■プロフィール

福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

■最新記事
■最新コメント
■最新トラックバック

■月別アーカイブ
■カテゴリ
■リンク
■検索フォーム

■RSSリンクの表示
■リンク
■ブロとも申請フォーム
■QRコード

QR

基層と切断 - 文藝別冊「ジェネシス 眩惑のシンフォニック・ロック」
 5月19日に発売された文藝別冊「ジェネシス 眩惑のシンフォニック・ロック」(河出書房新社)に執筆した。最近の文藝別冊は本当にプログレづいていて、昨年1月のピンク・フロイド(増補版)、同7月のキング・クリムゾン、今年2月のイエスに続く特集企画となっている。
 一読して、今回の構成はとてもバランスが取れていると感じた。一般にピーター・ゲイブリエルの脱退を決定的として前後を分かち、「プログレからポップに転じた」と括られてしまいがちなジェネシスの軌跡だが、ここではむしろスティーヴ・ハケットの脱退に大きな転機を見るジム・オルーク(インタヴュー記事)をはじめ、フィル・コリンズのドラム・サウンドの変遷を追ったり、歌詞の文学性を分析したり、メディア・イメージの分析を通じて『眩惑のブロードウェイ』を変化点と位置付けたり、あるいは変わることのない「英国らしさ」に基層を見出したりと、視点の設定により様々な切断と連続が見出し得ることが提示されており、ジェネシスという歴史=物語の読解として、とても厚みのある内容となっている。

 それゆえ、各執筆者の論点が互いに反響しあうところが魅力だろうか。彼らの基層というべき「英国らしさ」について、大英帝国的な畸人変人性を通じて、あるいは頻繁に言及されるマザー・グースのみならず、キーツをはじめ英文学からの出典を通じて、さらには田園風景を通じて、複数の評者により多角的に論じられている。反対に極めて英国的なバンドでありながら、実はヨーロッパへの影響が大きかったとして、ジェネシス・フォロワーたちの紹介がなされている。また、彼らの初期イメージを形成したポール・ホワイトヘッドのカヴァー描画が採りあげられ、あるいは彼らのライヴ・ステージにおけるヴィジュアルの変遷が語られる一方で、彼らのコピー・バンドである「復刻創世記」のメンバーにより、彼らのアンサンブルの妙やサウンド構築の秘密が明かされる。

 私自身は「ジェネシス - 音の石組み」なる論稿で、彼らの活動を編年体でとりまとめたCD3枚組の『R-Kives』(いわゆる「ベスト盤」だからか、本号でも他では一切、ディスク・ガイドにおいてすら、触れられていない)から語り始め、まずは議論の前提として、彼らの変わることのない一貫性を指摘している。30年近くも活動を継続しながら、そこにはEL&Pの低迷も、イエスの迷走も、ピンク・フロイドの肥大も、キング・クリムゾンの転生もない。
 そのうえで彼らの代表作『フォックストロット』の幕開けを飾る「ウォッチャー・オヴ・ザ・スカイズ」や長大な「サパーズ・レディ」のサウンドを例に挙げ、彼らの演奏が堅固な音の石組みにより、何よりも音による「世界(像)」を提示することを目指しており、ゲイブリエルの演劇的突出にもかかわらず、それはあらかじめ設定された「世界」の中を跳ね回る「キャラクター」でしかないことを説明している。12弦ギターやキーボードのアルペジオ、リフレインの多用は、アンソニー・フィリップスの創造を継承して、トニー・バンクス(とマイク・ラザフォード)が完成させていった、サウンドの層の稠密な積み重ねのまさに典型にほかならない。対してスティーヴ・ハケットの常に震えやにじみを帯びたギター、フィル・コリンズのアンサンブル全体を揺すぶりスウィングさせるビ・グ・バンド的なドラムは、この揺るぎない構築に息づきをもたらす揺らぎ成分として機能している。
 一方、ゲイブリエルの独裁による達成として語られがちな『眩惑のブロードウェイ』も、元ネタというべきレナード・バーンスタイン『ウェストサイド物語』と比較すれば、それがゲイブリエル自身によってジョン・バニヤン『天路歴程』になぞらえられているように、英国を旅立ててはいないことがわかる。彼の本当の旅立ちは、やがてワールド・ミュージックとの出会いによって果たされることになるだろう。
 やはりジェネシスは変わっていない。それはバンクスの変わらなさ/変わり難さであり、彼の内部に残り続けるクラシック音楽とソウル・ミュージック(それはパブリック・スクール時代、彼とゲイブリエルを引きあわせたものだ)をはじめとするポップ・ミュージックとの解消し難い分裂に起因している。彼は依然としてパブリック・スクールという「檻」、そしてその延長上にあるジェネシスという「檻」に囚われているのだ。
  『危機』ただ1作品だけにフォーカスして、長くは続かなかった「奇跡」を論じたイエスと異なり、ジェネシスに関し、あえて変わることのない一貫性/連続性を前景化したのは、売れた/売れないとポップ/プログレを短絡的に結びつける俗説への反抗ということもあるが、それだけではない。もちろん彼らのサウンドが大きな切断/転機をはらんでいるのは確かだ。しかし、それはゲート・リヴァーブの使用によるドラム・サウンドの劇的変化とシンクロしており、それはポップ・ミュージック全体に波及する一大変化でもあったことを忘れてはなるまい。しかも、スティーヴ・リリーホワイトとヒュー・バジャムというプロデューサー/エンジニア側の達成として語られがちな、この一大「発明」が、ゲイブリエルのソロ作の制作中に、フィル・コリンズの叩くドラムに起こった偶然により誕生したものであることを思えばなおさらだ。

 個人的には、『松籟夜話』第五夜でジム・オルークを特集した際に、彼のジェネシス・マニアぶりを再認識し、今回の企画を知って「ぜひ」とリクエストした彼へのインタヴューが掲載されているのがうれしい。音楽誌のジェネシス特集としては「DIG special edition」によるもの(2014年11月発行)が秀逸だったが、本誌も実に読みごたえのある特集となっている。ぜひお読みいただければありがたい。


文藝別冊ジェネシス縮小
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309978871/
http://www.amazon.co.jp/%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%B9-KAWADE%E5%A4%A2%E3%83%A0%E3%83%83%E3%82%AF-%E6%96%87%E8%97%9D%E5%88%A5%E5%86%8A-%E6%B2%B3%E5%87%BA%E6%9B%B8%E6%88%BF%E6%96%B0%E7%A4%BE%E7%B7%A8%E9%9B%86%E9%83%A8/dp/4309978878
スポンサーサイト


執筆活動 | 22:37:45 | トラックバック(0) | コメント(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

FC2Ad