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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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2013年ポップ・ミュージック ディスク・レヴュー その3  Disk Review for Pop Music vol.3
 2013年ポップ・ミュージックのディスク・レヴュー3回目は、前回以降に聴いたヴォーカル作品からの10枚(あれ、増えてる)。昨年は果たせなかったクリスマス・イン・ソウル時の収穫物を含む。結局、女性ヴォーカルばかりだなー。明らかに偏ってます。



Han Hee Jung / Everyday Stranger
한희정 / 날마다 타인

Pastel Music PMCD9137
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=FIStlpMbdHI
   http://www.youtube.com/watch?v=lDHY8B0Ow6Q
 一歩先んじた弦を跳ね板として、声は何もない宙空に身を躍らせる。弦の響きは周囲を巡りながら決して彼女の足元を支えることはなく、彼女の声もまたアカペラの張り詰めた
緊張を失わない。「音響アシッド・フォーク・デュオ」とでも呼ぶべきBluedawn(*の音源を参照)の解散後、ハン・ヒジュンはソロで制作した3枚のアルバムは、それ以前の脆く張り詰めた繊細さを超えることはなかった。それらの作品は心地よく澄み切った早朝の大気の中にある。すでに陽は昇り、世界はいきいきとした色彩を取り戻している。だがBluedawnとは、白々と明けていく空の下で、すべてが青色に沈む瞬間ではなかったか。足元にはまだ虚ろな闇がたゆたっている。静まり返ったくすくす笑いを浮かべた本作のカヴァー・イラストは、彼女の虚無と向かい合う決意を示していよう。張り渡された細い綱を渡り、あるいは体幹を揺らし、輪郭をふと掻き消してみせる声の在り様は、確かに深い闇の奥を眼差している。
*http://www.youtube.com/watch?v=XOLBsTnG_Ts
 http://www.youtube.com/watch?v=3PQyAiBurf4


Kang A Sol / Vol.2
Mirrorball Music MBMC-0773
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=Dc_i2DP6VY8
   http://www.youtube.com/watch?v=pI_jtJd2mwk
   http://www.youtube.com/watch?v=Pp-U23KGcNQ
 ゆっくりと息の歩みを進めながら、帰り道の目印のパン屑のように間をおいて置かれていく声は、軽やかに透き通って、降りたての雪みたいに地面に着くまでに消えてしまい、ピアノやチェロの響きと溶け合って、すうっとした冷たい甘さだけを舌に残す。このゆるやかな呼吸が、音楽に耳を傾けるひとときを特別なものにしてくれる。削りたての鉛筆の、鼻の奥につんと来る芯の匂いと木の香り。ずっと忘れていた。


JUNEETJIM / Noche Primera
Traffix Music TRAFFIX0004330
Marion Cousin(vocals,charango,glockenspiel,percussions),Borja Flames(vocals,guitars,percussions),Igor Estrabol(clarinet,trumpet,flute,musical saw,glockenspiel,kalimba),Renaud Cousin(drums, percussions, accordion)
試聴:http://www.juneetjim.com
   http://elsurrecords.com/2013/11/13/june-et-jim-noche-primera-2/
 「初期フォンテーヌ&アレスキみたい」って言われたら「えっ、ウソ」って誰だって思うじゃない。もちろんあそこまで突き詰めた感じはないけど、でも雰囲気は確かにある。女性ヴォーカルの体温が低く低血圧な抑揚のなさ、男声ヴォーカルの気怠さと絡みの素っ気なさ、切れ端のようなメロディ、言葉遊び的なリフレイン、ギターの催眠的な繰り返し、中近東経由で北アフリカの砂漠へと遡っていくパーカッションの乾いたリズム、エキゾティックなトランペット、職人芸的な木管のアレンジ、そして唐突にやってくる曲の終わりの突き放した愛想なさ‥‥等々。これはよく出来てます。


Gisele De Santi / Vermelhos E Demais Matizes
Production Dessinee VSCD-9459
試聴:http://www.youtube.com/watch?v=o0o4fiLAFqU
 冒頭曲の立ち上がりからいきなり、アカペラでゆらりと声をくゆらせ響きを立ち上らせるヴォーカルの身のこなしのしなやかさに打たれる。そこはブラジリアン・ポップスだからメロディやコード進行のレヴェルが高いのは当然として、アープ・ストリングスにミニ・ムーグとヴィンテージ・シンセを使い分けた厚みのある暖色系配色の中でローズのエレピがとろけていく。2曲目のトランペットへの紗の掛け方、3曲目のギター弦への寄りとたなびくハモンド、5曲目の垂れ込めながらほぐれていく弦アレンジと、この着古したスウェードのようにしっとりと落ち着いた感覚は何なのだろう。彼女の声はそうしたこなれた響きを身にまといつつ、緩やかに部屋の奥へと歩みを進め、両開きの窓を開ける。アングルから小道具まで凝りに凝った短編映画(当然フィルム撮り)の手応え。ため息モノ。


Chico Saraiva, Susana Travassos / Tejo Tiete
Delira Musica DL570
試聴:https://soundcloud.com/tejotiete
   http://vimeo.com/41121819
 こちらはゆらりと立ち上るギター弦の響きにやられた。何でこう「ゆらり」に弱いかな。しっとりと舞い降りながら重さを感じさせないGisele De Santiに比して、Susana Travassosの声はコーヒー・カップの底に沈んだ砂糖みたいな重みをたたえ、やや錆を帯びて人生の苦みをはらんでいる。ちょうど炭火に燻されたリスボンの下町に響くファドのように。それゆえにこそギターのしなやかな美しさが光を放つことになる‥‥と書きかけて調べたら、女性歌手はホントにポルトガルの方なんですね。びっくりー。アンサンブルによりきらびやかな響きの織物を編み上げ、声のための褥を設えるポルトガル・ギターに対し、こちらのギターは単独潜行により声の核心へと迫る点で、同じポルトガル語文化圏における異種交配の幸福な結果がここにある。声とギターという最小限の組合せから生み出される尽きることのない豊かさ。


Oana Catalina Chitu / Divine
Asphalt Tango Records CD-ATR 3913
試聴:http://www.asphalt-tango.de/records/chitu/oana_catalina_chitu_divine.html
   http://www.youtube.com/watch?v=Bfmg1I5JJY8
 あちらが「しっとり」ならこちらは「どっしり、ずっしり」。雪で湿った布団の重さに金縛りに遭いそう。「ルーマニアのエディット・ピアフ」と呼ばれた名女性歌手Maria Tanase(1913−1963)のレパートリーをカヴァーしているのだが、声は黒い土の下から湧き上がり、ジプシー・ヴァイオリンは弓が狂ったように滑りまくり(さすがはジョルジェ・エネスクを生んだ国)、ツィンバロンが雨霰と鳴り渡って、アコーディオンもサキソフォンもスピード違反の上にうねうねと曲がりくねってとどまるところを知らない。凄腕アクロバティックかつ笑っちゃうほど大仰な大時代ぶり。完全に確信犯であることに頭が下がる(暗いところは思い詰めたようにメチャ鬱、明るいところはもうノーテンキに弾けまくっているし)。Maria本人の歌唱をyoutubeでチェックすると(※)、格調高いご尊顔にも関わらず、Oana Catalina Chitu以上にドスの効いた声で歌いのめしてくれている。この声でブレヒト・ソングとか聴きたかったなー。
※http://www.youtube.com/watch?v=79QVepeBrWA


YAYA / Cruel Picture
Mirrorball Music MBMC-0727
試聴:https://mirrorballmusic.bandcamp.com/album/cruel-picture
   http://www.youtube.com/watch?v=oXobUxA2rIc
 確信犯ではYAYA=夜夜も負けてはいない。かつて(『勝訴ストリップ』の頃)の椎名林檎のアングラ・アート(新宿系?)なりきりぶりを、さらにあざとく推し進め、行くところまで行っている。その辺はジャケット写真と試聴欄に掲げたyoutube動画だけで一目瞭然。これだけ明々白々にツクリモノなのもスゴイ。投げやりな声はキツめにイコライジングされっぱなしだし。鬱陶しいくらい分厚いストリングスや様々なSE(不可思議電子音やネコの声を含む)入れまくりの歪んだ悪夢系アレンジでタンゴにワルツだし。曲順の対比も気合い入りまくり凝りまくりで、演出から何から明らかに「過剰」。でもここまでやれば立派。60ページ以上もあるモノクロ写真満載のブックレット綴じ込みと装釘もスゴイ。


Various Artists / Longing for the Past
Dust to Digital DTD28
試聴:https://www.dust-digital.com/se-asia/
   https://dusttodigital.bandcamp.com/album/longing-for-the-past-the-78-rpm-era-in-southeast-asia
   http://elsurrecords.com/2013/10/11/v-a-longing-for-the-past-the-78-rpm-era-in-southeast-asia-2/
 すでに各所で話題のブツ。ヴェトナム、ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、シンガポールと東南アジア一帯で1905年から1966年までに録音されたSP音源等からコンパイルした90曲をCD4枚組に収め、貴重な写真やイラストレーションを収録した272ページの分厚い大判ブックレット(ハードカヴァーのもはや「本」!)を加えた大型カートン・ボックス・セット。再生音に耳を傾けていると、スクラッチ・ノイズや狭いレンジの向こうに当時の生々しい演奏空間を垣間見る一方で、そうした豊穣さから越え難い距離によりきっぱりと切断されている「いま・ここ」の心もとない寂しさも、同時にひしひしと感じずにはいられない。すでに失われてしまった過去への追憶に浸り込む悦楽は、そうした「引き裂かれ」の彼方に開けている。全編に立ち込める花の蜜に似た甘い香りは、おそらくそうした喪失感によって強められているのだろう。だが、過去とは必ずしもロマンティックに「消費」できるものばかりではない。以前にマレーシアで中国寺院を訪ねた時に、ずらりと並べられた何百という位牌に、ことごとく死者の顔写真が貼られている様に慄然としたことがあった。それは現世の名とは異なる戒名を刻み、巡る月日に法事を重ねて、次第に死者を記憶へと遠ざけ忘却せしめる抽象化のプロセスと対極にある。今もまだ生きている死者。だがそれにしても、写真同様、録音とはとんでもないテクノロジーだと、改めて驚かずにはいられない。ライヴでしか音楽を聴かないなんて果てしない馬鹿だとしか‥。

豪華ブックレットの表紙と中身


Various Artists / Jamaica Folk Trance Possession Roots of Rastafari 1939 - 1961
Fremeaux & Associes FA5384
試聴:http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=11273
 タイトルから「トランシー」な強迫性を求めると拍子抜けするかも。意外なほどのんびりとした牧歌的なサウンドは、それでも執拗な繰り返しやランダムな歓声をはらみ、トランスを誘うものであるし、実際その場でトランス/憑依に陥った者もいたかもしれない。実験映画『午後の網目』で知られるMaya Derenによるハイチのヴードゥー儀式の記録フィルム『The Divine Horsemen』(※)を見ても、とらえられたトランスの様子は衝撃的ではあるが、そこに流れる音楽は決して特異なものではなく、音楽だけが誘因ではないことをうかがわせる。むしろ、本作のライナーノーツが述べているように、ニューオーリンズのコンゴ広場でジャズの誕生に居合わせたような、音楽の「起源」を垣間見る感覚が重要だ。人が集まり、交感があって、声が響きが取り交わされ、リズムが重なって、日常から薄い膜一枚隔てられた特別な「場」をつくりだす。質量ともモンスターたる前掲作にはかなわないが、これだけ見れば充分に傑作。
※http://www.youtube.com/watch?v=pFKysfDdEwo


Earip / This evening, we began the long journey
이아립 / 이 밤, 우리들의 긴 여행이 시작되었네

試聴:http://www.youtube.com/watch?v=B8CooKwszy8
   http://www.youtube.com/watch?v=KkFjOuPowg4
   http://www.youtube.com/watch?v=lfHXooNF91E
 「耳元で囁きかけられるような」とは使い古された形容詞だが、水商売っ気のかけらもない牧歌的フォーク調の曲想だけに、そこに収まりきれない低音のふくらみに思わずぞくりとする。あくまでポップなロック・バンドのヴォーカリストだったSweaterや、以前に紹介したデュオHawaiiでのボサノヴァや子ども向け(?)コミック・ソングという枠組みが取り払われた分、声の生な身体が無防備に晒されている感がある。おっとりと育ちの良さを感じさせる息遣い、ゆったりとそよぐ声の色合い、ゆるやかにそぞろ歩く声の足取りは、その一方できっぱりとした芯の強さを隠そうとしない。‥‥などと言葉を連ねてみても、この魅力は伝えられないなーと無力感に打ちひしがれるばかり。小学校低学年で近所のキレイな大学生のお姉さんに初恋してしまった感覚か。だから個人的にツボというだけで、他の人は何も感じないかも‥とも思ったり。
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ディスク・レヴュー | 23:37:21 | トラックバック(0) | コメント(0)
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