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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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『松籟夜話』第八夜来場御礼  Thank You for Coming to the Listening Event "Syorai Yawa" Eighth Night
 小雨がぱらつく肌寒さの中、大勢の皆様に『松籟夜話』第八夜にご来場いただき、厚く御礼申し上げます。当日のプレイリストをご紹介いたします。各盤に簡単な紹介コメントを付けましたが、当日の案内の流れを再現するところまでは至っていません(そちらについてはまた後日にできれば補足を)。なお、参考のために試聴用リンクを付しましたが、こちらも必ずしも当日ご紹介したトラックの音源ではありませんので、その点ご注意ください。


撮影:津田貴司


開演前BGM:Umeko Ando『IHUNKE』Chilar Studio CKR-0108
試聴:https://www.youtube.com/watch?v=_hhuSIYDwvs
アイヌの音楽家、安藤ウメ子による歌(ウポポ)。「イフンケ」とは子守歌のこと。ゆったりと沁みてくる優しい声音。トンコリ奏者OKIによるプロデュース。




第1部 複数の煙が立ち上るような声の集積が、その場所を照らしていく

久高島イザイホー』宮里千里 琉球弧の祭祀Bsf006 tr.1, tr.6
試聴:http://www.reconquista.biz/SHOP/BsF006.html
この1978年以降、もはや行われていない12年に1度の神事(神女ノロの任命式)の貴重な録音。「エーファイ」という掛け声があちらこちらから湧き上がり、歩み出した声の列は、周囲の観客の話し声や歓声をも巻き込みながら、ぐるぐると渦を巻く。


宮古西原古謡集』久保田麻琴編「南嶋シリーズ」ABY-004  tr.1
試聴:http://elsurrecords.com/2013/04/22/v-a-%E3%80%8E%E5%AE%AE%E5%8F%A4%E8%A5%BF%E5%8E%9F%E5%8F%A4%E8%AC%A1%E9%9B%86%E3%80%8F/
1974年奥原初雄録音制作。西原村立100周年記念盤として発表された2枚組アルバムをもとに、久保田麻琴が復刻。祭祀の熱気が感じられる名演と言える。イザイホーに比べて静的な(移動のない)録音である。交差して行き過ぎる二つのさざ波のように、ゆったりとずれながら重なり合う声。

服部龍太郎監修『南海の唄ごえ―奄美民謡集』日本コロムビアPLP-99(AL-5018)A-8
試聴:
次第に高まっていく声の響きあいが聴けるが、指笛や掛け声の合いの手や太鼓の拍子に「のる」のではなく、指笛も太鼓も声も、それぞれがそれはそれとして進行しているように聴こえる。収斂せずしこらない音の群れ。

台灣原住民音樂紀實3『雅美族之歌』TCD-1503 tr.16
試聴:http://okmusic.jp/#!/i/collections/2479037
台湾南東沖にある蘭嶼(LANYU ISLAND)に暮らす海洋民族アミ族。どことなくポリネシア系のチャントに通じるものを感じる。




台灣原住民音樂紀實1『布農族之歌』TCD-1501 tr.16-17
試聴:http://okmusic.jp/#!/i/collections/2730908
南部山岳地帯に暮らすブヌン族。小さな遠くのほうから聴こえるような声から始まり、下からせり上がるかのように次第に声が増えていき、音程も徐々に上がっていく。



台灣原住民音樂紀實8『魯凱族之歌』TCD-1508 tr.1-2
試聴:http://okmusic.jp/#!/i/collections/2571374
ルカイ族。どことなくブルガリアンボイス的な響きを感じる立体的なポリフォニーだが、それでも西洋近代的な多声のあり方を相対化するに十分な成り立ち。バックにかすかに虫が鳴いているのが聴こえる。



台灣原住民音樂紀實7『排灣族之歌』TCD-1507 tr.12
試聴:http://okmusic.jp/#!/i/collections/3165202
パイワン族。力強い男声の独唱を基音に多声が重なる。これもどことなくブルガリアンボイス的な響きを感じる。しかし、部族ごとの感触の違い、声のスペクトルの広がりは驚くほど。柳田國男や折口信夫が琉球に「原日本」を見出すきっかけとなった台湾蕃族の文化は、実はかくも多様だった。

ブルガリアの音楽〜バルカン・大地の歌』KING WARLD MUSIC LIBRARY KICW1096 tr.16-17
試聴:https://www.amazon.co.jp/%E3%83%96%E3%83%AB%E3%82%AC%E3%83%AA%E3%82%A2%E3%81%AE%E9%9F%B3%E6%A5%BD-%E3%83%90%E3%83%AB%E3%82%AB%E3%83%B3%E3%83%BB%E5%A4%A7%E5%9C%B0%E3%81%AE%E6%AD%8C-%E6%B0%91%E6%97%8F%E9%9F%B3%E6%A5%BD/dp/B00005F832
旋律の最後に声が裏返るところが特徴的でブルガリアの合唱ということがわかるが、台湾原住民族の合唱と並べて聴いても特にヨーロッパの音楽だというふうに差異化認識できない。当日は台湾音源に続けて、どこの国の音源かは最初伏せたままプレイした。


 撮影:原田正夫                     撮影:益子博之



休憩時BGM:『台灣 士林 神農宮』
台湾旅行に行った友人(本業はイラストレーター/画家)による(おそらく道教寺院の)読経。無造作に置かれた簡単な録音機材が、見事にお堂の空間的なボリュウムを描き出している。
(この場所のようです/https://www.travel.taipei/ja/attraction/details/937)



THAILAND:Music and songs from the Golden Triangle』MUSIQUE DU MONDE 92754-2  disc2 tr.8-10
試聴:http://losapson.shop-pro.jp/?pid=60052921
そっと肩に手を置くように、声の身体が重なり合う。あらかじめ音高構造によって声の居場所を切り分け確保するのではなく、声の肌をすり合わせ、共棲するもうひとつのポリフォニーのあり方が、琉球弧から台湾を経て、ここにも浮かび上がる。

アイヌのうた』萱野茂、平取町アイヌ文化保存会 JVC WORLD SOUNDS VICG-60400  tr.4-6, tr.10
試聴:http://victorentertainmentshop.com/product/?item_cd=VICG-60400
繰り返し現れる「トゥルルルルッ」という、喉や鼻の奥を震わせるような発音に、外気の寒さを感じる。老婆の声の襞の暖かみが際立つ。


『INUIT fifty-five historical recordings』LE COUEUR DU MONDE SUB ROSA SR115 tr.3-4
試聴:http://www.subrosa.net/en/catalogue/le-coeur-du-monde/inuit.html
取り上げたのは1961年のテープ録音と、1906年の蝋管(ワックスシリンダー)録音。ノイズの彼方から聞こえる声に、時間的空間的な「遠さ」を聴く。

VIETNAM music of the montagnards』LE CHANT DU MONDE CNR 27411085.86  disc2 tr.1
試聴:http://www.allmusic.com/album/vietnam-music-of-montagnards-mw0000030959
シンプルな旋律のバリエーションの繰り返しだが、輪唱でもユニゾンでもないタイミングで突然割って入る男声、さらにそこに女声が加わり、三声になる。そのどれもが互いに「合わせない」「ハモらない」。各自のテンポで、それぞれがそれはそれとして進行している。



第2部 声の照らし出す空間、環境を触知する息

参考映像集+参考文集紹介
合成写真による南島イメージ⇔山之口獏「会話」
 東松照明の沖縄への眼差し(混成文化、神秘性)⇔岡谷公二、ソクーロフ
 比嘉康雄によるイザイホー撮影(神秘性と日常性)
⇔柳田國男、折口信夫、ニコライ・ネフスキー、谷川健一
 風景による浸食⇔岡本太郎「沖縄文化論」、アントナン・アルトー「記号の山」
 ゴシックと(もうひとつの)ポリフォニー

Costis Drygianakis『Hymns of the Passion and the Resurrection』more mars team mm013 ( book + 2CD ) CD-1 tr.10, CD-2 tr.5, tr.14, tr.17
試聴:http://www.art-into-life.com/product/5843
中世ゴシック期におけるポリフォニーの成立が、楽譜を演奏に必要不可欠なものとし、作曲の地位を高め、音の動きの可視化により複雑化を加速し、「西洋音楽」を確立した。それ以前の姿をとどめるギリシャ正教の聖歌を、サウンドアーティストによる現地録音で。岩のようにごつごつした声の響きがぶつかり合い、空間を隔て、聖堂内に充満し、詰めかけた参列者のしわぶきの向こうに霞む。

灰野敬二『Un Autre Chemin Vers L'Ultime』Prele prl007 tr.1
試聴:http://www.art-into-life.com/product/6412
ノルマンディーの背も立たない洞窟内で、座り込んだまま、声を張り上げることもできずに、苦し気な吐息を漏らす灰野。冷え込む大気に押しつぶされながら、ふと白い息が立ち上り、空間を手探りし、壁を伝い、暗闇で頬を撫でる。原初へと遡り、空間を照らし出す声の底流。

沢井一恵『The Sawai Kazue』邦楽ジャーナル HJCD-0006 tr.6
試聴:
中国の古代遺跡から出土した五絃琴を基に復元した楽器のために高橋悠治が作曲。静かにかき鳴らされる単調な、だが縺れた繰り返しが、手元をぼんやりと照らしながら、巫女の虚ろな呻きを引き出す。床を伝い、板の隙間に沁み込みながら、空間を手探りし、闇の中に浮かび上がらせる息。シャーマニズムの原初へと遡る声の記憶。

Doneda, Achiary, Sawai『Temps Couche』Les Disques Victo VICTO CD 055 tr.4
試聴:https://play.google.com/store/music/album/Michel_Doneda_Temps_Couch%C3%A9?id=Bksovcpo64xd4timtqqofbt36ae&hl=am
珍しくフリー・インプロヴィゼーションで用いられた沢井のくぐもった低い声は、先の巫女の呻きと明らかに通底しており、他方、Benat Achiaryの灰野的な吐息へと迫る。Michel Donadaのソプラノ・サックスも次第にヴォーカルな熱を帯び、十七絃箏の乱舞に足元を崩されながら、揃わぬ声のクライマックスを演じる。


閉演(現世へのサルベージとして):茂木綾子『島の色 静かな声』DVD Silent Voice
試聴:https://vimeo.com/125685823
水面に映る月に雲がかかり、水の流れが聞こえてくる。神秘的とも言えるモノクロームな冷ややかさは、機織りのリズミックな動き、糸を紡ぐ柔和な手つきへと引き継がれ、次第に色彩を帯び、体温を高め、人が動き、布が翻り、犬が寝そべって、生活が立ち上がる。以前にスティルライフ(津田貴司+笹島裕樹)はこの映画と「共演」している。


撮影:益子博之

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ライヴ/イヴェント・レヴュー | 01:24:57 | トラックバック(0) | コメント(0)
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