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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2014年1〜5月 その3  Disk Review Jan. - May 2014 vol.3
 先日の「タダマス14」のレヴューで「体調不良」とした益子は、何と当日朝に脱水症を起こしていたとのことで、大事に至らず本当に良かった。これからますます暑さが厳しくなる折、皆様くれぐれも体調管理にはご注意ください。
 さて、ディスク・レヴューの第3回は、フィールドレコーディングやこれを素材としたミュジーク・コンクレート的なコンポジションを対象とした。本来なら6月中に脱稿しなければならないところが延び延びになってしまったことを、まずお詫びしたい。実はその後の6〜7月のリリース状況の充実度が半端なく、すでにレヴュー待ちのディスクが山積みとなっていて、とりあえず遅れに遅れていたこの回を何とか仕上げた次第。
 ちなみに、私がフィールドレコーディング、ドローン、アンビエント等と総称される音楽を本格的に聴き始めたのは2010年からなのだが、最近、中古盤渉猟を含め、いろいろ聴き進める中で、それ以前にも聴くべき作品は多く、作家によっては最近のリリースよりはるかに高水準ではないかと思われる作品も見受けられる。こうした作品についても、いずれ機会を設けてご紹介したいと考えている。
 また、ポップ・ミュージック編も、エスニック・ミュージック系の復刻/発掘録音が大量にリリースされ、やはりディスク山積み状態となっており、こちらも近日中になんとかしたい(と考えてはいるのだが‥‥)。


Dave Phillips / At the Heart of it All
Ruido Latino Ruido Horrible rh089 / RL01
Dave Phillips(fieldrecording)
試聴:http://www.davephillips.ch/discog/dp-athoia
 最初、Dave Phillipsって二人いるとばかり思っていた。試聴ファイルで垣間見たFear of God等で聴かれるノイジーな絶叫の詰まったエクストリーム・ミュージックと自然の音風景に耳を澄ますフィールドレコーディング作品の感触は、当然まったくの別物だったので。しかし、こうしてエクアドル・アマゾンの熱帯雨林の耳を圧し身体を縛り上げる音響に包まれていると、ハーシュなエレクトロニクスをズタズタに切り刻み、崩壊した精神の垂れ流すモノローグをトリートメントし、凍てついた鋼製のピアノ線の震えに魂を奪われる彼が、ジャングルの奥深い暗闇を見詰め続ける理由がわかる気がする。容赦なく惹き付けられた耳の視線がオールオーヴァーな広がりにあてどもなくさまよううち、虫や鳥の声、猿の遠吠え、凄まじい雨音の密集に何度も襲いかかられ、身体の奥深くまで侵入される。耳障りな蠅の羽音を合図に、密林に漂う濃密な倍音の霧が電子音としか思えない持続として浮かび上がる。操作はイコライズやレイヤーの重ね合わせしかしていないというから、これは音響の相互干渉によるものなのだろう。「昼」と「夜」にトラックを分けた編集は、以前にレヴューしたDavis Velez / Simon Whetham『Yoi』(Unfathomless)を思わせるが、ここに物語的想像力は薬にしたくもない。なお、本作は2013年の作品だが、かつての『Field Recordings』(2007)や『Ghi Am Viet Nam』(2010)に比べ、より「引き」の視角によるオールオーヴァーかつヘテロトピックな音景の提示へと傾いていることを指摘しておきたい。
 補足として、彼のエクストリームな側面については、例えば次を参照のこと。ディスコグラフィのページに並べられたジャケット・デザインの「行っちゃった感」も凄まじい。
 http://www.davephillips.ch/discog/dp-acoh
 http://www.davephillips.ch/discography


Francisco Lopez / Hyper-Rainforest The Epoche Collection-vol.1
No Label (Self Published)
Francisco Lopez(fieldrecordings)
試聴:http://www.art-into-life.com/product/4704
 もともとは2011年に85本のスビーカーを駆使して暗闇で行われたサウンド・インスタレーション/パフォーマンスであるという。音源には20年以上に渡る中南米をはじめ世界各地の熱帯雨林でのフィールドレコーディングが素材として用いられている。耳の視点が定まらず当てもなくさまよわざるを得ないオールオーヴァーな多焦点的音場構築(対象に肉薄して止まないDave Phillipsと比べてみること)は彼ならではのものだが、歴史的名作『La Selva』と比べると、こちらの方がより圧縮されわかりやすく場面が移り変わる。まとわりつく蠅の羽音、たちこめる虫の声、遠くの水音が跳ねる水しぶきへと拡大される。急に濃密さを増し視界を閉ざす雨音、雨粒が樹々を打ちすえ滴る響き、遠い雷鳴、蛙の合唱、鳴き交わす鳥の群れ、それらの鳴き声の重層がもたらすほとんど電子的な交響、充満/飽和と突然の転換。こうした展開はおそらく85本のスピーカーから各々放出されるべき音響を、ステレオの2チャンネルにとりまとめる際に要請されたものではないだろうか。とすれば、本作はインスタレーション空間をしかるべき速度と軌跡で移動した耳の疑似体験とでも言うべきものにほかなるまい。
 ちなみに、次のURLでインスタレーション設営の様子を動画で見ることができる。
 http://vimeo.com/22841389


Philip Sulidae / History of Violence
Unfathomless U19
Philip Sulidae(fieldrecordings,processing,editing)
試聴:http://unfathomless.wordpress.com/releases/u19-philip-sulidae/
 素材となる音源が録音されたベラングロ州の森林はかつて連続殺人の舞台となったと言う。タイトルはそのことを踏まえて付けられているが、それらしき音が付加されているわけではない。むしろ森林は不自然なほどに静まり返り、耳慣れた鳥や虫の声も、せせらぎも雨音も葉擦れも聴こえない。耳鳴りにも似た甲高い響きが、森の奥を見詰めるこちらを見返している。そうした電子音と聴き紛う音響の構築は、だが自在さに任せて飛び回るかつての電子音楽のマナーに、僅かばかりも従おうとはしない(Tarab『Strata』Unfathomless U19と比べてみること)。真っ白なキャンヴァス=抽象空間をグラフィックに埋め尽くしていく代わりに、採集した土壌を水に溶かし、ふるいにかけて骨のかけらや特徴的な植物の種子を探すように、顕微鏡的な視線による走査がこの森に潜む地の精霊を音響的特質としてあぶり出していく。最後のトラックでこらえきれず、ふと物語的な物音が忍び込み、劇的な高揚をもたらしかけるが、それでも森の奥に向けてまっすぐ据えられた視線の静謐な強度は、いささかも揺らぐことはない。


Gianluca Becuzzi / (b)haunted
Silentes Minimal Editions sme 1362
Gianluca Becuzzi(composed,produced,mastered)
試聴:http://store.silentes.it/catalogue/sme1362.htm
 以前にFablo Orsiとの共作によるAlan Romax音源を素材とした生々しいコンクレートを採りあげたBecuzziだが、ここでは彼本来のオブセッションにつきまとわれた、出口のない悪夢を思わせる暗黒音響絵巻が展開される。ソナーにも似た甲高い響きの探索、どこまでも空気を揺るがせて波紋を広げていくバスドラムの鳴り、突如として出現する民族打楽器群の連打、下腹部にのしかかる低音から耳を傷つける高音まで全ての音域に渡って重層する金属的軋み‥‥。ありとあらゆる強迫的音響を駆使しながら、彼は決して空間を埋め尽くさない。また素早い場面の交替も用いない。広大な空間をゆるやかに渡って足元に忍び寄り、あるいはゴシック聖堂にも似た崇高な垂直的空間を照らし出す重厚な響きが、常に細部をことごとく明らかにする凝視の相のもとに展開される。この彫啄された「遅さ」に映える壮大な空間こそが、人間の精神を縛り上げ打ちのめす恐怖の源泉なのだと、彼は知り尽くしているのだ。Dave Phillipsの生理学的侵食と対を成す建築的重圧。


Edu Comelles / A Country Falling Apart
audiotalaia 004
Edu Comelles(fieldrecording,editing,mixing),Eva Fauste(additional sound performance on only one tune)
試聴:http://shop.audiotalaia.net/album/atp004-a-country-falling-apart
 大学の教室で引き回される椅子と床の軋みにしろ、放置された狐の死骸にたかる無数の蠅の羽音にしろ、がらんとした部屋に鳴り渡る物音にしろ、急カーヴを曲がるトラムの車両と線路の軋轢にしろ、付された解説を見るまでは判然とせず、そしてそうした説明を施されてからも、そこにたなびく音響は安定した輪郭あるいはパースペクティヴに収まることなく、解け流れ出て拡散し、空間の呼吸へと沁み込んでいく。その時に立ち現れてくるのは、無数のクラリネットが織り成す無重力的アンサンブルにも似た震え/ざわめきであり、それは「演奏」や「構成」によってつくりだされたと言うより、その空間に特有のアコースティックな本質が、長い年月をかけて積み重ねられた古い地層の如く露呈してきたように感じられる。「ものみな響きへと還る」とでも言うべき無常観がそこには色濃く影を落としており、Edu Comellesが自国スペインを表象したタイトルへと結びつけられる。フィールドレコーディング素材のみを活用したコンポジションが、音風景を経由することなく、シンボリックなイメージに漂着するとは、考えてみれば不思議なことだ。


Felix Gebhard / Im Merzbau
Analogpath 016
Felix Gebhard(composed,performed,recorded)
試聴:http://pathanalog.blogspot.jp/2013/10/im-merzbau-felix-gebhard-soon.html
 耳を覆っていた手を離した瞬間、眼の前にふと新たな視界が開けたと思うと、大量の音が渦を巻きながら押し寄せ流れ込んで、世界は混濁し、とっ散らかって、一向に像を結ばないどころか、視点も定まらず、身体の置き場もなく、当然パースペクティヴも構築できず、視界は露出過多の白い影の揺らめき以上のものとはなり得ない。そんな瞬間が幾度と鳴く繰り返される。深々としたギター・ドローン、あるいはギターの爪弾きに伴われた船上からのサウンドスケープといった安定した構図が束の間訪れることがあっても、常にそこには腐食と崩壊のエントロピー力学が作動し続けている。


Lost Trail / Holy Ring of Chalk
Wounded Wolf Press wound15
Zachary Corsa & Denny Corsa(acoustic guitar,banjo,thumb piano,percussion,toy synth,short wave radio,objects,found-sound tapes,fieldrecordings,samples)
試聴:http://losttraildrone.bandcamp.com/album/holy-ring-of-chalk
 見通しの効かない混濁した耳の視界に、何物か定かではない様々な音の断片が浮き沈みし、あるいは影を落とす。ラジオから採られたのだろうか、淡々とした語りが不明瞭に変調され、虚ろに響く。まるでずっと屋根裏部屋にしまわれたきりになっていた蝋管録音の再生音のように、すりきれ、風化して、真綿のように厚いヒスノイズと輪郭の薄らいだ記憶の向こうへとゆっくり遠ざかっていく。甘やかな喪失の痛みとともに。何気ない日常の片隅でふと生じる心霊現象じみた一瞬の幻覚(それはすぐに脳の中枢によって抑圧されてしまうのだが)を丹念に拾い集め、綴じ合わせたようなあり得ない不思議さが魅力。夫婦デュオと言われて何となく納得するところがある。癒し系のエキゾチック・アンビエンスが多いこのレーベルでは明らかに異色作。
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ディスク・レヴュー | 22:18:48 | トラックバック(0) | コメント(0)
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