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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ケニー・ウィーラー安らかに眠れ、喜び溢れる騒々しさとともに  Kenny Wheeler RIP, with Joyful Noise
 FacebookでKenny Wheelerの死去を知った。追悼の書き込みで掲げられているNorma Winstoneとの共演作品(*0)を聴きながら、彼の名前を身近に感じつつも、実際にはほとんど聴いていなかったことに改めて気づかされ、思わず愕然とする。
*0 https://www.youtube.com/watch?v=a30DykabjQg
 代表作として挙げられるECMの諸作品、例えば『Gnu High』も『Music for Large and Small Ensemble』も手元にない。『Song for Someone』(1973)はずっと探していて、psi recordsからCD化された際にようやく手に入れたのだが、ビッグバンドによるそのサウンドは、初期Incusのラインナップにおよそふさわしくなく、びっくりした。と同時にトランペットのアンサンブルが高く突き抜けて、雲が晴れ空が高さを増していよいよ澄み渡っていく見通しのよい「都会的ジャズ・サウンド」に、いささかアレルギーがあることを知ることにもなった。また彼はGlove Unity Orchestraにも参加していて(初作と言うべきAlexander von Schlippenbach『Glove Unity』には不参加)、好きな『Jahrmarkt/Local Fair』や『Compositions』にも入っているのだが、どうも印象が明確な像を結ばない。


 彼はカナダ生まれだが、音楽活動は渡英後に花開いたと言ってよい。英国ジャズはフリー系に偏るとは言いながら結構聴いてきたから、「ファースト・コール」ミュージシャンであるWheelerの演奏を何度も耳にしているはずなのになぜだろう。そう思ってレコード棚を漁ってみると、愛聴盤でトランペット・セクションを務めているのが、たとえばHarry Beckettであり、Henry Lowtherであることがわかる。Keith Tippett周辺では、これにさらにMarc Charigが加わる。たとえばNeil Ardley『A Symphony of Amaranths』(1971)ではまさに先の二人+αであり、甲高く舞い上がるトランペットの響きを柔らかな弦アンサンブルが押しとどめ、ハープやヴィブラフォンのきらめきへと譲り渡す。Incus初期の名盤であり、Barry Guy主導の大編成によるThe London Jazz Composers Orchestra『Ode』では、Harry Beckett, Marc CharigにDave Holdsworthが加わる。The Blue Notes, Chris McGregor's Brotherhood of Breath, Keith Tippett's Ark等も、先に挙げた名前にMongezi Fezaを加えれば、ほぼカヴァーできる。Mike Westbrookの初期作品はDave Holdsworthが中心で、より大編成の『Marching Song』や『Mtropolis』にはWheelerの名前が見えるのだが、これはまさにWestbrookによるサウンド・ペインティングのマチエールとして、耳をつんざく、あるいは冷え冷えと明けていくソノリティの一部をかたちづくる‥という印象にとどまる。


 オーケストラ/ビッグバンドは先に述べたように苦手意識があるからさて措くとしても、WheelerとWinstoneのように、トランペットとヴォイスの絡みについてはどうだろうか。真っ先に思い浮かぶのは、Robert Wyatt『Rock Bottom』に収められた「Little Red Riding Hood Hit the Road」(*1)におけるMongezi Fezaのトランペットの、外で遊ぶ子どもたちの歓声が乱反射したような瑞々しさと壊れやすさであり、続いてはJulie Tippetts『Sunset Glow』の表題曲(*2)や「Mind of a Child」(*3)等における、Marc Charigの垂れ込めた曇り空をゆっくりとかき混ぜていくような動きだろうか。いずれも突き抜けず、澄み渡らず、声が脱ぎ捨てられずにいる身体の重さを置き去りにして幾何学世界の抽象性へと飛翔してしまうことがない、「煮え切らない優しさ」が私には好ましい。それはJim O'Rourkeがこよなく愛するMark Hollisの伝説的なソロ・アルバムの2曲目『Watershed』(*4)において、闇に沁み込むように消え入る声に置き去りにされ、周囲のざわめきに肌を総毛立たせ震えている身体を、暖かく包み込み抱きとめるHenry Lowtherの落ち着いた息の流れ(おぼろに崩れ気配と化して、痕跡すら残さずに霧散霧消してしまう木管群と比べてみること)にも通じているように感じられる。

*1 https://www.youtube.com/watch?v=a2TUb51oukc
*2 https://www.youtube.com/watch?v=i9752fyJBxU&list=PLE5117B2F6A580913&index=2
*3 https://www.youtube.com/watch?v=i9viNcsvNR4&index=3&list=PLE5117B2F6A580913
*4 https://www.youtube.com/watch?v=Uw0rzonn8qA

 結局のところ、私の最も聴き親しんだWheelerとは、Spontaneous Music Ensemble『Karyobin』で繰り広げられるグループ・インプロヴィゼーション(*5)において、John Stevensがシンバルとスネアがばらばらな物音として散乱させ、Dave Hollandのベースが遠くを通り過ぎる中、身体の重さや息の温もりを全く感じさせない抽象的なフレーズの断片を、Evan Parkerと共にちぎれ雲の如くに浮遊飛翔させる彼なのだろうか。Wheelerのどこまでも端正で乱れることのない息遣いと瞬間的な流動化能力は、マイルス五重奏団の響きだけを取り出して極限まで抽象化し、さらに滅菌処理まで施したようなスーパー・クールな幾何学的構築に大きく貢献している。もちろん、エレクトリックな変形能力を駆使して、不定形な音色の斑紋をそこかしこに浮かべることにより、抽象的な断片を自在に結びつけあるいは切り離すDerek Baileyのメディウムとしての働きを無視する訳にはいかないが。

*5 https://www.youtube.com/watch?v=DMqq5YTC1Uk

 ‥とここまで書いてきて、ふとLuis Moholo Octet『Spirits Rejoice !』のことを思い出す。果たしてWheelerはそこにいた。とりわけ亡きMongezi Fezaの作曲作品「You ain't gonna know me 'cos you think you know me」(*6) のFezaの思い出へと捧げられた演奏で、アフリカ的なバネの効いたリズムに乗り、Nick EvansとRadu Malfattiという何とも豪華なブラス・セクション共に吹き鳴らす彼には、まるでFezaの魂が憑依したかのようにあからさまなまでに喜びと哀しみに満ちており、いつもと異なる想いが感じられるように思う。繰り返し繰り返し螺旋を巡りながら次第に高揚していくアンサンブルは、様々な感情を内包したまま、一切を捨象することなく混濁したままに昇り詰めていく。最後の繰り返しの後、感極まって吹き鳴らされる口笛にも似たハイ・ノートに、彼のまた別の一面を見る思いがする。

*6 https://www.youtube.com/watch?v=CJlP7nX_qtY

 晩年にはRoyal Academy of Music(RAM)にも関わっていたようだから、さぞストレスも多かったのだろう。ちなみにRAMで今年4月まで開催されていたKenny Wheeler展のタイトルは『Master of Melancholy Chaos』だという。あんまりではないかと思いつつ、Caroline Forbesの撮影したポートレイトを眺めると、なるほどデューラーの版画に出てくる土星生まれの胆汁質のような顔をしている。しかし、だからこそ、浮き世のしがらみから解き放たれたいま、こうした喜悦に満ちた音を吹き鳴らしてほしいと、そう願わずにはいられない。この願いをもって、彼への追悼の意に代えることとしたい。Kenneth Vincent John Wheeler(14 Jan.1930 - 18 Sep.2014)安らかに眠れ、喜びあふれる騒々しさとともに。
Kenny肖像
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音楽情報 | 22:58:38 | トラックバック(0) | コメント(0)
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