグラスの響きは、時にコントラバスの高音のフラジオとひとつながりに溶け合って中空にたなびく一方で、声やコントラバスを離れ、ひとり静謐さに沁み込む際の音色はより柔らかく、まるでポルタティフ・オルガンのように響く。別の視点からすれば、ゆるやかにうねるドローンと硬く張り詰めた巫女の声という徹底的に絞り込まれた古代祭儀的な響きに、アルコにしろピツィカートにしろ多彩な超絶技巧を駆使しながら、常にさわりを多く含んで覚醒とトランスを誘う点において、やはり古代の祭具を思わせるコントラバスという神話的アンサンブルが、大地の豊穣と再生を祈願する。


Seval / 2
482 MUSIC 482-1082
Sofia Jernberg(voice),Fred Lonberg-Holm(cello),David Stackenas(guitar),Emit Strandberg(trumpet),Patric Thorman(bass)
試聴:http://www.482music.com/albums/482-1082.html
 「シカゴ音響派」時代のJim O'Rourke等との共演も多いFred Lonberg-Holmを中心としたアンサンブル。以前に中谷達也(perc)との素晴らしいデュオ・ライヴをレヴューした(※)スウェーデン出身のDavid Stackenasの参加が眼を惹く。とは言え演奏内容は、嵐のようなインプロヴィゼーションではなくて、子鹿が跳ね回るように可憐なSofiaのヴォーカルを中心とした繊細極まりないポップ・ミュージック。彼女も時にワードレスのヴォーカリゼーションを見せるし、チェロやトランペット、ギターのソロやアンサンブルのためのスペースも充分設けられているのだが、決して曲の世界観を逸脱することなく、むしろ細部を綿密に描き込むことによって、そして不安定な揺らぎや視点のズレをはらませることによって、アンサンブルの全体を立体的に浮かび上がらせていく感じ。ドラムスを外して縦の並びを揃えないことにより、各自のヴォイスがそれぞれに異なる速度で、ゆるゆるとあるいはするすると自由に空間を行き交う。
※http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-92.html


Jackie Oates / Lullabies
ECC Records ECC009
Jackie Oates(vocals,5 string viola),Berinda O'Hooley(piano),Chris Sarjeant(guitar),Barnie Morse-Brown(cello),
試聴:http://jackieoates.bandcamp.com/album/lullabies
   http://elsurrecords.com/2013/04/20/jackie-oates-lullabies/
 「うた」あるいは「声」の集成とは思えないほど、キリキリとテンションが張り詰めた今回のセレクションの中で、唯一、暖かく柔らかなベッドを用意してくれるのが本作。彼女の声が本来的に備えている豊かな包容力に加え、さらりときらめくピアノ、静かに足元から満ちてくる弦、ささやくような息遣いをとらえた録音等、世の中の慌ただしい喧噪を遠ざけるための心細やかな配慮に満ちている。題名通り、次第に重たくなっていく目蓋の向こうへ、おぼろに遠ざかっていく甘やかな肌触り。

 本作のジャケット内側に描かれた飾らないペン画もまた愛らしい。その画像がないかとウェブで検索していると、なぜか見覚えのある懐かしい画像にたくさん行き当たり、不思議に思って調べると奈良pastel records(※)の掲載画像でした。本作を薦めていたので、同じページに記された作品名がピックアップされて、他の掲載画像も集まってきたのでしょう。
 以前にお知らせしたように、同店は本年末(本日)をもって「閉店」し、CD販売業務を一時休止してしまいます。店主寺田氏の独自の耳の在処が内側から光を放つ得難いお店でした。ということで、本作のレヴューを勝手にpastel recordsに捧げたいと思います。「子守唄」とは来るべき目覚めに向けて、眠りの川へ舟を送る歌ということで。
 お疲れさまでした。また出会える日を楽しみにしています。
※http://blog.livedoor.jp/marth853/
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ディスク・レヴュー | 15:48:27 | トラックバック(0) | コメント(0)
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