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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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スティルライフ『夜のカタログ』発売!  stilllife "The Night Catalog" on Sale !
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 本日12月3日、スティルライフ初のフル・レングスCD『夜のカタログ』が発売となりました。ライナーノーツを執筆させていただいた私としては、文庫本型厚紙スリーブの造本的な装釘だけで眼がうるうるしてきます。
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 黒い表紙には富田恵子さんによる銅版画作品が銀で刷られ、さらにスミでタイトルを印刷したトレーシング・ペーパーが掛けられていて、ぴしっと張り詰めた硬質さが隅々まで行き渡っています。ちゃんと背もある重厚な造り。装釘は川本要さんが担当されています。
 表紙を開くと見返し部分にも銀の刷りが。丁寧な造りです。さらにタイトル・ページをめくると、私の文章が美しい写真と見開きでレイアウトされています。続く見開きページでは写真に文章を一部重ねたレイアウト。さらに最終ページは始まりと左右逆に、やはり文章と写真が見開きでレイアウトされています。
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 はっきり言って、ふつうCDのライナーは単なる添え物です。とんでもない間の抜けたレイアウトをされていることもあります。指定の字数を守って書いてるのに、完全に1ページ分足りないとか。あれだけジャケットデザインに気を遣っているECMでさえ、ブックレットの写真には凝っても、文章のレイアウトに配慮を払うことはまずありません。その点で、今回の川本さんのデザインは、わたし史上これまでで最高なのは当然として、おそらくはこれからもないだろう空前絶後のものです。いやー素晴らしい。ありがたやありがたや‥。
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 表紙を飾る銅版画、ブックレットの写真、文章のレイアウト‥‥これだけでもう素晴らしい響きが聴こえてきそうです。名は体を表し、体は中身を表す。収録された演奏は、美しい装釘に高まった期待をさらに上回る、清冽にして深遠なものとなっています。これについては、AMEPHONEさんによる紹介文をお読みください。


「夜のカタログ」について

山を見て、美しいということがあるでしょう。尾根の繋がりを、木々の作り出す濃淡を、わき出すような霧の動きを見て面白いなと思う。やがて注意深くなり、周囲の台地と麓の継ぎ目を探したり、稜線の角度の違いに気がついたりして、改めて、地中からのエネルギーを受け止め、大地が不思議な均衡を得るに至った経緯を想像してみたりする。またこうした線や形と、そこに落とされる光と影から、ダイナミックな力動を体感的に覚えて、自分もまた日常を、複雑にかかる力の中でぎりぎりのバランスを保ちながら存在しているということが、わかる。

山に入り、今度は目を閉じて、そして耳を澄ましてみる。風に揺れる木々の音、雨の当たる音、虫や鳥や、生き物の鳴く声。いい音が聞こえてきますね。そこでスティルライフの二人はポンと手を打つ。木を叩く。筒を吹く。それを録音して、我々が聞かせてもらう。彼等が何故そのようなことをしたかといえば、わかったからではないでしょうか。山の振動を。山の無限に凹凸する表面が振動する様を、彼等の体が理解した。この感じは知っている、普段気には留めないけれど、いつも感じていた、音の由来。そのようにすみやかに。

こうした類の世界の把握というものは、知識に基づくそれとは一寸違って、証明するのが難しい。まあ、そうする必要も無いのかもしれないが。その人個人の幸福は、閉じたものであっていっこうに構わないのですから。手を打つ。木を叩く。筒を吹く、そうこの感じ、山の音もまた同じ。でも、それは教えるようなもんじゃない。

このCDを聞いて驚くのは、どんなものでも作品というものが持つ気負った印象を全く受けない、ということでした。音は立派なものです。木立の立てる音や虫の声をここまでブーストして、なおかつ耳になじむ状態で鳴らされているものを私は知りません。ですから、環境録音(の作品)としては十分成り立っています。そして同時に思うのは、これは与えられたものではないということ。聞いてくれ、とはいわない。作品がまとううっとうしさ、禍々しさと無縁の、なんでしょう、音ですね。芸術というのは、それを作った人の、理解の過程でたまたま産み落とされて、見聞きする人には、また別の理解への入り口として機能する。そのような有り難い印象を持ちました。

AMEPHONE


 スティルライフの津田さんは、AMEPHONEさんが私の書いたライナーを読んでいないにもかかわらず、地質学的というか、地形形成的というか、相通ずる描写をしているのに気づいて、思わずぞくっとしたと話してくれました。スティルライフの演奏は、叙情的なメロディが定型的感興をもたらすといったものでは決してないにもかかわらず、このようなことがなぜ起こるのでしょうか。それはスティルライフの音が、聴き手を「聴くことの深み」へと誘う力を持つことによるように思います。「聴くこと」が聴き手の全身を浸し、隅々まで沁み込んでいく中で、触覚を励起し、あるいは視覚を触発して、世界の成り立ちの秘密に触れさせてくれると。

 以下のURLで試聴もできます。ぜひ聴いてみてください。
http://www.ethnorthgallery.com/?wpsc-product=夜のカタログ-スティルライフ-yoruno-catalog-stilllife
夜のカタログ8
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ディスク・レヴュー | 22:52:08 | トラックバック(0) | コメント(0)
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