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福島恵一

Author:福島恵一
プログレを振り出しにフリー・ミュージック、現代音楽、トラッド、古楽、民族音楽など辺境を探求。「アヴァン・ミュージック・ガイド」、「プログレのパースペクティヴ」、「200CDプログレッシヴ・ロック」、「捧げる-灰野敬二の世界」等に執筆。2010年3~6月に音盤レクチャー「耳の枠はずし」(5回)を開催。2014年11月から津田貴司、歸山幸輔とリスニング・イヴェント『松籟夜話』を開催中。

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ECMは音がナナメ(+o+)① 「純喫茶ECM」来場御礼
 昨晩の「純喫茶ECM」、多数の皆様にご来場いただき、どうもありがとうございました。「実演」につきものの、トラブルや手違いは多数あり、反省すべきところですが、時間内でちゃんとプログラムを終えられたし、まずは良かったかなと。
 当日のセットリストは以下の通りです。もともと終曲(2-7)として予定していたJan Garbarek “The moon over Mtatsminda” from Rites (ECM 1685-86) (CD)がトラブルでかけられなかったのは残念。これはNan Madol→Solsticeという「ECMのハードコア」体験で、「向こう側」へ行ってしまった意識を現世に連れ戻すためのプロセス(厄落とし?)として想定していた曲なので、当日来場された皆様が、ちゃんと還ってこれたかちょっと心配です。
ちなみに次のURLで聴くことができます。
http://www.youtube.com/watch?v=eP-BHfmotwY

純喫茶ECM セットリスト (2010年9月26日)
開演前 Just Music "Stock-Vol-Hard 2+1" from Just Music (ECM 1002) (LP)
1−1 Ketil Bjørnstad “The Sea” from The Sea (ECM 1545) (CD)
1−2 Ralph Towner “Icarus” from Diary (ECM 1032) (LP)
1−3 Paul Bley “Memories” from Fragments (ECM 1545) (LP)
1−4 David Darling “Cycle Song” from Cycles (ECM 1219) (LP)
1−5 Lester Bowie “The Great Pretender” from The Great Pretender (ECM 1209) (LP)
1−6 Richard Beirach “Elm” from Elm (ECM 1142) (LP)
休憩時間 Arild Andersen "305 W 18 St", "Last Song", "Outhouse" from Clouds In My Head (ECM 1059) (LP)
2−1 Lena Willemark, Ale Moller “Trilo” from Nordan (ECM 1536) (CD)
2−2 Meredith Monk “Gotham Lullaby” from Dolmen Music (ECM 1197) (LP)
2−3 Wolfgang Dauner “Output” from Output (ECM 1006) (LP)
2−4 Paul Giger “Zauerli” from Alpstein (ECM 1426) (LP)
2−5 Edward Vesala “Nan Madol” from Nan Madol (ECM 1077) (LP)
2−6 Ralph Towner “Oceanus” from Solstice (ECM 1060) (LP)
2−7 Richard Beirach “Ki” from Elm (ECM 1142) (LP)
閉演後 Pat Metheny Group "Are You Going With Me ?" from Offramp (ECM 1216) (CD)

 当日は月光茶房店主にしてECM完全コレクターの原田さん作成のスライド(後掲)を見ながらの話でした。「ECM Catalog」からのテキストも入って、レイアウトもばっちり。原田ワールド全開です。ジャケット写真への言及も多かったのですが、こちらも解像度の高い美しいスライドが用意され、話を引き立てていました。「ブレ」ジャケットの話なんて、写真自体の解像度が低いとお話にならないですからね。その「ブレ」ジャケットの話では、私は「ECMの音の眺め①」の抜粋のようなことをしゃべったのですが、原田さんは同じブレ/ボケでも、傷の多い金属板に映った景色を撮影した例(細かな傷にはピントが合っていて鮮明に見えるが、風景はぼけている)に言及するなど、さすが写真を再加工/再構成した作品を作成するアーティストらしい指摘がありました。
 一方、直前まで寝込んでいたという体調最悪な中、駆けつけてくれた多田さんも、随所で多田節を披露。その雰囲気を多少なりとも伝えるために、セットリスト裏面に再録した文章を引用しておきましょう。


The Sea (ECM 1545)
可笑しい。たしかジャズライフ誌のレビューで「脳死」なんていう語句が使われていたのだ。
輸入盤CDのジャケを見ただけで、何物かであることは告知された。ダーリング、リピダル、クリステンセン、というECMスタープレイヤーたちの、しかし、このまったくレアな取り合わせ、500枚を超えるECM盤のすべてのサウンドを演繹したわたしの耳はさまざまな可能性を当時最先端のスーパーコンピューターをも凌駕するスピードで計算している。しかもリーダーはピアノ。そしてタイトルは『海』。「たださん、さっきから止まってますけど、だいじょうぶですか?」 ディスク・ユニオンの四浦さんの声で。新宿歌舞伎町の夕刻。

数年後。ケティル・ビョルンスタが来日するらしい、公演情報はない、という報せが、南方プログレ左派もしくはジャズ批評社方面から、群馬県太田市金山町の失業手当受給中の3児の父親にもたらされる。セミの鳴き声で充満する8畳間のリスニングルームからノルウェー大使館に電話をする。「ムンクの講演のために来日するケティル・ビョルンスタさんですか?」 「いやこのひとはピアノも弾くんです、すごいひとなんです。」 数日後。大使館内でミニ・コンサートを催すという。何場所もともに大相撲中継をテレビで観ていた義父が「大使館に就職するのか?」ときく。「遊びに行ってくるだけだ」とこたえると哀しそうな顔をした。そんなところに就職できるわけないだろ。居候の身は夏の吹雪。

クラシックとオリジナルを丁寧な、文学的とも言えるタッチで披露したビョルンスタだった。広く関心を集めつつあったノルウェー・ジャズ・シーンに触れようと集まったジャズ業界の大御所のみなさま。ジョー・マネリってすごいのが出たよね! レーナ・ヴィッレマルクてのはスウェーディシュ・トラッドの文脈で、とか、おれはいつも声がでかい。
コンサートが終わって、え? ぜんぜんジャズじゃないじゃん、でもパーティのオードブルはおいしーし、早く帰りたいな、という大多数の沈黙の観客の中、おれとビョルンスタだけが大使館ソファーに座り、大使のカーリ・ヒルトさん若い女性と同じく若い女性の通訳と。これは近年稀にみるECMの奇跡だ、と、ビョルンスタに伝えようとカーリさんに言うと、わたしもこれがほんとうに好きなの、と、鮮やかな水色の虹彩が海のようなのにうっとりと永遠を感じる刹那の見つめ合い。ビョルンスタは満足そうなうなずきをして、この本にはわたしのレコーディングがすべて載っている、と、彼の名前がタイトルであるノルウェー語の分厚い大型本を見せてくれる。ちょっとこれを今日貸してくれ、と言うおれ。どよめく大使館の日本人スタッフ。大使のカーリさんが特別な許可を出す。

ノルウェーの石。北海道の海辺の石。手紙。新潟。鎌倉。

ビョルンスタのECM作品に対する評価や音楽のスタイルについての話題から、ジャズだ、非ジャズだ、という物言いや、抑圧とか欠如とか妙な話の展開をしたことがあった。その音楽がジャズであるかジャズでないか、気になるひとたちはいつもいる。ジャズの審美軸、ジャズ耳、そんなものは漬物の汁のように誰の耳をも侵してゆくものだし、そのことで聴こえなくなってしまう音楽もある。そういう自分もミイラになって、ジャズ耳を掲げて作品を断定したりしている。わたしたちはいつも多様ないびつを目指している真珠のようでありたいとECMを聴きはじめた頃は思っていたのに。『海』について、ECMカタログで最強の標題音楽だと啖呵を切るとき、そんなことを考えた。
数年後、小野好恵の遺稿集が出たとき、この『海』が、船上からの散骨の際に流されたことを知る。

彼らは The Sea Quartet としてノルウェーやイギリスで公演をした。
海は、この音楽のようだ。     (WEBサイトmusicircus ECMカタログ完成記念企画『11人のレビューワーにこっそりおききした 偏愛ECMベスト11』より抜粋)



 当日レコード係を担当してくださった新宿HAL'S Recordの池田さん、「ECM Catalog」出版元である東京キララ社の皆様、渋谷アップリンクのスタッフの皆様、そして当日ご来場いただいた皆様、どうもありがとうございました。



1曲目のためのスライド
編集者/アート・ディレクター魂が伝わってきます。

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音楽情報 | 21:29:01 | トラックバック(0) | コメント(0)
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