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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2013年11〜12月 その2  Disk Review Nov.-Dec. 2013 vol.2
 2013年ディスク・レヴュー最終セット第2弾はフィールドレコーディングからの7枚。最初の3枚はそれぞれ最も極端な仕方で、フィールドレコーディング作品を定義し直し、拡張し、豊かなものとしている。



Christina Kubisch, Eckehard Guther / Mosaique Mosaic
Gruenrekorder Gruen 131
recorded by Christina Kubisch,Eckehard Guther,Dieter Scheyhing
mixed and assembled by Christina Kubisch,Eckehard Guther
試聴:http://www.gruenrekorder.de/?page_id=10742
 「眼から鱗が落ちる」とはこのこと。街中でのフィールドレコーディングを素材としたコンクレート的作品なのだが、その活き活きとした息遣いに驚かされる。カメルーンに乗り込んで、どこもかしこも歪んだ大音量でスピーカーから音が鳴りっぱなし(教会の説教まで)なのにあきれていたKubischは、自ら主催したワークショップを通じて、現地の参加者からとっておきの「いい音の聴こえる場所」を教えてもらい、彼らもちゃんと聴いていて、音楽的な耳を持っていることに気づく。そこから彼女たちの録音設備と彼らの耳の「交換」が始まる‥。彼女たちが偶然出くわした音の多様さ豊穣さが、ゼイディ・スミス『ホワイト・ティース』を思わせるけたたましくとっちらかった仕方で、ここには見事に詰め込まれている。キンキンとラウドに歪んだ説教のやりとりから、心地よくて眠り込みそうなぬる〜い賛美歌へ。車の行き交う街頭からヤギとカエルが鳴き交わす「牧歌的」眺めへ。パーカッションの連打に合わせ、一斉にクラクションが鳴り響き、調子外れなゴスペルがコーラスへと高まるともう涙が止まらない。見知らぬ顔や埃っぽい匂いのあり得ない記憶が次々に鮮やかに浮かび、まるで自分自身が異郷で体験した出来事異郷を、スナップ写真をたどりながら思い出しているような、とても不思議な気分になってくる。記憶/情動の喚起力という点で、これほどまでに強力な作品を私は知らない。また「ヴァナキュラー」の実践としても。「寸分の傷もなく磨き上げた作品を制作する最もハイ・アート的なサウンド・アーティスト」とのKubischに対するイメージはものの見事にひっくり返された。ぜひ多くの方に聴いてもらいたい。世界をとらえる耳の在処が変わってくるはず。


Marc & Olivier Namblard / Cevennes
Kalerne Editions KAL04
Marc & Olivier Namblard(recording,montage,mixing)
試聴:http://www.kalerne.net/main/index.php/editions/cevennes-2cd-by-marc-olivier-namblard
 「自然のサウンドスケープと動物の声」と副題されているにもかかわらず、ここで動物の声は決して主役ではない。TVの自然ドキュメンタリー番組でよくあるような、鳴いている動物にフォーカスを合わせて背景を曖昧に溶かしたり、逆光気味にシルエットを浮き立たせたりすることなしに、鳴き声は鮮明にとらえられながら、広々と奥行き深いパースペクティヴに位置づけられ、風やそれを受けて揺れる樹々のうなりとテクスチャーを編み上げ、あるいは眼前にぬっと姿を現す。フランス中央産地の丘陵に放たれた無数の羊の首に掛けられたベルの響きが耳の視野を埋め尽くし、吹き荒れる風が送電線を震わせて巨大な唸りを引き起こす。大小の響きが遠近をもって交錯し、サルヴァトール・ローザにも似た荒々しく野趣に溢れたピクチャレスクな光景を描き上げる。豊穣たる音の眺めは耳の至福と言わねばならない。CD2枚組(70分+60分)に28ページのブックレットが付属して外箱に入った重量盤。自身フィールドレコーディング・アーティストであるYannick Daubyのレーベルから。


Hiroki Sasajima / Circle Wind
Felt Collective FELT 8
Hiroki Sasajima(fieldrecording,electronics)
試聴:http://www.feltcollective.com/editions/hiroki-sasajima/
 笹島裕樹は常に耳の視点をどこに置き、画面に何をどう配置するかアングルを選び抜く。その結果として、同じフィールドレコーディング手法を用いながら、眼の眩むような広大な光景を映し出す前掲作に対し、細密にして繊細、緻密にして怜悧な音世界をつくりあげている。強迫的な広がりや奥行きの代わりに、観察に必要なだけの視野が浮かび上がり、くっきりと像が結ばれる。サルヴァトール・ローザの分厚い油彩に対する初期の建石修志を思わせる細密鉛筆画の趣。「見越し」の視線を誘うべく配された前景から、中景を省略して後景へと飛躍し、空間に奥行きをもたらすとともに、ヒューモアと奇想に富んだ意趣をはらませるやり方は、名所絵を描く際の浮世絵の技法にも通ずる。いやむしろ、全てが寸分の狂いなく配置されているとの氷結感は、音/音楽が本来必要とする時間の展開を停止し、永遠を封じ込めた音の細密写真つくりあげる試みと解するべきだろうか(一部で用いられている電子変調も「運動」や「変形」ではなく、「結晶化」の方向に作用している)。500枚限定。益子におけるstilllifeのライヴ時に購入。


David Velez, Simon Whetham / Yoi
Unfathomless U17
David Velez(fieldrecording),Simon Whetham(fieldrecording)
試聴:http://unfathomless.wordpress.com/releases/u17-david-velez-simon-whetham/
   https://soundcloud.com/unfathomless/u17-david-v-lez-simon
 「Unfathomlessは、記憶、アウラ、そして共鳴に満ちた特定の場所のスピリッツを反映したフォノグラフィにフォーカスしたテマティックなシリーズである」(カヴァーの表記より)。ここで選ばれた「場」は、都市であれ、密林であれ、荒廃したショッピング・モールであれ、湿地帯であれ、制作者自身によって実際に体験・探索され、そこに浮かび上がる様々なイメージや物語が撮影・録音され、それだけを基本素材としながら(電子的な変調が施される場合がある)、その「場」のスピリッツ(とは、この場合、その場をそのように在らしめている「核心」ということになろう)をとらえることが求められている。こうしたテマティックな厳しい制約により作品の焦点は絞り込まれ、その結果として、同系列の先行レーベルMystery Seaの大海原を思わせる深く広大なドローンに一様に収斂してしまっている作品群(もちろん素晴らしいものもあるにせよ)に対して、はるかに鋭く研ぎ澄まされた強度を獲得しているよう。ここでは同じコロンビアのジャングルを対象として、二人の作家がそれぞれに作品を提示することにより、「耳により世界をとらえる」ことの奥深さが示されている。David Velezが明らかにする熱帯雨林とは聴き手を全方位から隙間なく取り囲むサウンド・ウォールであり、多種多様な虫、鳥、獣の声や水や風の音が樹々に乱反射するオールオーヴァーなテクスチャーの圧倒的な生成である。対してSimon Whethamが指し示すのは、そうした喧噪に盲いた耳に忍び入る不可思議なかげであり、不定形な音のしみが、喧噪の只中にぽっかりと開けた空白に移ろう。そこでフォーカスされているのは、場自体の生成よりも聴取に対する作用、すなわち耳の変容にほかならない。それは不安と幻に満ちた悪夢の姿をしている。


Andy Graydon / Unterwegs
Contour Editions ce.cd0004
Andy Graydon(fieldrecording,processing,editing,mixing)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=UxozSUxoTRw
 Tony Conrad『Four Violins(1964)』、Andrew Lafkasによるベース・インプロヴィゼーション、Kenneth Kirschnerの録音作品、さらには彼が多くのアーティストによるサウンドを素材としてつくりあげたインスタレーション『Erased Cage』の彼自身によるフィールドレコーディング等を素材としているという。だが、どこにTony Conradが姿を見せているのか少しもわからない。柔らかな耳鳴りが遠い潮騒のように響き続ける20分以上に渡る長尺の3曲目もよいが、話し声、鳥の声、ブーンという有機的なうなり等が確かな手触りを持って空間に現れ、しかし互いの関係は少しも窺い知れない20分弱のやはり長尺な1曲目「Airframe」が何と言っても素晴らしい。アンビエントな希薄さの下、音景は揺らぎ穴だらけになって向こう側を覗かせ、破れ目から間歇的に別のサウンドが湧き出してくる。一方にがさがさと毛羽立ちながら聴こえなくなっていく音があり、他方に芽吹きゆっくりと翅を広げていく響きがあって、さらに敷き重ねられたレイヤーの底から、また別の音響が姿を現す。春になって溶けた雪の下から置き去られたものたちがみつかるように。その移り変わりの瑞々しさは、乾期が終わり雨を沁み込ませた大地から、植物がみるみる芽吹いていく様を早送り再生した動画を思わせる。絶え間なく陽が昇りまた暮れていき、季節が瞬く間に過ぎていく。奥行きをもたらすことなく、もやもやとした不透明さの中に遠さ/深さをつくりだす手つきは見事と言うほかはない。朦朧と蠢く音の影の、耳を塞いでも指の隙間から這い入ってくる感触は、粒子があれ、表面が擦り切れた古いモノクロ・フィルムを編集したファウンド・フッテージの薄気味悪い恐怖と通底している。なお、試聴トラックの冒頭部分はとてもPC内蔵スピーカーでは再生できないようなかなり低い周波数の音で始まる。180枚限定CD-R。


Various Artists / Framework Seasonal Issue #2 spring 2012
Framework Editions Framework Seasonal 2
jd zazie,sala,james wyness,dave phillips,aymeric de tapol,anton mobin,camilla hannan,pali meursault,lasse-marc riek
試聴:http://www.frameworkradio.net/2012/04/371-2012-04-15/
 フィールドレコーディング作品のコンピレーション・シリーズで現在第6集までリリースされている(季刊)。シリーズの中には1960〜70年代頃のアマチュア録音サークルの作品とか、Chris Watsonによるボルネオ熱帯雨林の2時間半録りっ放し作品(DVDオーディオに収録)とか、ぶっ飛んだものがあるのだが、個人的にはこの第2集と第4集が面白い。何とベルリン・フィルの音合わせで幕を開け、樹々の軋みが轟き、風に吹かれながら代わり映えのない景色を眺めていたかと思うと、身体に直接サウンドの粒子を浴びて目が覚める。フィールドレコーディングが単に世界を客観的にとらえるだけのものならば、「場所/時間が変われば音が変わる」というだけのことだ。だから、フィールドレコーディング・アーティストたちは、熱帯雨林の奥深くや灼熱の砂漠、凍り付いた湖、鳥たちの楽園となった断崖絶壁へと通う。だが、そうした「秘境」ではない場所で録られたこれらの音は、耳の視点/視野の設定が「聴取」を大きく変容させてしまうことを明らかにしている。他人の耳に成り代わる仕掛け。「ドラえもん」的に言えば、かけると他人の眼差し得られるメガネとか。それゆえ、耳の視界の切り替わりによって、聴取は暴力的に押し広げられ、それが何の音かと詮索するのを断念して、音のテクスチャーやマティエールだけを享受するようになる。なお、次のページで各集の内容や録音時の資料写真等を見ることができる。
http://www.frameworkradio.net/seasonal/
 試聴トラックはこの盤に収録された以外の音源を含んでいるので注意のこと。


Laurent Jeanneau / Ethnic Minority Music of Southern China
Sublime Frequencies SF081
Laurent Jeanneau(recordings,images,production)
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=-HAA3Kh7M1M
 民族音楽の現地採集録音である本作を、ポップ・ミュージックとしてではなく、こちらの枠で取り扱うのは、Laurent Jeanneau(=Kink Gong)の耳の視線の強度が作品の成立に深く関わっているからにほかならない(それゆえアーティスト名として彼の名前を掲げた次第である)。彼は見通すことの叶わない交錯を、豊穣たる混沌をとらえる‥‥いや、彼の耳がそれに惹き付けられて離れないのだ。それゆえ、歌と伴奏、主旋律と副旋律、主唱と合いの手、演奏と背景ノイズといった、本来必要不可欠なヒエラルキーは未整理のまま放置され、音の立ち上がりもコブシも不揃いであることをむしろ善しとした結果、全体はカコフォニックなサウンドのテクスチャーとして浮かび上がる。そうした景色に耳を差し向ける感覚は、フォークロアに耳を傾けるよりも、密林に繁茂する虫や鳥の声、あるいは多孔質のサンゴ礁に打ち寄せる波が生み出す多種多様なノイズをスキャンする時に近い。エキゾティシズムは意識にすら上らず、彼はまるで不時着した宇宙人のように、対象にマイクロフォンを差し向ける。それゆえにこそ、すすり泣きを振り払って立ち上る甲高い声の羽ばたきや、複数の声の揃わぬ立ち上がりにぴりぴりと震える空気を聴くことができるのだ。
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ディスク・レヴュー | 22:57:45 | トラックバック(0) | コメント(0)
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