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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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2013年ポップ・ミュージック ディスク・レヴュー その4  Disk Review for Pop Music 2013 vol.4
 2013年ポップ・ミュージック ディスク・レヴュー4回目はアンサンブル編。これで2013年のディスク・レヴューは終了し、音楽サイトmusicircusから依頼されている年間ベストの選定作業に入ります。どうぞお楽しみに。



A Hawk and a Hacksaw / You Have Already Gone to the Other World
L.M.Dupli-Cation
試聴:https://soundcloud.com/qu_junktions/a-hawk-and-a-hacksaw-you-have
   http://www.reconquista.biz/SHOP/LM5CD.html
 空間を揺すぶり震わせること。熱くたぎらせ、あるいは凍り付いたまま。金属質のかげが暗闇でうごめき、太鼓の皮が下腹を揺すぶり、めまぐるしく旋回するヴァイオリンが空気を撹拌して、声が幾重にも折り重なりぶつかりあう波となって襲いかかり、ツィバロムの細い弦の振動が破れ鐘のように轟いて空間を目映く沸き立たせる。発音体としての楽器/演奏者があちらにあり、聴き手がこちらにいて、両者を隔て音を伝えるための距離/媒体として空間が存在するのではなく、身体を取り巻く空気が突然に揺らめき崩れ叫び声を上げて、粒立ち湧き上がる。見通しの効く透明な空間の中に音が浮かぶのではなく、視界一杯に隙間無く鮮やかな色彩の音響壁画がそびえ立ち周囲を取り囲む。録音は明らかに明確な音像ではなく、輪郭が溶け出し滲んだ空間の様相をとらえようとしている。混沌をいや増すためにはエレクトロニクスの使用もためらわない徹底した確信犯。東欧の(西欧にとって)異国的な匂いを深々と放つ冷たく湿った暗闇は、ロマの幻像とひとつになって、西欧の築いた石組みの下にのぞく、禍々しい血が幾代にも渡って注がれてきた肥沃な黒土と、確かにつながっているように感じられる。


Geng Wak Long / The New Authentic Kelantanese Traditional Music of Malaysia Part 1
Makabo Entertainment GWL01
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/GWL01.html
 Record Shop "Reconquista"の「2013年のレコンキスタを象徴する50枚2」(*1)で、あるいは同店の店主である清水久靖が『Ulysses』で選ぶ「2013年のベスト・アルバム20」(*2)で、『マレーシア・クランタン州の伝統音楽集』と紹介されているのが本作。マレーシアというとタイやインドネシアに比べておとなしく地味な印象があり、その一方でヴェトナムの優美な王朝的洗練に対しては垢抜けないイメージで、その文化が注目を集めることはまだ少ないように思う。いままで3回観光で訪れたことがあり(いいところです。特に古都コタバル)、うち2回は1週間程滞在したから、この国の音楽は伝統音楽もポップ・ミュージックも多少知っているつもりでいたのだが、こうした作品が出てくる素地があるとは思わなかった。弦(rebab)や管(surnai)がアラブの薫りをふんだんに放ちながら曲がりくねった回廊を眼にも止まらぬ速さで駆け抜ければ、打楽器群はバリやジャワのガムランへと通じるアンサンブルにより、内部で多方向から錯綜/衝突しながらプラトーをかたちづくり(皮を張った筒状の太鼓と金属ゴングという対比により、打撃の衝突/反発/分裂/解離は決して構造的なものにとどまらず、身体に直接働きかけてくる強度を否応無く孕むことになる)、一方的な加速を抑制しつつ軋轢によって内圧を高めていく。声もまたインドのように高々と宙を舞うことなく、アンサンブルの表面を交錯するヴェクトルに刺し貫かれ、引き裂かれながら這い進む。合唱を構成する各声部の皮膚感覚的なぶつかりあいにも注目。いや驚かされた。タイトルに「New Authentic」と記されているのが興味深い。慣習的な伝統をそのままなぞるのではなく、その「場所」において、起源へと向けて作業仮説的に遡行し、伝統文化を形成してきた諸力を改めて見出して、それらの持てるポテンシャルを「いま」「ここ」で生々しく解き放つこと。それは本作品を教えてくれたRecord Shop "Reconquista"が掲げる「土着と洗練」にふさわしい振る舞いであり、「ヴァナキュラー」という概念の持つ可能性を見事に示すものと言えよう。
*1 http://www.reconquista.biz/SHOP/89093/t02/list2.html
*2 http://ulyssesmagazine.blogspot.jp/2014/01/2013203ulysses-choice-best-20-albums-of.html


The Cloisters / The Cloisters
Second Language SL019
Aine O'Dwyer(harp),Hanna Tuulikki(church harmonium),Daniel Merrill(viola),Aaron Martin(cello),Michu(Michael Tanner(mellotron,woodwinds,strings,field recordings ,victorian dulcimer)
試聴:http://www.secondlanguagemusic.com/SL019.html
 Mark Fry『I Lived in Trees』を稀に見る傑作たらしめていた理由のひとつは、DirectorsoundとMichael TannerによるThe A. Lordsによる創造的かつ献身的なサポートであることは疑いない。そのMichael TannerによるThe Cloisters名義での第1作。心細やかな音色が澄み切った空気に溶け広がっていく。指に弾かれた弦が震え、その振動が手元を離れて空間へと旅立ち、中空を渡って広がり、やがて聴く者の耳に届いて、そのまま溶けて消え去ってしまう。そうした一連のプロセスをじっと見守っていたい気分にさせる「気配感」が、ここには濃密に立ち込めている。それは控えめに配されたフィールドレコーディング素材や演奏時の物音についても当てはまる。朝もやの中から次第に姿を現す山々の連なりや、擦ったマッチの炎が束の間ぼうっと浮かび上がらせる袖口のほつれ、そうした眺めへの深く尽きることのない愛情がここにはある。


Plinth / Collected Machine Music
Time Released Sound TRS011
Michael Tanner(sources,reconstruction)
試聴:http://timereleasedsound.com/releases/plinth/
   http://iamplinth.bandcamp.com/album/collected-machine-music
 The Cloisters=Plinth=Michael Tannerということで、ここではヴィクトリア朝の音楽機械や蝋管録音等を収集し、その音色を再構成している。聴き慣れたオルゴールの響きだけでなく、バレル・オルガンのリードや管の鳴り、小型の鐘と思しき長く尾を引く透き通った余韻、時計の音、叩く音、ねじを巻く音、機械の動作音、蝋管録音のがさがさとした不鮮明な音像、シリンダーの回転音、大型オルゴールの深く華麗な音響‥‥と多彩なサウンドがモザイク状に精緻に組み立てられる。空間に刻まれる音の軌跡の冷ややかに切り立った彫りの深さに思わず耳が惹き付けられる。その時、耳は音楽機械の音の向こうに制作者・操作者の姿を見ているのだろうか(いずれにしても演奏者はいないのだから)。私には、誰もいない部屋に置かれたこれらの機械がひとりでに鳴り出し、そこにたまたま居合わせた、あるいはそこに迷い込んでしまったように感じられる。聴き手すら必要としない音楽。凍り付いたように永遠に完結した響き。通常版は200部限定で、これとは別に本物のオルゴールが付いたミュージック・ボックス仕様の高価な超豪華限定版70部もある。



Federico Durand / El Idioma de las Luciernagas
Desire Path Recordings Pathway007
Federico Durand(music box,acoustic guitar,Tubingen bells,tape-loops,walkman,minidisc,2880,DS,toy piano,field recordings)
試聴:http://federicodurand.bandcamp.com/album/el-idioma-de-las-luci-rnagas
 もう彼の手口は知り尽くしているはずなのに、どうしてもやられてしまう。彼の手にかかると、視覚は擦り切れたサイレントの8mm映像へと変貌し、聴覚はたどたどしくか細いオルゴールに姿を変えて、世界はと言えば、磨りガラスの向こうへと遠ざかり、動きを止めて、こちらを温かく見守っている。羊の首に吊るされたベル、小鳥のさえずり、遠くから渡ってくる微細なきらめき/ゆらめきが、ふうわりと空気と混じり合い、いつまでもいつまでも消えなずむ響きが、誰かがいた後の温もりのように残り続ける。LPジャケット裏面の太い毛糸で編み上げられた刺繍が素晴らしい。



Luis Perez / Ipan In Xiktli Metztli Mexico Magico Cosmico
Sacred Summits SS001
試聴:https://soundcloud.com/sacred-summits/sets/ss001-luis-perez-ipan-in
 笛の音が風にたなびき、太鼓が森に鳴り響き、電子音が砂漠を駆け抜けて、ベースが地の底を揺り動かす。音はみな手元に留まることなく、放たれた瞬間に遠く彼方へと逃れ去ってしまう(カサカサ、カタカタというちっぽけな物音すら、蜘蛛の子を散らすようにあっというまに走り去る)。サイケデリックとは内面への沈潜、閉ざされた密室への引きこもりであり、出口なく堆積し混濁/変容した濃密さであるとするならば、この開け切った空間は決してサイケデリックとは言えまい。アミニスティックな地の精霊たちとの交感のための音響遊戯。音だけを頼りに眼差しは底の知れない闇を見詰め続ける。1981年作品のLP再発。500枚限定。もしかするとジャケットの配色のヴァリエーションがあるかも。


Natural Snow Building / Daughter of Darkness
Ba Da Bing Bing088CD
Mehdi Ameziane,Solange Gularte
試聴:http://www.meditations.jp/index.php?main_page=product_music_info&products_id=12880
 エレクトリック・ギターの果てしないフィードバック、虚ろなヴォイスの敷き重ね、衝動的な打楽器の連打等が、過入力に歪みひび割れて、過剰なエフェクトに輪郭が溶け出して見分け難くひとつになり、出口なしに延々と続く暗黒ドローン。通常のドローン作家たちが、どこか突き放した冷静な距離から音響マテリアルを取り扱っている(それゆえに安心して浸れる)のに対し、彼/彼女たちはずぶずぶに情緒(不安定)的で、その奥底深くに耽溺を誘う麻薬的な甘美さを秘めている。それゆえポップ・ミュージックに位置づけた次第。なぜこうなったかきちんと説明できる「現代音楽」よりもむしろはるかに危険かつ取り扱い注意。だが、本来ポップ・ミュージックとはそのようなものではなかったか。「試聴」欄に掲げたMeditationによる評「楽園に続く巨大な門」とは言い得て妙。あまり奥へと入り込まないよう注意されたい。2009年にカセット・テープ5本組150部限定でリリースされた作品に、同年に発表された続編を加え、CD6枚組ボックスで再発するという輝かしい暴挙。500部限定。なお、カヴァーは手描きのため幾つものヴァリエーションがある。以前に紹介したTwinsistermoonは本デュオの片割れMehdi Amezianeのソロ・プロジェクト名義。
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ディスク・レヴュー | 23:52:34 | トラックバック(0) | コメント(0)
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