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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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名古屋納屋橋の夜は更けて − 音楽&薬草バー『スキヴィアス』探訪記  Round Midnight in Nayabashi, Nagoya − Visit Report of Music & Herb Bar "Scivias"
 大阪中崎町コモンカフェにロジャー・ターナーと高岡大祐のデュオを観に出かけた翌日、大阪から京都、さらに名古屋へと足を伸ばした。京都行きの理由は何と言うことはなくて、以前に食べて大層おいしかった、蛸薬師「丸十」の焼き芋、錦小路そば権太呂の刻みきつねうどん、祇園「安参」の肉割烹コースを再び巡るためだったのだが、京都で夕食を摂った後に名古屋に向かったのは、20時に店を開ける音楽&薬草バー「スキヴィアス」を訪れるためだった。

 「スキヴィアス」は虹釜太郎主宰のゼミで知り合った「スキヴィアス服部」が経営している。「スキヴィアス」については開店時にこのブログで採りあげたので、覚えている方もいらっしゃることだろう(*1)。また、「スキヴィアス服部」(あるいは「服部レコンキス太」)が、同人誌『TOHU-BOHU』に、さらには自主制作コピー誌『音について その1』に書いた文章についても、このブログで採りあげている(*2)。音が耳に届く前にミュージシャン(ここでは演奏者、作編曲者、制作者等を幅広く含む)の意図に還元して「回答」(だがそれは一体、何に対してのものなのか。まだ問いさえ受け止めてないというのに)を出してしまうのではなく、音を記号や情報としてだけ読み解くのでもなく、音に触れた自らの身体の変容を見詰めながら丁寧に腑分けし、音楽に限らず幅広い文化的背景を参照しつつ記述していく手つきは、今時得難いものだと思う。
 *1 http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-211.html
   http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-213.html
 *2 http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-80.html
   http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-212.html


 名古屋駅から広小路をずんずんと進んで、納屋橋の左側を渡ったところで、たもとにある不思議な建物(旧加藤商会ビル。かつてはタイ領事館も置かれていたところで、今はタイ料理のレストランになっている)の前に立って左手を眺めれば、斜め前方に「SCIVIAS」の白い看板が見える。石を投げれば届く距離だ。
 2階に上がってドアを開けると、奥にL字型のカウンターが設えられ、その前にチェアが並ぶ。手前には小さな本棚やCD等の展示販売用のコーヒー・テーブルが置いてあるだけでテーブル席がないので、ずいぶんと広く感じる。
 来店を事前に伝えてあったので、やあやあと挨拶を交わす。Facebookで流れて来る開店の音楽はフィールドレコーディングだったり、民族音楽だったりと結構ヘヴィだが、この時は随分と聴きやすいアンビエント風の音が流れていた(後で訊くとハウシュカだという)。

スキヴィアス行き0 服部は「最近、これをよく聴くんですよね」と言いながら、CDをかけ換える。高橋アキ演奏による『早坂文雄:室内のためのピアノ作品集』(Camerata)。ドビュッシー由来の香り高さと、品のいい端正で落ち着いた佇まい(メシアンほどには濃密でも厳格でもない)。「何か『教授』の元ネタって感じがしませんか」と彼。順番なら先に出て来るはずの武満徹を跳ばして、坂本龍一となるのは、音を聴くとよくわかる。これは高橋アキによる明晰な演奏の貢献も大きいのだろうが、ロマンティックな匂いが薄く、ドビュッシーの向こうにサティを透かし見ているところがある。エキゾティックの手前で立ち止まるクールネス。「元ネタって言うより、教授にもっと教養や恥じらいがあったら、こうなってましたってことなんじゃないの」と与太を飛ばす。


 最近、何かいいのありますかと訊かれて、そうなることだろうと思って仕込んできた数枚のCDを見せる。

スキヴィアス行き1 まずは熱帯雨林のフィールドレコーディングで、マイクロフォンの「皮膚」を痛々しく擦りむいて無理矢理感度を高めたのではないかと思えるほど超鮮明なDavid Michael, Slavek Kwi『Mmabolela』(Gruenrekoder)。虫の音が耳に、肌に鋭く突き刺さる。スピーカーはヤマハの小型モニターなのだが、ゆらゆらした低音の響きが随分下まで出ているみたいなので尋ねると、カウンターの端(入口に近い方)にFostexのスーパー・ウーハーを1台床置きして鳴らしていることを教えてくれる。なるほど。

スキヴィアス行き2 続いてはある古楽作品をミニマル・ミュージックの原型と見立てて奏したRalf Meinz, Karolina Ossowska & Mikołaj Palosz『Play Giuseppe Tartini "La sonata il sol minore al terzo suono"』(Bolt)。メロディが抑揚無しに引き伸ばされて、ヴァイオリンとチェロの弦の振動の生々しい衝突/干渉(倍音領域を含む)が前景化して、Tony Conrad状態をつくりだす。「こーゆーの聴くと、進化論的な音楽史って何だよって話ですよねー」、「我々が知ってる音楽史って「ハンスリック以降」って言うか、まあ、それぞれの時点での政治的視点からの再話だから。結局、『歴史は勝者が創る』っていう原理原則は文化史でも変わらないってことでしょ。バッハですら再発見されなくちゃいけなかったわけだし。古楽だって、つい最近まで専門家しか聴かない『生気のない難しくてつまらない音楽』扱いだったわけで‥」と、またいーかげんな与太を飛ばし合う。こちらは酒も飲んでないのに。

クォーツ追加4 「それからインプロヴィゼーション関係ではこれね」と歌女『盲声』(Blowbass)を差し出す。もともと大阪まで来たのも、ロジャー・ターナーと高岡大祐のデュオのためだったので‥と。そこから、フリー・インプロヴィゼーション系をはじめ、来日アーティストに対する共演者のブッキングの固定化はいかがなものか‥という話になるが、身の危険を回避するため詳細はオフレコに(笑)。


スキヴィアス行き3 さらに雰囲気を変えてと、Marta Valdes『En La Imaginacion』(Ahora)を。「ギター弾き語りの女声によるフィーリンなんだけど、すごく良いですよ。フィーリンでもナイトクラブの匂いがするのは苦手で、ほら、お酒飲めないから。でもこれはストイックで繊細にして自然体。どちらかというと作曲の人らしいんだけど‥」と日本盤付属のライナーを差し出す。

 その後、二人いたお客さんが帰ってからも、二人であれこれ音盤をかけながら、延々と話をしていたのだが、こちらも眠気が増していたので、何を話したかあまりよく覚えていない。投げかけられた話題に応えようとして、なかなか固有名詞が出てこなかったり。話題もあっちこっち跳んだし。服部も酔っていて、結構、話に脈絡がなかったのだが、それでも「ともかく音を聴いてみましょう」と、その場で音盤を探してちゃんとかけるところは流石プロ。もちろん見つからなかったのもあったんだけど‥(笑)。なので、こちらも対抗して、その時に挙げようとしてちゃんと出てこなかった参考書目を、後から記憶をたどり、調べ直したのが次のリスト。

I.ウォーラーステイン『史的システムとしての資本主義』川北稔訳、岩波書店、1997年
I.ウォーラーステイン『近代世界システムⅠ』川北稔訳、岩波現代選書、1981年
I.ウォーラーステイン『近代世界システムⅡ』川北稔訳、岩波現代選書、1981年
中井久夫『西欧精神医学背景史』みすず書房
前田英樹『民俗と民藝』講談社選書メチエ
前田英樹『ベルクソン哲学の遺言』岩波現代選書
渡辺哲夫『フロイトとベルクソン』岩波書店
山本義隆『磁力と重力の発見』、『十六世紀文化革命』、『重力と力学的世界』等


 そんな中で、ただ一つよく覚えているのが、服部のしてくれた次の話。
 「スティルライフ『夜のカタログ』を聴くと、演奏の背後というか、背景の音がすごくよく聴こえてくるんですね。これは彼らがそうした音をよく聴いている‥ってことでもあるんだけど。それで思い出したのが、中学の頃、電車通学していたんですが、本当に田舎の駅なんで、電車もあまり来ないんです。駅のまわりも静かだし。それで電車に乗り損ねて行っちゃった時に、意識で電車を追いますよね。耳でも線路の振動が遠ざかっていくのを追いかけるんです。どんどん小さくなっていく音を。そうするとロープをたどっていくみたいに、だんだん遠くの音が聴こえるようになってくるんです。」
 「それって、スティルライフのメンバーの津田さんが、ワークショップ『みみをすます』で使っている、段階を踏んで耳を開いていく方法論と似てるなー。いやー、その話、彼が聞いたらきっと喜ぶと思うよ。」



ちなみに珍しいリキュール各種のほか、ノン・アルコールのメニューもいろいろなハーブティーやコーディアルなどありますので、お酒の飲めない方も、どうぞお気軽にお訪ねください。
なお、「スキヴィアス」への行き方については次を参照してください。
http://otyto.hatenablog.com/entry/2023/02/02/000000
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音楽情報 | 18:54:08 | トラックバック(0) | コメント(0)
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