■プロフィール

福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■リンク
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QR

シンクロ率30%? 80%? 「タダマス16」レヴュー  Is the Synchronization Ratio 30% or 80% ? Live Review for "TADA-MASU 16"
 今回は「タダマス16」分として採りあげられた10枚のうち、事実上3枚しか触れないレヴューとなってしまった(シンクロ率30%?)。いつも私なりの視点からのリポートでしかなく、「タダマス」の全体像をお届けできていないことを申し訳なく思っているのだが、それにしても今回はかなり極端な結果となったことをお詫びしたい。それでは「タダマス」とこちらの視点が大きく乖離してしまったのかと言うと、最後に「タダマス」が選出した年間ベスト10に触れる部分で明らかになるが、どうもそうではないらしい。たまたま‥ということなのだろうか。いずれにしても私にとってかけがえのない貴重な場であることは揺るぎない。
 それでは当日紹介された作品を見ていこう。当日のプレイリストの詳細については、次のURLを参照していただきたい。
http://gekkasha.jugem.jp/?cid=43767


タダマス16-1David Virelles / Mboco (ECM Records)
 ドビュッシーを思わせる揺れる和音。鍵盤を軽やかにかき混ぜる指先が、視覚的イメージを掘り下げ、彫琢していく。それをぷいっと放り出して、操り人形の動きのようにカクカク、ぎくしゃくしたケークウォーク的なリズムが姿を現す(『子供の領分』から? ドビュッシーへの連想はまだ続いている)。ピアノ・トリオ編成(他の曲ではもう一人のコントラバス奏者とキューバの民族打楽器奏者が加わっていると言う)にあって、相変わらず音数少なく的確に音色を刻んで、そこここにポールを打ち立てながら、ピアノの流れをそれらのポールを経巡るスラロームに見立て、響きの「絵画」を描き出していくThomas Morganのコントラバスは実に見事なものだ。
 対してMarcus Gilmoreのドラムは、巧みにギアを切り替えながらするりすらりと駆け抜け、あるいはそぞろ歩くピアノに、ぴたりと着けていく。しかし、この曲想なら、ドラムはピアノに合わせるのではなく別の異なる軌跡/速度を描いた方が、世界の眺めがより豊かになったのではないかと思わずにいられない。それゆえか、正直Craig Tabornのような衝撃は受けなかった。
 益子に発言を振られた多田が、Craig Taborn, Aaron Parksに続く「ピアノ・トリオの革命がECMから」シリーズの名盤と持ち上げながら、「解き得ない音楽の謎」を感じたと付け加えていたのが、すごく腑に落ちる気がした。ECM流の響きの過剰、空間の広がりや奥行きの深さの強調が気にならないのだ。ピアノは奥深い闇の向こうにあって、打たれた弦の震えが響きへとほどけ溶け広がりながら、はるか空間を渡って来るというよりも、ここで音は最初からすでに顔料のようなメディウムであり、時に色合いを変えながら、ひとつの平らな面を「画面」として配列されていくように思われた。そうしたイメージが先の「絵画」や「眺め」の感触に通じている。
 「タダマス」初の女性ゲスト(16歳にして我が「タダマス」は思春期を迎えた!)として迎えられた西山瞳が印象を尋ねられて、「この辺の(左手の薬指あたりを指差す)音を加えて、わざと音を濁らせて、言い切らないようにしているのがいい」とピアニストならではの指摘。そうした濁りがメディウムの感触をもたらしたのかもしれない。主沢持たないにもかかわらず、向こうを見通すことのできない手触りの確かさがそこにはあった。


タダマス16-2Tyshawn Sorey / Alloy (Pi Recrdings)
 2枚目も続けてピアノ・トリオ。いきなりピアノの冷ややかな打鍵に突き刺される。手さばきは恐ろしく正確で鋭く、それゆえ傷口はあきれるほどに小さく、血も出ない。角度と速度、深さをその度ごとに変えながら、メスは振るわれ続ける。ピアノ奏者のCory Smythは現代音楽畑で活動していて、当然即興もできるが、ここでは曲としてすべて譜面に書かれているのではないかと、後で益子の説明があったが、おそらくそうだろう。ただし用意されたのは通常の五線譜ではなく、特殊なグラフィック・スコアだったのではないかと思わせるような演奏だった。ロック・クライミングの練習用のウォールでは、手がかり、足がかりとなる石がみんな異なる形や色で壁面に埋め込まれているが、ここで各音はすべてそんな具合なのだ。だから、鍵盤の上で指先が閃いても、そこから生み出されるのは一連のフレーズではなく、異なる形、大きさ、色合い、輝きの石を散らばせた象眼細工のようなものとなる。言わばタッチの変化により、一音一音、ピアノを瞬時にプリペアドし、「総体としてのピアノ」を分解/再構成しながら演奏しているみたいなものだ。あるいは一音一音別々に合成して空間/時間軸上にプロットした電子音楽的世界構築。これは見事な達成と言うほかはない。それを鮮やかにとらえた録音がまた素晴らしい。益子によれば、すぐに他のピアノ奏者からSoreyに対し「ピアノの録音がとんでもなくスゴイが、一体どうやったんだ」とFacebook上でツッコミがあったらしい。マイキングをかなり凝ったとのことだが、作曲した時点で「これはピアノの響きを精密に録音できなければ、作品の魅力が全く発揮できない」と気づいていたのだろう。
 だが、そうした作曲者/プロデューサーとしての比類ない達成に比べると、ここでのSoreyのドラム奏者としての貢献はいささか問題があると言わねばならない。ピアノ演奏の彫琢ぶりの細密さに比べ、いかにも解像度が粗すぎるのだ。ばらけた音がそれぞれに粒立ち異なる輝きを放つピアノと向かい合い、ほぼ同様の音数/密度で音を放ちながら、音色は一様でフレーズすら描けない。鋭くその一瞬を刻み付けながら響きを立ち上らせる高音と、その場に突き刺さり動きを封じる低音といった対比もない。ならばピアノの響きをマッピングするための基準平面を、ドローン等により織り上げるという選択もあったはずなのだが。ピアノが描き出す音のコンスタレーション=星座の見事さ(本当に冷たく澄み切った冬空の星々のような鮮やかさをたたえている)にははるかに及ばない。


 それでもこの日は、この冒頭2枚がハイライトだった。期待したMary Halvorson / Reverse BlueやTomas Fujiwara Trio / Variable Betsは全然ぴんと来ず、この2枚と同じRelative Pitch Recordsつながりとして挙げられたMichel Doneda / Everybody Digs Michel Donedaは明らかに「浮いて」いた。ゲストにより「ガラスを引っ掻く音」と形容されたDoneda作品は、実は昨年11月の『松籟夜話』第一夜でプレイしており、その時においでいただいた方が、今回の「タダマス」にも参加されていて、客席からギャラリー白線の反射型スピーカーでは部屋全体が息づくみたいに聴こえたのに対し、こちらでは音の輪郭が明確になってしまうために、響きがきつく聴こえてしまったのではないかと指摘されていたのが印象に残った。


タダマス16-3Tony Malaby's Tubacello / Scorpion Eater (Clean Feed Records)
 本日の10枚の最後にかかった本作が冒頭の2枚に迫る出来。ts&ss, cello, tuba, dr&percussionという特異な編成だが、この編成ならではの化学反応を起こさせていた点が素晴らしい。上空ではたはたと翻り、はためいている部分と中低域にどっしりと根を張りながら鋭敏に震えている部分。金属打楽器のカタカタとした鳴り。基本的なサウンドのフォーメーションをざっくりと定め、後は各自が自在にバランスを取りながら、上がったり下がったり、前へ出たり後ろに引いたり左右に流れたりとピッチを幅広く使ってボールを回していく。どちらかの管とチェロのユニゾン。あるいはチューバによるウォーキング・ベースやドローン。それぞれが層をつくりながら、それを重ね合わせ溶け合わせる動き。ドラム/パーカッションのJohn Hollenbeckはほとんどシステムから「治外法権」で、言わば「リベロ」的に勝手に動き回る。益子が「Hollenbeckは自分のグループだとずっとリズムをキープしたり禁欲的なのに、他人のところだと、特にTony Malabyとやるとものすごいインプロヴァイザーぶりを発揮する」と解説していたが、まったくその通りで、細かく刻みまくるドラムのキレの良さが凄まじい。
 本作に参加しているDan Peck(tuba)とChristopher Hoffman(cell)は、それぞれTony Malabyの別プロジェクトであるチューバ・トリオとチェロ・トリオのメンバーであるというから、そこでの実験の成果を適用した結果が、この見事な達成と言うことなのだろう。さらにHoffman はHenry Threadgill's Zooidのメンバーであり、Dan Peck 自身はメンバーではないが、Threadgillのグループにチューバ2本をフィーチャーしたVery Very Circusがあったことを考えれば、本作はThreadgillの達成の延長上にあると考えられる。彼の存在の大きさを改めて思い知らされる次第。


 この日は2014年の締めくくりということで、恒例の年間ベスト10が発表された。そのラインナップは次の通り。なお、詳しくはhttp://gekkasha.jugem.jp/?cid=43767を参照していただきたい。

1. Vinnie Sperrazza / Apocryphal (Loyal Label)

2. Tyshawn Sorey / Alloy (Pi Recordings)

3. David Virelles / Mbko (ECM Records)

4. Joachim Badenhorst / Forest // Mori (Klein)

5. Jozef Dumoulin / A Fender Rhodes Solo (Bee Jazz)

6. Hugues Vincent, Yasumune Morishige / Fragment (Improvising Beings)

7. Tony Malaby's Tubacello / Scorpion Eater (Clean Feed Records)

8. Steve Lehman Octet / Mise en Abime (Pi Recordings)

9. Now Vs Now / Earth Analog (Now Vs Now Productions)

10. People / 3xa Woman – The Misplaced Files (Telegraph Harp)

extra. Taylor McFerrin / Early Riser (Brainfeeder)


 ちなみにこのうち1〜8は私が「タダマス」レヴューで注目してきた作品。なのでシンクロ率は80%とかなり高い。他に私が注目していた作品は、Eric Thielmans, John Hebert Trio, Kris Davis Trio, Mary Halvorsonたちによる『Thumbscrew』といったあたり。「タダマス」の「ダークサイド」(©多田雅範)とは相性がいいが、「ポップサイド」とはイマイチということだろうか。

タダマス16-4_convert_20150201021936
2015年1月25日(日) 綜合藝術茶房喫茶茶会記
スポンサーサイト


ライヴ/イヴェント・レヴュー | 02:26:58 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad