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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ディスク・レヴュー 2014年1〜6月ポップ・ミュージック編その1  Disk Review for Pop Music Jan. - June, 2014 vol.1
 遅ればせながらの今年上半期ポップ・ミュージックからのディスク・レヴュー。エスニック・ミュージック系の充実度が凄く、そちらを第2部に回して、それ以外の作品による第1部をまずはお届けしたい。インプロヴィゼーションやアンビエント、サウンド・アート等の要素を含んでいる作品もあるが、そちらのディスク・レヴュー枠に収めるよりも、ポッブ・ミュージックとして取り扱う方がよりその作品にふさわしく輝かすことができるのではないかと考えた結果である。ご了解をいただければありがたい。


Benedicte Maurseth, Asne Valland Nordli / Over Tones
ECM 2315
Benedicte Maurseth(hardanger,fiddle,voice),Asne Valland Nordli(voice)
試聴:http://player.ecmrecords.com/maurseth--nordli--over-tones
   https://www.youtube.com/watch?v=oQs5hk5cwNA
 ふうわりと舞い降りた細い細い天蚕糸が、仰ぎ見るなか空間を横切り、ぴんと張り詰め縦横に張り巡らされていく。そこに粉雪が降り積もるように降り立つ声もまた、ふうわりと重みを感じさせない柔らかさのうちに、ぴんと揺るぎなく張り詰めた芯を持っている。遥か高みから、いや肩を並べていてさえ、地の果てまで透かし見る声の遠い眼差し。重なり合う樹々の黒い裸の枝を射通し突き抜けて、彼方へと渡っていく声の響き。Asne Valland(Nordli)『den Ljose Dagen』(Kirkelig Kulturverksted)は密かな愛聴盤で、しんと静まり返った礼拝堂の垂直の空間に響き渡る声の、どこか少女っぽい青い固さにぞくぞくとしていたが、ここでの彼女の声はまろやかに熟成して、hardangerの蜘蛛の巣のように繊細な響きを、ゆったりと浸し包み込む。広大な空間のこことあそこに立って音を放つ二人のちっぽけな姿とは別に、たちのぼる響きは香るように広がって、空気を透き通った色合いに染め上げていく。それは壁面に大きく映し出された彼女たちの影が、本体を離れて繰り広げる苛烈な戦闘でもある(あまりにも静かな佇まいに、同じ一本の弦の上での振動のせめぎあい、放たれた微細な音の粒子の衝突の激しさ、そうした衝撃が波紋となって広がる様子を見逃してはならない)。


Eleni Karaindrou / Medea
ECM 2376
試聴:http://player.ecmrecords.com/eleni-karaindrou--medea/music
 巨匠テオ・アンゲロブロスとの共同作業終了後も、彼女は決して歩みを止めることがない。今回の題材はエウリピデス。劇団Ancient Theatre of Epidaurusにより、円形劇場で上演される演劇作品のための音楽。かつてのオーケストラ中心の作風を離れ、ここでは盟友Sokratis Sinopoulos(constantinople luth,lyra)をはじめ小編成の民族楽器アンサンブルと女声合唱、そして自身の歌唱により音楽をつくりあげている。中低域のふくよかな持続音の使い方、簡素な繰り返しの多用等の手法は共通してみられるものの、音はますます削り込まれ、一音一音が慈しむべき貴重なものとなり、同時に一弓、一息で広大な空間を支え、時の流れを揺り動かす圧倒的な力を秘めたものとされる。息遣いのゆったりとした歩み、腰をぐっと落とした中腰の構え、フレーズを織り成すに至らず楔形文字にも似た痕跡を刻み付けるだけの撥弦楽器。間を存分に空けて金属的な響きを鳴り渡らせる打楽器。ネイの掠れた息やサントゥールの粒立ちの運んでくるむせかえるような香り。ゆったりとどこまでも引き伸ばされ、しまいにはあえなく気化してしまう管の調べ。どこかこの世のものとは思われない音世界の中で、少女の恨みにも似た合唱が和讃のように響き渡る。寺山修司がこれを聴いたら何と言うだろう。


Edmondo Romano / Sonno Eliso
Dischi dell'Espleta ESP030
Edmondo Romano(sax,clarinet,duduk,whistle),Mario Arcari(oboe),Alessio Pisani(basoon,contrabasoon),Roberto Piga(violin,viola),Kim Schiffo(cello),Fabio Vernizzi(piano),Riccardo Barbera(doble bass),Ares Tavolazzi(double bass),Marco Fadda(percussion),Elias Nardi(oud),Daniele Bicego(horn),Luca Montagliani(accordion)
試聴:http://www.amazon.co.jp/Sonno-Eliso-Edmondo-Romano/dp/B00BZUON52
   https://www.youtube.com/watch?v=5ovdrZ0xAl4
 南仏やスペイン、イタリアから北アフリカに至る南北の軸線と、スペインはカタロニアからギリシャやバルカン諸国を経てトルコやアラブ諸国に抜けていく東西の軸線。文化の網の目である地中海をそうした直行する軸線に基づいて漏れなくスキャンし、自在なモザイクを組み上げたミュージシャンとして、たとえばLouis Sclavisの名前を挙げることができるだろう。本作をつくりあげたEdmondo Romanoもまた、そうした系譜に連なるミュージシャンだ。バス・クラリネットによる超絶技巧の探求をはじめ、ソロの空間を優先したSclavisに対し、Romanoはむしろアンサンブルを重視し、そのための作編曲に贅を凝らす。異国の香料の強い匂いを放つ管の調べは、鋭い切れ味を見せながらも回廊をまっしぐらに駆け抜ける代わりに、管弦が溶け合い重なり合った褥にゆるりと身を横たえ、水ギセルをくゆらす。色とりどりの複数の線がゆるやかに絡まりつつ、四方八方へと枝を伸ばし、リズムが細やかに切り替わり(打楽器奏者の貢献度は極めて高い)、風景がゆっくりと巡りながら移り変わる仕方は、平原を走る列車からの眺めを思わせる。旧き佳き時代の記憶。この情景喚起力の素晴らしさは特筆ものだ。Mario Arcari(Gruppo Folk Internazionale), Ares Tavolazzi(Area!!!)など、参加メンバーには思わず「おっ」と眼を見張る名前も。2011年作品とちょっと古いが、その素晴らしさゆえにあえて採りあげることとした。


Sawako / Nu. It
Baskaru karu:32
sawako(composed)
試聴:http://www.baskaru.com/karu32.htm
   https://www.youtube.com/watch?v=65iaHbmU4hw
 微粒子となって空気に溶けていくピアノ。断続的に現れる透明な電子音。ピッ・ポッ・パッと指先と戯れるオモチャな音。ある音はオーケストラのストリングスを模し、ある音は虫や鳥、獣の声を擬態する。透明なガラスで仕切られた完全空調の人口楽園。その中心部では涼しく透き通った響きが、滾々と尽きることなく湧き出し続けている。腐食も風化もせず、永遠に変わることのない形態を保ち続けるであろう不滅の「理想郷」に、それでも禍々しい滅びの種を仕込まずにはいられないのは、アーティストとしての性や業なのだろうか。3曲目「nostal noz」に入り込み底の方から世界を侵食していく不吉な物音、6曲目「piano cote」に聴かれる輪郭の焦点を結ばない不穏な震え、8曲目「mind ight」の剥き出しになったカラクリ仕掛け、終曲9曲目でいよいよ明らかとなる滅びの予感。元の綴りの一部が欠け落ちて符丁/記号へと化す曲題。造物主として精緻な音世界をつくりあげるだけでなく、その行く末を見守り、最期を看取る彼女の物静かな眼差しが、佇まいとして、あるいは手触りとして、作品のそこかしこにいつも感じられる。


津田貴司 / 湿度計
PNdb-atelier
Takashi Tsuda(soundscape recorded,soundproccesed,mixed)
試聴:https://soundcloud.com/tsuda-takashi/hoflicd12
 やはり本作を採りあげないわけにはいかない。もともとは益子STARNETの店内で流される音楽としてSTARNET MUZIKからリリースされた作品で、品切れとなっていたものを、今回、津田が自らリイシューした。津田は他のSTARNET MUZIK作品にも録音等で関わっており、シリーズの性格をヒーリング・ミュージックやニューエイジ的な部分もあるが、本来は「益子の風土に根差した音楽」を目指したものと語っている。本作品も小鳥の声や水音、オルゴール音等の音素材にのみ眼を向けるならば、「(濾過された耳触りではない)心地よい音の集合」ととらえられてしまいかねない危うさがある。しかし、音に身を浸し、その肌触りに耳を澄ますならば、「益子」というかけがえのない場所、そこで繰り広げられる里山のある暮らし、そのスケッチとしてのフィールドレコーディングがまずあり、これらそのままでは部分的にとらえられた断片に過ぎない音素材に対し、津田自身の身体体験/記憶の層をくぐらせることにより、夢や思い出のように確かな手触りを与えるべく編集・加工したのが本作ということになる。だから彼がしているのは、照明を工夫したり、拡大鏡を向けたり、フロッタージュを施したりして、すでにある肌理や凹凸、各部の差異やコントラスト等を浮かび上がらせることであって、後から付け加えた音響や演奏を聴かせることではない。後の『雑木林と流星群』で存分に発揮される掌編小説家的な想像力も、本作ではまだ禁欲的に封印されており、そのような慎ましさもここでは好ましい。


Yozoh /나의 쓸모
Mirrorball Music MBMC0713
試聴:http://www.msbsound.com/album/요조-yozoh-나의-쓸모/
 Yozohと言えば、明るく弾け風にそよぐ韓国インディーズ・ポップのエコ・グリーンなアイドルだったはずだが、本作ではがらりと肌合いが変わっている。低体温・低血圧な声が淡々となだらかな旋律を歩み、冷えきったピアノの打鍵が暗く肌寒い空間をぴりりと引き絞って、途中から現れたエレクトリック・ギターの不定形な歪みの流動が、すべてを水没させ押し流してしまう。モノクロームでタイトな、時としてとてつもないヘヴィさを露わにするバックの演奏に対し、彼女の声は決して浮かれることなく、どこまでも淡々とした無彩色な歩みを崩さぬまま、暗く深い水の中を進んでいく。サウンドの苛烈にして緻密なせめぎ合いのただ中に突き落とすことにより、彼女の声のたとえ押し殺しても放たれてしまう香り高さを解き放つ試み。この変化は昨年のベスト30に選んだHan Heejung『Everyday Stranger』と美しい相似を描いている(そのことを指摘する英文評がウェブ上にアップされていた※)。Yozohの場合、magicstrawberry soundへのレーベル移籍が大きいようだ。他のレーベル所属アーティストにも注目のこと。2013年作品。
※http://www.koreanindie.com/2013/07/29/yozoh-요조-나의-쓸모/


Hee Young / Sleepless Night
Pastel Music BRCD9140
Hee Young(vo,g,key),Alex De Turk(dr),Gabriel Rattiner(vo,g,b,dr),Kenji Shinagawa(el- g,banjo,mandolin),Merdith Godreau(vo),Raymond Sicam Ⅲ(vc),Saul Simon McWilliams(vo,b,per)
試聴:http://heeyoung.bandcamp.com/album/sleepless-night
   http://vimeo.com/80046266
 搔き鳴らされるギターをチェロの弓弾きが横切り巻き込んで、柔らかく積み上げられた藁の山をつくりだし、そこに彼女の可憐な声が舞い降りる。乾いた空気がミクロな音の表情を鮮やかに浮かび上がらせる。酒場の端唄の暗さをはらんで、声がコケティッシュさを増しながらもたれかかってくる場合でも、声の芯は凛と勁く、バックのアンサンブルもまた、ギター、バンジョー、チェロ等を中心とし、音の隙間をくっきりと保った繊細でアコースティックなものでありながら(ドラムが入る場面は少ない)、腰の座った演奏をしている。ジャケットを飾るモノクロームに荒れ果てた庭園のどこまでも克明に写しとられた写真が示すように、この作品の底流には英国〜米国的なゴシック趣味が流れている(歌詞はすべて英語。録音もNYとLAで行われた)。
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ディスク・レヴュー | 22:44:09 | トラックバック(0) | コメント(0)
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