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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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『文藝別冊 デヴィッド・ボウイ増補新版』刊行
2016年12月20日、河出書房新社から『文藝別冊 デヴィッド・ボウイ増補新版』が刊行された。

増補ボウイ表紙縮小
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309979076/



 2016年という年号と共に記憶されるべき出来事として、1月10日のデヴィッド・ボウイの死が挙げられるだろうことは想像に難くない。最新作『★』のリリースを待ち侘びたかのような彼の死の同期ぶりは、前作『Next Day』が10年ぶりの新作であり、もうすでに過去の人となったかと思われたボウイの鮮やかな復活と引き続く快調な活動再開を想像させていただけに衝撃的だった。

 彼の死を巡っては、すでに多くの言葉が呟かれ、書き記されている。それに付け加えるべきことなど、もはや何もないに決まっている。後はただ遺された彼の言葉/音に耳を傾けるだけだ‥‥誰もがそう目配せを交わし、無言のうちに申し合わせながら、彼の「遺言」を探し続ける。『★』を彼の「遺作」として崇め奉り、そこに秘められた彼の最後のメッセージをあぶり出し、彼の作品をレコード棚のしかるべき位置にしまいこんで、お払い箱にしようとする。「遺作となった『★』で彼はロック・ミュージックを超え出て新世代ジャズへと手を伸ばした。彼は常に時代の先端に屹立すべく、自らを更新し続けていた‥‥」と呪文のように呻きながら、どこまでも「通過者」であり続けた彼を、時代の流行の中に封印しようとする。

 前作『Next Day』のリリース及びこれに同期した大回顧展『David Bowie is』の開催に合わせて刊行された『文藝別冊 総特集デヴィッド・ボウイ』※は、これに類する各種刊行物の掉尾を飾るにふさわしく、彼のこれまでの活動を振り返りつつ、それらをロック・ミュージックのモード史へと回収するかわりに、200枚に及ぶ想像的(妄想的?)関連音盤をマッピングした「ボウイ曼荼羅」に象徴される仕方で、各領域の開かれた影響関係のネットワークへと解き放ってみせた。
※http://miminowakuhazushi.blog.fc2.com/blog-entry-228.html

 今回の彼の死に際し、やはり類する各種刊行物の掉尾を飾って『文藝別冊 デヴィッド・ボウイ増補新版』が出版されたのは、前述の閉塞状況を切り裂くためにほかなるまい。それゆえ今回新たに追加されたのは、『★』や『Lazarus』のディスク・レヴューはもちろんのこととして、前回総特集執筆者等(Simon Finn, レック参加)による追悼文集「宇宙へ還って行った男に捧ぐ」、「遺作」に「遺言」を求めてしまう「大団円的な納得」をきっぱりと拒絶する鼎談「星に願いを」、ボウイの膨大なアート・コレクションの展示・競売に関して、河添剛がわざわざ渡英して書き下ろした「炎上」必至の辛辣なリポート「かつて美術界の逍遥者として知られていた人間の墓石としてヴェールを脱いだ彼の収集物、でさえも」、そして書籍や映画等、あえて音盤以外から選定された「続ボウイ曼荼羅」の4つを主要な柱とする原稿群である。

増補ボウイ目次縮小
詳細は目次を参照



 私自身はこのうち河添剛・平治との鼎談「星に願いを」と「続ボウイ曼荼羅」に参加させていただいた。

 前者は「絶対的非在としての『★』が顕現させるものと隠蔽するもの」(平)を巡って語り始められ、「黒」の崇高性と拒絶の身振りの二面性を経由して、彼のクレメント・グリーンバーグのフォーマリズムへの言及を曲がり角として一気に、彼の「通過者」としての資質の特異性の検討へと向かう。事態を「通過」しながら、その事態により決定的な変容を被らずにはいられない「影響されることの天才」として。それにより彼は、未完に終わった20世紀の美学を宿命的/不可避的に映し出さざるを得ないのだと。それは一方では、テクノロジーにより未来性と「血と大地」の本来性を結びつけたファシズム美学であり、他方では白人が黒人を模する誘惑の身振りからスタートし、最も低質なジャンルとして、テクノロジーによるメディア性を含め、他の様々な要素を貪欲に取り込み、変容を続けるロック・ミュージックにほかならない。
 ここでの私自身の『★』読解に関し大きなヒントとなったのが、『★』リリース以前にベスト盤『Nothing Has Changed』への収録、あるいは10インチ盤アナログとしてリリースされた「Sue」に対する多田雅範の逸早い反応だった(何と2014年12月)。彼がRalph Towner『Solstice』(ECM 1060)を引き合いに出して、Maria Schneider Orchestraが演奏を務めたこの曲を「ボウイ meets ソルスティス」と形容したことが、『★』を巡って呪文のように繰り返し唱えられる「新世代ジャズ」の縛りから私の聴取を解き放ち、さらにこのヴァージョンと『★』収録ヴァージョンの決定的な違い(ドラムは同じMark Guilianaにもかかわらず)に耳を開かせたのだ。

 後者では候補作のリストアップのほか、次の作品のレヴューを執筆した。
  ①ジョージ・オーウェル『1984年』
  ②ウィリアム・バロウズ『ワイルド・ボーイズ(猛者)』
  ③ブルース・チャトウィン『ソングライン』
  ④ラインハルト・シュタイナー『エゴン・シーレ』
  ⑤高祖岩三郎『ニューヨーク烈伝』
  ⑥田中純『政治の美学』
  ⑦小野清美『アウトバーンとナチズム』
 何だか随分な選書だが、それぞれに理由はある。①②は『ダイヤモンドの犬』の発想の源として。③は①と共に「ボウイの愛読書100冊」(ヴォーグ誌掲載*)の1冊として、また巡礼者の如く漂泊を続けたチャトウィンを「通過者」ボウイと重ね合わせて。④はボウイの愛する表現主義画家の作品集。⑤は『ロジャー』をジェントリフィケーション以前のニューヨークを巡る都市論として読み解く視点から。⑥はボウイ論を収録と言うより、それをロックンロールをファシズム美学の一環としてとらえる視点のゆえに。⑦は秀逸なクラフトワーク論と言うべき椹木野衣『後美術論』の発想の源となった一冊であり、ファシズムの思考が現在に深く突き刺さっていることの証左として。
*http://www.davidbowie.com/news/bowie-s-top-100-books-complete-list-52061

増補ボウイポスター縮小 文藝別冊ボウイ
本号付録のミニ・ポスター             前回刊行の『文藝別冊 総特集デヴィッド・ボウイ』



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執筆活動 | 17:44:45 | トラックバック(0) | コメント(0)
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